教皇ベネディクト十六世の237回目の一般謁見演説 ビンゲンの聖ヒルデガルト(二)

9月8日(水)午前10時30分から、パウロ六世ホールで、教皇ベネディクト十六世の237回目の一般謁見が行われました。この謁見の中で、教皇は、前週に続いて「ビンゲンの聖ヒルデガルト」について解説しました。以下はその全訳です […]


9月8日(水)午前10時30分から、パウロ六世ホールで、教皇ベネディクト十六世の237回目の一般謁見が行われました。この謁見の中で、教皇は、前週に続いて「ビンゲンの聖ヒルデガルト」について解説しました。以下はその全訳です(原文イタリア語)。

なお教皇は、この謁見で、英語を話す巡礼者に向けて英語であいさつを行った後、間近に迫った英国訪問に関して次のメッセージを読み上げました(原文英語)。教皇の英国訪問は9月16日(木)から19日(日)まで行われる予定です。
「一週間後に行われる英国訪問をとても楽しみにしています。グレートブリテンのすべての人々に心からのあいさつを送ります。この訪問の準備のために甚大な作業が行われていることを存じております。この準備を行ってくださっているのは、カトリック共同体だけでなく、英国政府と、スコットランド、ロンドン、バーミンガムの行政機関、マスメディア、そして保安機関です。そこでわたしは申し上げたいと思います。予定されたさまざまな行事が真の意味で喜ばしい祭典となるために行われているご努力に本当に感謝します。何よりもこの訪問が成功し、英国教会と英国国民の上に神の恵みが豊かに注がれることを祈っておられる、数知れない人々に感謝致します。
 9月19日(日)にバーミンガムで尊者ジョン・ヘンリー・ニューマンを列福できることはとくにわたしの喜びです。この真に偉大なイギリス人は模範的な司祭生活を送り、多くの著作を通じて、英国と世界中の多くの地域の教会と社会に永遠の貢献を与えました。いっそう多くの人々がニューマンの豊かな知恵を学び、その調和のとれた聖なる生活の模範に励まされることを望み、また祈っています。
 英国国民を構成するさまざまな宗教的・文化的伝統を代表するかたがた、また国家・政治指導者のかたがたとお目にかかれることも楽しみにしております。わたしを迎えてくださる(エリザベス二世)女王陛下と(ローワン・ウィリアムズ)カンタベリー大主教に心より感謝申し上げます。お目にかかれることを楽しみにしております。多くの場所と人々を訪問できないことが残念ですが、皆様すべてを祈りの中で心にとめていることを知っていただきたいと思います。英国国民の皆様の上に神の祝福がありますように」。


 親愛なる兄弟姉妹の皆様。

 今日はビンゲンの聖ヒルデガルトに関する考察をもう一度取り上げて続けたいと思います。この中世の重要な女性は、霊的な知恵と聖なる生活において際立っていたからです。ヒルデガルトの神秘的幻視は、旧約の預言者の幻視に似通っています。ヒルデガルトは、当時の文化的・宗教的概念で自らを表現しながら、神の光のうちに聖書を解釈して、生涯のさまざまな状況に聖書を当てはめました。そのため、ヒルデガルトのことばを聞いた人々は皆、一貫した献身的なしかたでキリスト教的生活を実践するよう促されました。聖ベルナルドゥスにあてた手紙の中で、このラインラントの神秘家はいいます。「幻視はわたしの全存在を引きつけました。わたしは肉体の目で見るのではなく、もろもろの神秘がわたしの精神に現れたのです。・・・・わたしは詩編、福音書、そしてその他のさまざまな書に示された深い意味を知っています。それが幻視のうちにわたしに示されたからです。この幻視はわたしの心と魂の中で炎のように燃え上がります。そして、わたしがテキストの深い意味を悟るよう教えてくれるのです」(『書簡集』:Epistolarium pars prima I-XC, CCCM 91)。
 ヒルデガルトの神秘的幻視は豊かな神学的内容をもっています。それは救いの歴史の中のおもな出来事を参照し、主要な詩的・象徴的言語を用います。たとえば『スキヴィアス(道を知れ)』(Scivias)という有名な著作の中で、ヒルデガルトは、35の幻視によって、世界の創造から世の終わりに至るまでの救いの歴史のさまざまな出来事を要約します。ヒルデガルトは、特徴的な女性的感性をもって、とくに著作の中心部分で、受肉によって実現された神と人類の神秘的婚姻というテーマを展開します。十字架の木の上で、神の子と、花嫁である教会の婚姻が行われます。花嫁である教会は、聖霊の愛のうちに、新しい子らを神にささげることのできる恵みで満たされます(『スキヴィアス』:Scivias, Visio tertia, PL 197, 453C参照)。
 わたしたちはすでにこの短い引用から、神学が女性からも特別な貢献を受けることができることを目の当たりにします。なぜなら、女性はその特別な知性と感性をもって神と信仰の神秘について語ることができるからです。そのためわたしは、神学に奉仕するすべての女性の皆様を励まします。深い教会的な精神をもって神学に奉仕してください。祈りによって自らの考察を深めてください。とくにビンゲンのヒルデガルトのような輝かしい模範に代表される、きわめて豊かな中世の神秘的伝統(そのあるものは今なお探究されていません)に目を向けてください。
 ラインラントの神秘家ヒルデガルトは他の著作も著しました。そのうちの二つはとくに重要です。なぜならそれらは、『スキヴィアス』と同じように、ヒルデガルトの神秘的幻視を報告しているからです。すなわち、『生活の功徳』(Liber vitae meritorum)と、『神の御業』(Liber divinorum operum. 本書はDe operatione Deiとも呼ばれます)です。『生活の功徳』では神についての独特の力強い幻視が語られます。すなわち、神はその力と光をもって宇宙を生かすのです。ヒルデガルトは人間と神の深い関係を強調します。そして、人間を頂点とする全被造物が三位一体からいのちを与えられることをわたしたちに思い起こさせます。『生活の功徳』という著作の中心は、美徳と悪徳の関係です。人間は日々、神への歩みを妨げる悪徳のいざないと、自分を助ける美徳に出会うからです。本書は、人が悪から離れるように招きます。それは、神に栄光を帰し、有徳な生涯を送った後に「喜びに満たされた」いのちに入るためです。多くの人がヒルデガルトの傑作と考える『神の御業』では、神との関係において、そして人間を中心としながら、創造についてあらためて述べます。そこでは聖書的・教父的な、キリストを中心とした力強い思想が示されます。聖ヒルデガルトは、聖ヨハネによる福音書の序文から着想を受けた5つの幻視を示します。そして、御父に向けた御子のことばを語ります。「あなたがお望みになり、わたしにゆだねてくださったすべてのわざを、わたしはよい到達点へと導きました。そしてご覧ください。わたしはあなたのうちにおり、あなたはわたしのうちにおられます。だからわたしたちは一つです」(『神の御業』:Liber divinorum operum, Pars III, Visio X, PL 197, 1025A)。
 最後に、ヒルデガルトは他の著作の中で、中世の女子修道院の多様な関心と生き生きとした文化を示します。それは今でも人々が中世について抱いている偏見とは異なるものです。ヒルデガルトは医学と自然科学、また音楽にも携わりました。芸術的才能に恵まれていたためです。彼女は賛歌、アンティフォナ、聖歌も作曲しました。これらは『天の啓示の調和の交響楽』(Symphonia Harmoniae Caelestium Revelationum)という標題でまとめられています。この音楽はヒルデガルトの修道院で喜びをもって演奏され、落ち着いた雰囲気を広めました。この音楽は現代にまで伝わっています。ヒルデガルトにとって、全被造物は聖霊の交響楽です。聖霊ご自身が、喜びと歓喜の歌声だからです。
 ヒルデガルトの名声により、多くの人が彼女の助言を求めました。そのため、彼女の書いた多くの書簡が伝わっています。男子と女子の修道共同体、司教や大司教がヒルデガルトに手紙を送りました。ヒルデガルトのこたえの多くは現代のわたしたちにとっても意味をもっています。たとえば、ある女子修道共同体にヒルデガルトはこう書き送りました。「深い熱心さをもって霊的生活を大切にしなければなりません。最初、この労苦は辛いものです。なぜなら、空想や、肉の喜び、その他これに類することがらを放棄しなければならないからです。しかし、聖性に心を捕らえられるなら、聖なる魂は世を軽蔑することを甘美で好ましいことだと思うようになります。霊魂が枯れないように、ただひたすら知性をもって注意することが必要です」(E. Gronau, Hildegard. Vita di una donna profetica alle origini dell’età moderna, Milano 1996, p. 402)。皇帝フリードリヒ・バルバロッサ(Friedrich I, Barbarossa 1121以降頃-1190年、神聖ローマ皇帝在位1152-没年)が正統な教皇アレクサンデル3世(Alexander III 在位1159-1181年)に対して3人の対立教皇を立てて教会分裂を引き起こしたとき、ヒルデガルトは幻視から霊感を受け、ためらうことなく皇帝にこう述べました。皇帝も神の裁きに服さなければなりません。あらゆる預言者の特徴である大胆さをもって、ヒルデガルトは皇帝に対して、これは神のことばだとしてこう書き送りました。「災いだ、災いだ。わたしを無視する邪悪な者のよこしまな行いは。ああ王よ。お前が生きていたいと思うならば、耳を傾けよ。もしそうしなければ、わたしの剣はお前を貫くだろう」(ibid., p. 412)。
 生涯の晩年、高齢と移動に際しての悪条件にもかかわらず、ヒルデガルトは自分に与えられた霊的権威をもって、旅行を行います。それは、人々に神について語るためでした。厳しい口調で語るときにも、すべての人が彼女のことばに熱心に耳を傾けました。人々はヒルデガルトが神が遣わした使者だと考えたからです。ヒルデガルトは何よりも修道共同体と聖職者が自分の召命と一致した生活を送るよう求めました。とくにヒルデガルトはドイツのカタリ派運動に反対しました。「カタリ派」とは文字どおりの意味では「純粋な人々」を意味します。彼らはとくに聖職者の腐敗と戦うために、教会の徹底的な改革を行うことを主張しました。ヒルデガルトは、カタリ派が教会の本性そのものを覆そうとしていることを厳しく非難しました。そして、真の教会共同体の刷新は、構造改革によってではなく、むしろ真剣な悔い改めの精神と、労苦して回心の道を歩むことによって成し遂げられることを彼らに告げました。これはわたしたちが決して忘れてはならないメッセージです。いつも聖霊に願い求めたいと思います。ビンゲンの聖ヒルデガルトのような勇気ある聖なる女性を教会の中で立ち上がらせてください。彼女たちが神から与えられたたまものを大事に用いながら、現代の共同体と教会の霊的成長のために特別に貴い貢献を果たすことができますように。

略号
CCCM Corpus Christianorum Continuatio Mediaevalis
PL Patrologia Latina

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