教皇ベネディクト十六世の239回目の一般謁見演説 英国司牧訪問を振り返って

9月22日(水)午前10時30分から、サンピエトロ広場で、教皇ベネディクト十六世の239回目の一般謁見が行われました。この謁見の中で、教皇は、9月16日から19日まで行った英国司牧訪問を振り返りました。以下はその全訳です […]


9月22日(水)午前10時30分から、サンピエトロ広場で、教皇ベネディクト十六世の239回目の一般謁見が行われました。この謁見の中で、教皇は、9月16日から19日まで行った英国司牧訪問を振り返りました。以下はその全訳です(原文イタリア語)。

謁見の終わりに、教皇は、9月20日から27日までオーストリアのウィーンで開催されている国際カトリック-正教会神学的対話のための合同委員会のための呼びかけをイタリア語で行いました。
「今週、ウィーンで、国際カトリック-正教会神学的対話のための合同委員会総会が開催されています。現在の会期の研究テーマは、『普遍教会の交わりにおけるローマ司教の役割――とくに第一千年期を参照しつつ』です。主イエスのみ心に従い、現代の教会が直面する問題を考えるならば、わたしたちは諸教会間の完全な交わりを回復するという課題に真剣に取り組まざるをえません。皆様にお願いします。この委員会の作業と、洗礼を受けた人々の間の平和と和解の進展と強化のために心からお祈りください。それは、わたしたちが世に対していっそう真正な福音のあかしを行えるためです」。


 親愛なる兄弟姉妹の皆様。

 今日は、この数日間、神が行うことを可能にしてくださった、英国への使徒的訪問についてお話ししたいと思います。今回の訪問は公式訪問であると同時に、イギリスという、過去も現在も豊かな文化と信仰をもつ国民の心に向けての巡礼でした。この訪問は歴史的事件といえます。それは英国国民と聖座の長く複雑な関係の歴史の中で新たな段階を画すものだからです。訪問のおもな目的は、ジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿(1801-1890年)の列福でした。ニューマン枢機卿は近代のもっとも偉大な英国人の一人であるとともに、傑出した神学者また聖職者です。実際、列福式は使徒的訪問の頂点となりました。今回の使徒的訪問のテーマは、福者ニューマンの枢機卿紋章のモットー「心は心に語りかける」からとられたものです。高貴な国英国での充実したすばらしい4日間の間、わたしは英国に住む人々の心に語りかけることができましたが、英国の人々もわたしの心に語りかけてくださいました。それはとくに人々のご参加と、信仰のあかしによってです。実際わたしは、キリスト教の遺産が今も社会生活の至るところに強く存在し、活動しているのを目にすることができました。英国人の心と生活は神の存在に開かれています。今回のわたしの訪問は、多くの形で信仰心が表明されるのをますます明らかにすることができました。
 英国訪問の第一日から、そして滞在中の全期間にわたって、わたしはあらゆるところで、政府当局者、社会の諸機関代表者、諸宗教代表者、とくに市民の皆様から温かい歓迎を受けました。わたしはとくにカトリック共同体とその牧者に思いを致します。彼らは英国では少数者ですが、高い評価と尊敬を得ています。そして、イエス・キリストを喜びをもって告げ知らせ、主の光を輝かせ、とくにもっとも小さくされた人々を代弁しようと努めています。これらすべてのかたがたに、あらためて深く感謝申し上げます。皆様が示された熱心さと、わたしの訪問が成功するためにほむべきしかたで勤勉に働いてくださったことのゆえにです。今回の訪問の思い出はわたしの心の中にいつまでもとどまることでしょう。
 最初の行事はエディンバラでのエリザベス二世女王陛下との会見でした(9月16日)。女王陛下は王配であられるエディンバラ公とともに、英国国民を代表して丁重にわたしをお迎えくださいました。それはまことに心のこもった会見でした。わたしたちの会見を特徴づけたのは、世界の人々の福祉と社会におけるキリスト教的価値観の役割に対するある種の深い関心の共有でした。スコットランドの歴史的首都エディンバラで、わたしは、さまざまな美しい芸術と、豊かな伝統、また深いキリスト教に根ざした文化のあかしをたたえることができました。わたしはこのことを女王陛下と政府当局者の皆様に対する演説の中でお話しできました。そして、キリスト教のメッセージが英国国民の言語、思想、文化の完全な一部となってきたことを思い起こしました。わたしは英国が国際社会の中で過去も現在も果たしてきた役割についても語りました。そして、北アイルランドにおける公正で恒久的な和平への取り組みの重要性にも言及しました。
 若者と子どもたちによる喜ばしい祭典の雰囲気はエディンバラ滞在を活気づけてくれました。次いでわたしは、美しい公園の町グラスゴーに赴き、ベラハウストン・パークで今回の訪問での最初のミサを司式しました。それは英国のカトリック信者がとても大切にしている深い霊性に基づく一時でした。その日がスコットランドの最初の宣教者である聖ニニアン(360頃-432年頃)の記念日であることを考えると、なおさらこの思いは深まりました。会衆は注意深く共通の祈りをささげ、伝統的な旋律と親しみやすい歌によって祭儀はいっそう荘厳なものとなりました。この会衆に向かって、わたしは文化を福音化することの重要性を述べました。とくに現代、相対主義が広まり、人間本性に関する不可変の真理をあいまいにする恐れがあるからです。
 第二日(9月17日)にはロンドン訪問を始めました。わたしはまずロンドンでカトリック教育界の人々と会見しました。カトリック教育は英国の教育組織の中で重要な役割を果たしています。本当に家庭的な雰囲気の中で、わたしは教育者たちに語りかけました。そして成熟した責任ある市民の教育における信仰の重要性について述べました。共感をもって盛大にわたしを歓迎してくださった青年と若者の皆様に対して、わたしは勧めました。限定された目的を追求したり、楽な道を選ぶことで満足しないでください。むしろ、より大きなこと、すなわち真の幸福を目指してください。真の幸福は神のうちにのみ見いだすことができます。次いで、英国に多数存在する諸宗教の代表者のかたがたとの会見の中で、わたしは真の対話が必要であり、それを避けることはできないことを述べました。真の対話が実り豊かなものとなるためには、互恵性の原則の尊重が必要です。同時にわたしは、すべての宗教の共通の地盤は聖性の探求であることを明らかにしました。この共通の地盤が、友愛と信頼と協力関係を強めるのです。
 (ローワン・ウィリアムズ)カンタベリー大主教への友好訪問は、カトリックの人々と聖公会の人々を結びつけるキリスト教のメッセージをともにあかしする取り組みを強めるためのよい機会となりました。その後、今回の使徒的訪問の中でもっとも重要な行事の一つが行われました。すなわち、英国議会議事堂ホール(ウェストミンスター・ホール)における行政、政治、外交、科学、宗教、文化、経済関係者との会見です。この貴重な場で、わたしは次のことを強調しました。立法家は、宗教を解消すべき問題と考えるべきではありません。むしろ宗教を、国家の歴史の歩みと公的議論に積極的に貢献する要素と考えるべきです。とくに宗教が、社会生活のさまざまな分野における決定の倫理的基盤として不可欠の重要性をもつことを考えなければなりません。
 同じ荘厳な雰囲気の中で、わたしはウェストミンスター・アベイ(ウェストミンスター聖ペトロ聖堂)に赴きました。ペトロの後継者が、英国が古来キリスト教に根ざすことを象徴的に示す、この礼拝の場に入ったのはこれが初めてです。英国のさまざまなキリスト教共同体とともに行われた前晩の祈りは、カトリック教会と聖公会の関係にとって重要なときとなりました。「キリストの愛がわたしたちを一つに集めてくださった(Congregavit nos in unum Christi amor)」。聖歌隊がこのように歌う中を、わたしたちはともに聖エドワード証聖王(1003/1004-1066年、イングランド王在位1042-没年)の墓前で祈りました。そして、わたしたちは皆、神を賛美しました。神はわたしたちを完全な一致へと導いてくださるからです。
 土曜(9月18日)の午前に行われた(デーヴィッド・キャメロン)首相との会見から、英国政界の主だった代表者との一連の会見が始まりました。次いで主の貴い御血にささげられたウェストミンスター大聖堂でミサが行われました。このミサは信仰と祈りによる特別なときでした。そこでは「ローマ」と「英国」の典礼音楽の豊かで貴重な伝統も示されたからです。ミサには英国の長い歴史をもつキリスト教信者の民に霊的に結ばれた、さまざまな教会の代表者も参加しました。大聖堂の外でミサにあずかった多数の若者とお会いできたことは大きな喜びでした。若者の皆様は、熱心さと期待と不安をもってミサに参加しました。こうして彼らは、勇気をもってあかしし、行動をもって連帯し、惜しむことなく献身的に福音に仕えようとする新たな世代の代表者となろうとする望みを示したのです。
 (ロンドンの)教皇庁大使館で、わたしは、一部の聖職者と修道者から虐待を受けた被害者のかたの幾人かとお会いしました。それは深い感動と祈りのときでした。そのすこし後に、わたしは、教会の中での子どもと若者の保護に携わる専門家とボランティアのグループともお会いしました。この活動は、教会の司牧活動において現在、とくに重要な要素です。わたしはこのかたがたに感謝するとともに、この活動を続けてくださるよう励ましました。こうした活動は、若者を尊重し、教育し、育成するために奉仕する教会の長い伝統に根ざしているからです。さらにロンドン滞在中に、わたしは、多くの看護師とボランティアの貴重な協力のもとに貧者の小さい姉妹修道女会が運営する高齢者施設を訪問しました。高齢者を迎え入れるこの施設は、教会が常に高齢者に深い関心を抱いてきたことを表すとともに、英国のカトリック信者が行っている、年齢と身分を問わずあらゆるいのちを尊重する取り組みをも示します。
 すでに申し上げたとおり、今回の英国訪問の頂点はジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿の列福でした。ニューマン枢機卿はもっとも有名な英国人だからです。列福式に先立つ準備として、特別な前晩の祈りが行われました。この前晩の祈りは土曜の晩、ロンドンのハイド・パークで、深い専心の雰囲気のもとに開催されました。多数の信者のかたがた、とくに若者の皆様に、わたしはニューマン枢機卿の輝かしい姿を示そうと望みました。この知識人また信仰者の霊的なメッセージは次の証言に要約されます。知識への道は自分の「自我」の中に閉ざされていません。むしろそれは、道であり、真理であり、いのちであるかたへの開きと回心と従順です。列福式はバーミンガムでの主日の荘厳な感謝の祭儀の中で行われました(9月19日)。グレートブリテンとアイルランド全土から来た大勢の人々と、他の多くの国々の代表者がこれに参加しました。この感動的な式は、この知性豊かな研究者、優れた著述家また詩人、知恵ある神の人の姿をいっそう輝かせました。ニューマンの思想は良心を照らしました。そして今も特別な魅力を放っています。この福者がとくに英国の信者と教会共同体に霊感を与えてくださいますように。それは、この高貴な国英国が現代においても福音的生活の豊かな実りを生み出し続けるためです。
 イングランドとウェールズ司教協議会およびスコットランド司教協議会との会見は、この偉大な祭典が行われ、グレートブリテンのカトリック共同体の心が深く一致した日の終わりに行われました。
 親愛なる兄弟姉妹の皆様。今回の英国訪問の中で、わたしはいつもと同じように、まずカトリック共同体を支えたいと望みました。そして、彼らが変わることのないまことの倫理をうむことなく擁護するように励ましました。福音があらためて取り上げ、照らし、確認した倫理は、真の意味で人間的で公正で自由な社会の基盤です。わたしは英国に住む人々すべての心にも、人間の真実のあり方について、人間がもっとも深く必要とすることについて、人間の究極的な目的について語りかけたいと望みました。世界の文化・経済の十字路である英国の市民に語りかけたとき、わたしは西洋世界全体を目の当たりにしました。そして、西洋文明の理性と対話し、西洋文明そのものを生み出した、福音の永遠の新しさを伝えました。この使徒的訪問はわたしの深い確信を強めてくれました。古くからの歴史をもつヨーロッパの国々はキリスト教的な魂をもっています。このキリスト教的な魂が、それぞれの民族の「才能」と歴史とともに一つの全体を形づくります。そして、教会はこの霊的・文化的伝統をいつまでも保つために努力し続けます。
 福者ジョン・ヘンリー・ニューマンの人と著作は深い現代的意味をもち続けています。それはすべての人に知られる価値があります。ニューマンは著作『キリストを輝かす』の中でいみじくもこう述べています。「キリストの香りを至るところに広め、すべての人の生活がただキリストのみによって輝くものとなること」。このように努めるキリスト信者の望みと努力を福者ニューマンが支えてくださいますように。

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