展望 – 福音宣教する日本の教会の刷新のために

はじめに  このたび、殉教の地、長崎に集い、福音宣教のあり方を探る機会を与えられまし たことを神に感謝いたします。  1987年第1回福音宣教推進全国会議において、生活から信仰の見直しをする ことが確認されました。「信仰 […]

はじめに  このたび、殉教の地、長崎に集い、福音宣教のあり方を探る機会を与えられまし たことを神に感謝いたします。

 1987年第1回福音宣教推進全国会議において、生活から信仰の見直しをする ことが確認されました。「信仰を掟や教義を中心としたとらえ方から、『生きるこ と、しかもともに喜びをもって生きること』を中心としたとらえ方に転換したいと 思います」。これが第1回福音宣教推進全国会議の答申に対する司教団のメッセー ジの中心理念でした。私たちは、このメッセージに心から共感し、思いを共有し て、不十分ながらここまで歩みを進めてまいりました。

 1990年の司教総会で第2回福音宣教推進全国会議のテーマが「家庭」と決ま り、さらに昨年7月に、全国から寄せられた各教区の課題案をもとにして「家庭の 現実から福音宣教のあり方を探る」という課題が司教団から出されました。これに 基づき、私たちは、社会、家庭、教会におけるさまざまな現実の中にキリストを見 いだすために、種々の分かち合いを通して、信仰のうちに一人ひとりの喜びや苦し み、悲しみに共感し、問題を共有することのできる実りを祈り求めてまいりまし た。

 この4日間、私たち参加者一同は、試行錯誤を繰り返しながらも、真剣に分かち 合いを重ねました。その中で、とかく自分の所属している教区、小教区にしか思い が届かない者にとって、全国的視野で眺めることの大切さと、聖霊の照らしなしに は福音宣教の行方を見定めることができない、ということに改めて気づきました。

社会

 私たちの社会には、お金や学歴を中心とした見方、行きすぎた管理体制、能力主 義、利己主義の傾向が目立ちます。それは日本さえよければ他の国はどうでもよい という考えにもなります。個性や多様性が認められず、画一化の傾向もあります。 私たちは、このような日本の社会構造のゆがみが、家庭にとって重荷となっている 現実も見ています。しかし、私たちは、社会の現実そのものを悪とみなすのではな く、福音の芽生えもあることを認めています。例えば、身の危険を冒してまでも他 者にかかわる海外へのボランティア活動、病者・高齢者の介護、弱い立場におかれ ている人びととともに歩むなど、多くの姿を見いだします。このように、社会の中 に働いている福音の光を決して見落さないようにしたいものです。

家庭

 現代の家庭は、社会のいろいろな影響を受けています。例えば生命を大切にし、 親子・夫婦で対話をし、交わりのある家庭でありたいと願ってはいても、その実現 は用意ではありません。それらの家庭の願いが実現されるには、社会の風潮に流さ れない努力と、それを支える神の恵みが不可欠です。ところがその神の恵みを仲介 する教会そのものが、家庭と家庭を取り巻く困難な状況とあまりかかわってこなか った事実を認めないわけにはいきません。

 現代社会のただ中で生きる家庭を受け入れ、支えることができるようになるため には教会共同体の刷新が不可欠です。教会共同体が刷新されるならば、さまざまな 状況にある人びとの中にキリストの現存を見いだすことができるでしょう。いろい ろなことで悩んでいる家庭には、十字架を担っておられるキリストを、そしてゆる し合い支え合う家庭には、復活したキリストを見いだすことができます。  また、教会共同体が刷新されれば、教会は、どのような人にとっても心温まる家 庭となれるでしょう。

教会共同体

 この教会共同体刷新のために必要な優先課題として、以下の5項目が参加者の総 意として浮かび上がってきました。また、相互に養成し合うこと、結果をあせらず 継続的に取り組むこと、既に一部では始まっていますが、教区を超えた協力が求め られています。

(1)分かち合いの理解と促進

 ことばによる分かち合いにとどまらず、物や時間やお金などを含めて自分自身の 痛みをも伴う生き方分かち合う、このような生き方が福音宣教の重要な柱として定 着していくことが大切であり、さらに「福音宣教」と「分かち合い」との関係をよ り明確にしていくことが求められています。 ・きめ細かな準備、対象や趣旨に応じた良いプログラム・手引きの作成、聴くこと の訓練。・技術だけでなく霊的な奉仕を担うことのできる進行役(リーダー)の養 成。 ・信徒間のみでなく、司祭相互、信徒・修道者・司祭・司祭間での分かち合いの必 要。

(2)共感・共有ができる共同体を目指して

 今回の第2回福音宣教推進全国会議への取り組みにおいて、「共感と共有を求め て家庭の現状を見つめ」て歩んできましたが、それをさらに進めるために以下の事 柄を優先すべきと考えます。 ・弱い立場に置かれている人びと(滞日・在日外国人、難民、少数民族、被差別部 落の人びと、障害者、病者、高齢者、子どもなど)とともに歩む。 ・行事中心の運営から脱皮し、福音宣教を優先する小教区共同体へ。 ・まだ定着していない女性の参画の場をさらに広げる。 ・現在の刷新の動きを理解しきれずにいる人びとを受け入れ、さまざまな事情で教 会から足が遠のいている人びととの交わりを回復する。 ・共同体づくりの方針策定、プログラムづくり(司教団、宣教研究所、諸団体の豊 富な経験を提供)

(3)現実を識別して生きる信仰者の養成

 他者の痛みを敏感に感じる心を育て、個人的信仰からともに歩む信仰へと成長し ていくためにはより深い信仰を求めて生涯にわたって継続的に養成される必要があ ります。また、信徒・修道者・司祭・司教が協働できるようになるための養成も必 要であると思われます。・研修センターなどの活用・ ・小教区の現場へ出向く研修チームの養成 ・教区に恒常的養成機関を設置する。

(4)典礼の工夫

 互いの交わりを深め、生活に根ざした信仰者を育成するために、典礼の刷新は欠 かせません。特に主日のミサを生き生きとしてものにするためのさらなる工夫を求 めます。

(5)青少年の信仰養成

 青少年に対する教会の姿勢を抜本的に刷新する必要があります。青少年がありの ままに受け入れられ信頼される環境と、具体的な場をつくることは急務です。特 に、指導者の養成、教会学校の充実(カリキュラム、専従者の配置)などが求めら れます。

刷新運動の継続

 今回の第2回福音宣教推進全国会議への歩みの過程で、私たちは、その準備の一 つひとつが、単なる「会議」のための準備という種類のものではなく、日本の教会 全体を刷新する「運動」そのものであるという確信を持つことができました。

 この「NICE運動」と呼ぶこともできる教会刷新の動きが聖霊の導きによるも のであることを信じて、これからも日本の信者全員が一致協力して、これを継続・ 促進していくことができるよう、司教団の優先課題として受け止めていただきたい と願っています。

むすび

 この答申を結ぶにあたり、会議の間、そしてその前後、全国の善意の方々から寄 せられた数多くのお祈りに対して、心からの感謝の意を表します。もし、私たちが 少しでも自分たちの任務を果たし得たとすれば、それは、この方々の祈りによるも のです。

 この会議が目指した共感・共有は、体験の領域に属するもので、言葉による表現 を超えるものです。しかし、同時に、会議である以上、何らかの言葉で表現せざる を得ないものでもあります。参加者一同、この点でとまどいました。この答申の背 後には、言葉にならない無数の共感や共有を目指した実践の積み重ねがあり、むし ろこのことこそ真実の答申であることを申し添えさせていただきます。

 日本におけるカトリック信仰の故郷といわれる長崎でこの会議に参加できたこと は、なにものにもまさる喜びでありました。

 最後に、この会議のために誠心誠意ご奉仕くださった方々、特に地元長崎大司教 区の皆様に心からお礼を申し上げ、これからの日本の教会の「展望」として答申い たします。

1993年10月24日
第2回福音宣教推進全国会議参加者一同

PAGE TOP