教皇ベネディクト十六世は、復活節第五主日の5月6日（日）正午に、教皇公邸書斎の窓から、サンピエトロ広場に集まった信者とともに「アレルヤの祈り」（復活祭から聖霊降臨の主日まで「お告げの祈り」の代わりに唱えられる祈り）を行いました。以下は、祈りの前に教皇が述べたことばの全文の翻訳です（原文イタリア語）。
親愛なる兄弟姉妹の皆様。
復活節第五主日である今日の福音は、ぶどう畑のたとえをもって始まります。「イエスは弟子たちにいわれた。『わたしはまことのぶどうの木、わたしの父は農夫である』」（ヨハネ15・1）。聖書の中で、イスラエルはしばしば、ぶどう畑にたとえられます。このぶどう畑は、神に忠実に従うなら豊かな実を結びます。しかし、神から離れるなら不毛なものとなり、詩編104（15節）が述べるような「人の心を喜ばすぶどう酒」を作り出すことができません。神のまことのぶどう畑、まことのぶどうの木は、イエスです。イエスはご自分の愛のいけにえによってわたしたちに救いを与えてくださいます。このぶどう畑の一部となるための道を開いてくださいます。キリストが父である神の愛にとどまるのと同じように、師であるかたのことばによって知恵あるしかたで手入れされた弟子たちは（ヨハネ15・2－4参照）、師であるかたと深く結ばれているなら、豊かな実を結ぶ枝となります。聖フランソア・ド・サル（François de Sales 1567－1622年）は述べます。「ぶどうの幹に一致し結合している枝は実を結ぶけれども、それは自分自身の力によるものではなく幹の力による。さて、われらは、あたかも肢体が頭に一致しているように、愛徳によって、あがない主に一致している。それゆえ、われらの実と善業とは、その価値をあがない主から受けるのであって、永遠のいのちに値するものとなる」（『神愛論』：Trattato dell’amore di Dio, XI, 6, Roma 2011, 601〔岳野慶作訳、中央出版社、1962年、821頁〕）。
洗礼の日に、教会はわたしたちを枝のようにイエスの過越の神秘に、すなわちイエスの人格そのものに接ぎ木します。わたしたちは神のいのちにあずかるためにこの根から貴重な樹液を与えられます。わたしたちも弟子たちと同じように、教会の牧者の助けによって、主のぶどう畑で、主の愛に結ばれて成長します。「わたしたちがもたらすべき実りが愛であるならば、愛の前提はまさにこの『とどまる』ことであり、それは主から離れることのない信仰と深く結びついています」（『ナザレのイエス』：Gesù di Nazaret, Milano 2007, 305〔里野泰昭訳、春秋社、2008年、336頁〕）。イエスとつねに一致し続けること、イエスに従うことが不可欠です。わたしたちは、イエスを離れては何もできないからです（ヨハネ15・5参照）。5世紀にガザの荒れ野で生活した、預言者ヨアンネスの手紙の中で、ある信者が次の質問をしています。「人間の自由と、神なしに何ごとも行うことができないことが、どのようにして同時に成り立ちうるでしょうか」。修道士ヨアンネスは答えていいます。「人は、心を善へと向け、神に助けを願うなら、自らのわざを果たすために必要な力を受ける。だから、人間の自由と神の力は手を携えて進むのだ。このことが可能なのは、善は主に由来するが、それを成し遂げるのは主を信じる者だからである」（『書簡763』：Epistula 763, SC 468, Paris 2002, 206参照）。キリストに真に「とどまる」ことが、祈りの力を保証します。シトー会の福者イニーのグエリクス（Guerricus Igniacensis 1070／1080－1157年）が述べるとおりです。「ああ主イエスよ････わたしたちはあなたなしに何ごともなしえません。実際、あなたはあなたの庭のまことの庭師、造り主、耕し手、守護者です。あなたはこの庭にみことばをもって種を蒔き、それを御霊でもって潤し、み力によって成長させてくださいます」（『賛歌への信心を促すための説教』：Sermo ad excitandam devotionem in psalmodia, SC 202, 1973, 522）。
親愛なる友人の皆様。わたしたちは皆、ぶどうの枝のようなものです。このぶどうの枝は、日々、祈り、秘跡にあずかり、愛のわざを行い、主と一致することによってのみ生きます。まことのぶどうの木であるイエスを愛する人は、信仰の実を結び、豊かな霊的収穫を刈り取ります。神の母に願おうではありませんか。わたしたちがイエスに固く接ぎ木されたままでいることができますように。そして、わたしたちのすべてのわざがイエスから始まり、イエスのうちに完成しますように。
略号
SC Sources Chrétiennes