2015年「世界難民移住移動者の日」教皇メッセージ(2015.9.27)

2015年「世界難民移住移動者の日」教皇メッセージ 「すべての人の母である、国境のない教会」 親愛なる兄弟姉妹の皆さん  イエスは「最高の福音宣教者であり、ご自身が福音そのものです」(教皇フランシスコ使徒的勧告『福音の喜 […]

2015年「世界難民移住移動者の日」教皇メッセージ
「すべての人の母である、国境のない教会」

親愛なる兄弟姉妹の皆さん

 イエスは「最高の福音宣教者であり、ご自身が福音そのものです」(教皇フランシスコ使徒的勧告『福音の喜び』209)。イエスはもっとも弱い人々、社会の片隅に追いやられた人々のことを特別に気遣っておらます。そして、わたしたち皆に対して、もっとも弱い立場にある人々に心を配り、とりわけ新しい形の貧困と隷属関係の犠牲となっている人々のうちに、ご自分の苦しんでいる顔を見いだすよう招いておられます。主はいいます。「おまえたちは、わたしが飢えていたときに食べさせ、のどが渇いていたときに飲ませ、旅をしていたときに宿を貸し、裸のときに着せ、病気のときに見舞い、牢にいたときに訪ねてくれた」(マタイ25・35-36)。したがって、世の旅人であり、すべての人の母である教会は、イエス・キリストを愛すること、とりわけもっとも貧しく見捨てられた人々の中におられるイエスをあがめ、愛することを使命としています。こうした人々の中には、劣悪な生活条件やあらゆる種類の危険から逃れようとしている移住者や難民も間違いなく含まれています。こうした理由により、今年の世界難民移住移動者の日のテーマを、「すべての人の母である、国境のない教会」とすることにしました。

 教会は、「神は愛」(一ヨハネ4・8、16)であることを告げ知らせるために、両腕を広げてすべての人を分け隔てなく受け入れます。イエスは死んで復活した後、弟子たちにご自分をあかしし、喜びとあわれみの福音を告げ知らせるという使命を託しました。聖霊降臨の日、弟子たちは勇気と熱意をもって高間を出ました。聖霊の力が、弟子たちの疑念や不安を取り除き、彼らの語っていることをすべての人が自分の故郷のことばで理解できるようにしたのです。教会は初めから、全世界に開かれた心をもった母です。教会には国境がありません。この使命は、二千年、続いています。教会がすべての人の母であることは、最初の数世紀にすでに宣教を通して伝えられていました。そして、教父の著作の中でその後、詳しく説明され、第二バチカン公会議で取り上げられました。公会議教父は、教会の本性を説明するにあたり、「母なる教会(Ecclesia Mater)」のことを述べています。「母なる教会は、彼らをすでに自分のものとして愛と配慮をもって迎え入れます」(『教会憲章』14)。

 すべての人の母である、国境のない教会は、受容と連帯の文化を世界中に広めます。その文化の中では、役にたたない人、居場所のない人、使い捨てられる人などいません。キリスト教共同体は、こうした母性を十分に発揮しながら、道を整え、方向づけ、示します。そして、すべての人と共に忍耐強く歩み、祈りとあわれみのわざを通して人々に寄り添います。

 このことは今日、とりわけ重要です。実際、移住が非常に広範囲に渡っている現在、多くの人々が恐れと願いが詰まったスーツケースを持って故郷を離れ、より人間らしい生活環境を求め、希望を抱きながら危険な旅に出ています。しかし、こうした移住に伴い、キリスト教共同体の中ですら、移住者の生活や、迫害と貧困の経緯を知らずに、疑いや敵意を抱いてしまうことが少なくありません。そうした場合の疑いと偏見は、困窮している異邦人を敬意と連帯をもって受け入れるという聖書のおきてと矛盾しています。

 一方、イエスが見知らぬ人、苦しんでいる人、暴力と搾取の無実の犠牲者としてご自分を示されるとき、わたしたちは人間の悲惨さに触れるよう求める声と、イエスが残した愛のおきてを実践するよう求める声を、自分の良心の中に感じます。しかし、自分の本性上の弱さゆえに、「わたしたちは、主が受けた傷から用心深く距離を取ったキリスト者であろうとする誘惑を覚えることがあります」(『福音の喜び』270)。

 わたしたちは、信仰と希望と愛から生じる勇気によって、人間の悲惨さと自分の間の隔たりを縮めることができます。イエス・キリストは、移住者、難民、強制移住者、亡命者の中にいるご自分に、わたしたちが気づくのをいつも待っておられます。そして、こうした人々を通して、自分の財を分かち合い、時には手にした富の一部を差し出すよう呼びかけておられます。パウロ六世は、このことについて次のように述べました。「恵まれた人々は他の人々のために自分の持ち物の一部を惜しみなく分け与えるべきです」(教皇パウロ六世使徒的書簡『オクトジェジマ・アドヴェニエンス』23)。

 多文化が共存する現代社会において、教会も、連帯と交わりと福音宣教のための新たな取り組みを行うよう促されています。実際、移住現象に対処するためには、民族間、文化間の平和的共存を確かなものとするのに必要な価値観を深め、強めなければなりません。多様性と、異なる背景や文化をもつ人々との分かち合いを尊重する寛容さだけでは十分ではありません。教会は、まさに国境をなくすために、また、「自己防衛的で臆病で無関心で差別的な態度を捨てて、出会いの文化に基づく態度をとる」ために尽力します。「よりよく、より正しく、より兄弟愛に満ちた世界を築くことができるのは、出会いの文化だけです」(2014年世界難民移住移動者の日教皇メッセージ)。

 しかし、移住があまりにも広く行われているので、国家間、国際機関間で組織的な協力が積極的に行われなければ、それを有効に規制、管理することができなくなっています。移住は、すべての人に影響を及ぼしているからです。それは、その規模の大きさのためだけではありません。「引き起こされる社会、経済、政治、文化、ならびに宗教上の問題のため、そして国家および国際共同体に突きつける劇的な課題のため」でもあります(教皇ベネディクト十六世回勅『真理に根ざした愛』62)。

 移住への対策の適否、方法、必要基準に関する国際レベルの論議がしばしば行われています。国際、国内、地域レベルの様々な機関や団体が、移住を通してよりよい生活を求める人々を助けるために精力的に活動しています。彼らの惜しみない、賞賛に値する努力にもかかわらず、より決定的で建設的な行動が必要とされています。全世界に及ぶ協力ネットワークを用いた行動、すべての人の尊厳と重要性の保護を基盤とする行動が求められます。そうした行動は、人身売買という恥ずべき犯罪、基本的人権の侵害、あらゆる種類の暴力、抑圧、隷属状態との戦いにおいて、大きな成果を上げるはずです。しかし、共に行動するためには、次のことを認識しつつ、相互に助け合い、協力し、受け入れ、信頼することが求められます。「この現象の問題点に単独で対処できる国はどこにもありません。移住は現在、あまりに広範囲に広がっているために、入国と出国という二重の流れによってあらゆる大陸に影響を与えているからです」(2014年世界難民移住移動者の日教皇メッセージ)。

 移住者がより人間らしい生活を送れるように移住のグローバル化に対処するためには、愛と協力をグローバル化しなければなりません。また、しばしば紛争や食糧不足によって引き起こされる状況、民族全体が母国を去ることを余儀なくされる状況を確実に改善するために、より一層、努力することも必要です。

 移住者や難民との連帯は、より正しく公正な金融・経済秩序を世界規模で発展させるために必要な勇気と創造性を伴ったものでなければなりません。また、あらゆる真の発展にとって不可欠な条件である平和への取り組みも促進しなければなりません。

 親愛なる移住者と難民の皆さん、皆さんには教会の中心に特別な場所があります。そして皆さんは、教会が心をより広く開くために、また教会が母であることを全人類家族に示すために貢献しています。信仰と希望を失わないでください。エジプトに逃れる聖家族を思い起こしましょう。おとめマリアの母なる心と聖ヨセフの優しい心が、神は決して自分たちを見捨てないと信じ続けたように、皆さんも主において同じ希望を抱き続けることができますように。わたしは、皆さんをマリアとヨセフのご保護にゆだね、心から皆さんに使徒的祝福を送ります。

バチカンにて
2014年9月3日
教皇フランシスコ

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