教皇ベネディクト十六世の326回目の一般謁見演説 ヨハネの黙示録における祈り(二)

9月12日(水)午前10時30分から、パウロ六世ホールで、教皇ベネディクト十六世の326回目の一般謁見が行われました。この謁見の中で、教皇は、2011年5月4日から始めた「祈り」についての連続講話として、前回に続いて「ヨ […]


9月12日(水)午前10時30分から、パウロ六世ホールで、教皇ベネディクト十六世の326回目の一般謁見が行われました。この謁見の中で、教皇は、2011年5月4日から始めた「祈り」についての連続講話として、前回に続いて「ヨハネの黙示録における祈り」について考察しました。以下はその全訳です(原文イタリア語)。

謁見の終わりに、教皇は、9月14日(金)から16日(日)にかけて行うレバノン訪問を前にして、フランス語で次の呼びかけを行いました。なお、同テキストはアラビア語訳も合わせて発表されています。
「巡礼者の皆様。2日後のこの時間、わたしはレバノンに向かう機中におります。この使徒的訪問を楽しみにしています。この訪問により、わたしはレバノン社会を構成する多くのかたがたとお目にかかります。国家と教会の責任者、諸典礼のカトリック信者と他教派のキリスト者、レバノンのイスラームとドルーズ派のかたがたです。この豊かさのゆえに主に感謝します。この豊かさを継続させることは、この豊かさが永続的な平和と和解のうちに生きられることによってのみ可能です。そのためわたしは、昔からこの地に住む人と、新たに到来した人の区別を問わず、中東の全キリスト信者にお願いします。平和を築き、和解をもたらす者となってください。わたしは神に願います。レバノンと中東のキリスト信者の信仰を強め、彼らを希望で満たしてください。このキリスト信者がおられることを神に感謝します。そして、この人々と連帯するように全教会に呼びかけます。中東のキリスト信者がこの祝福された地で、一致と交わりを追求しながら、キリストをあかしし続けることができますように。そのために多くの形で彼らを支援するすべての人と機関のゆえに神に感謝します。中東の歴史は、宗教間対話、文化間対話においてさまざまなキリスト教共同体が重要で、しばしば不可欠の役割を果たしてきたことを教えてくれます。わたしは神に願います。世界のこの地域に、正当な違いの尊重とともに、人々が願う平和をお与えください。神がレバノンと中東を祝福してくださいますように。神が皆様を祝福してくださいますように」。


 親愛なる兄弟姉妹の皆様。

 先週の水曜日に、ヨハネの黙示録の第一部における祈りについてお話ししました。今日は同書の第二部に移りたいと思います。第一部において、祈りは教会生活の内部に向けられていたのに対して、第二部の関心は全世界に向かいます。実際、教会は歴史の中を歩みます。教会は、神の計画による、世界の一部なのです。朗読する人が示したヨハネのメッセージに耳を傾ける会衆は、「神とキリストの祭司」(黙示録20・6。同1・5、5・10参照)として神の国の発展に協力するという自らの使命を再発見しました。そこで彼らは人間の世界に心を開きます。ここで神の国と人間の世界の間の弁証法的な関係を生きる二つの方法が現れます。第一は「キリストの方法」と呼ぶことができます。会衆は幸いにもこの方法に属します。第二は「悪い者の影響で現れる、神の国と契約に反する、地上的な方法」です。この方法は、人々を欺きながら、キリストと神が望まれる世界と反対の世界を実現しようと望みます(教皇庁聖書委員会『聖書と道徳――キリスト者の行動の聖書的根拠』70:Bibbia e Morale. Radici bibliche dell’agire cristiano参照)。それゆえ会衆は自分たちが生きる歴史を深く解釈することができなければなりません。そのために彼らは、信仰をもってさまざまな出来事を識別することを学ばなければなりません。それは、自らの行動をもって神の国の発展に協力するためです。そして、解釈、識別、行動というわざは祈りと結び合わされています。
 まず、黙示録の第一部の中で、キリストは「耳ある者は、“霊”が諸教会に告げることを聞くがよい」(黙示録2・7、11、17,29、3・6、13,22参照)と7回述べ、絶えまなく呼びかけます。その後、会衆は天に上り、神の目をもって現実を見るよう招かれます。ここでわたしたちは3つの象徴を再発見します。これらは、そこから出発して歴史を解釈するための基準です。すなわち、神の玉座、小羊、そして巻物です(黙示録4・1~5・14参照)。
 第一の象徴は玉座です。玉座の上には一人のかたが座していますが、ヨハネはこのかたについて述べません。なぜなら、このかたはあらゆる人間的な表象を超えているからです。ヨハネはただ、このかたの前で彼が味わった美と喜びの感覚を示すことしかできません。この神秘的な存在が神です。全能の神は、ご自分の天に閉じこもったままでいることができず、むしろ人間に近づき、人間と契約を結びます。神は、神秘的ではあっても現実のしかたで、ご自分の声を歴史の中で聞かせます。この声は雷と稲妻によって象徴的に表されます。神の玉座の周りにはさまざまな要素が現れます。たとえば、24人の長老と、歴史の唯一の主を絶え間なく賛美する4つの生き物です。
 それゆえ、第一の象徴は玉座です。第二の象徴は巻物です。この巻物には、さまざまな出来事と人間に対する神の計画が書かれています。巻物は7つの封印で封じられており、だれもそれを読むことができません。人間が神の計画を詮索できないことを知って、ヨハネは深い悲しみを覚え、涙を流します。しかし、歴史の神秘に対する人間の当惑を解決できるものがあります。巻物を開いて、照らすことのできる者がいるからです。
 ここで第三の象徴が現れます。キリスト、すなわち十字架のいけにえによって屠られた小羊です。しかし、小羊は立っています。これは復活を表すしるしです。小羊、すなわち十字架につけられて復活したキリストは、次々に封印を解いて、歴史の深い意味である神の計画を明らかにします。
 これらの象徴は何を語るのでしょうか。それは、歴史と自らの人生の出来事を解釈するための方法がいかなるものかをわたしたちに思い起こさせてくれます。わたしたちは、キリストとの絶えることのない関係のうちに神の天に目を上げ、個人と共同体の祈りのうちに心と思いを神に開くことにより、この世のことがらを見て、そのまことの意味を悟ることを学びます。祈りは開かれた窓のようなものです。この窓は、神に目を向け続けることを可能にしてくれます。それは、わたしたちがそこへと方向づけられた目的を思い起こさせてもらうためだけではありません。神のみ心にわたしたちの地上の旅路を照らしていただき、この旅路を懸命に生きる助けとなっていただくためでもあります。
 主はどのようにしてキリスト教共同体を歴史の深い解釈へと導くのでしょうか。第一に、主は、わたしたちが生きている今の時を現実的に考察するように招きます。それゆえ小羊は、巻物の最初の4つの封印を開きます。すると教会は、自分たちがその中に置かれ、さまざまな悪い要素が見いだされる世界を見つめます。そこには、人間が行うさまざまな悪があります。たとえば暴力です。暴力は、所有欲、他人に勝ちたい欲望から生まれ、殺し合いにまで至ります(第二の封印)。あるいは不正です。人間は与えられた律法を守らないからです(第三の封印)。これに加えて、人間がこうむらなければならない悪があります。すなわち、死と飢えと病気です(第四の封印)。これらのしばしば悲惨な現実を前にして、教会共同体は次のように招かれます。決して希望を失ってはなりません。悪い者が全能であるかのように思われても、まことの全能、すなわち神の全能がこれに打ち勝つことを固く信じなさい。小羊が開く第一の封印のメッセージはまさしくこのことです。ヨハネは語ります。「そして見ていると、見よ、白い馬が現れ、乗っている者は、弓を持っていた。彼は冠を与えられ、勝利の上にさらに勝利を得ようと出て行った」(黙示録6・2)。人間の歴史の中に神の力が入って来られます。神の力は、悪と釣り合いをとるだけでなく、さらに悪に打ち勝つことができます。白という色は復活を思い起こさせます。神は、死の暗闇に降るほど、近くに来てくださいました。それは、ご自分の神のいのちの輝きでこの暗闇を照らすためです。神はこの世の悪をご自身に担います。それは、ご自分の愛の炎でこの悪を清めるためです。
 どうすればこうしたキリスト教的現実解釈を深めることができるでしょうか。ヨハネの黙示録はわたしたちにいいます。祈りは、わたしたち個人と共同体の、ものを見る光と深い希望を強めます。祈りはわたしたちを招きます。悪に負けることなく、善をもって悪に勝ちなさい。十字架につけられて復活したキリストを仰ぎ見なさい。キリストはご自分の勝利へとわたしたちを導いてくださいます。教会は歴史の中で生きています。教会は自らのうちに閉じこもるのではありません。むしろ勇気をもって、困難と苦しみのただ中で道を歩みます。力強く次のように告げながら。究極的に、悪が善に打ち勝つことはありません。闇が神の輝きを曇らすことはありません。これはわたしたちにとって大切な点です。わたしたちキリスト信者は決して悲観論者となってはなりません。わたしたちがよく知っているとおり、わたしたちは人生の歩みの中で、しばしば暴力、いつわり、憎しみ、迫害に出会います。けれども、それがわたしたちを落胆させることはありません。何よりも祈りは、神とその現存、働きのしるしを見いだすことをわたしたちに教えます。そればかりか、わたしたち自身がいつくしみの光となることを教えます。この光が、希望を広め、勝利を収めるのは神であることを示すのです。
 このような展望は、神と小羊に感謝と賛美をささげるように導きます。24人の長老と4つの生き物は、小羊であるキリストのわざをたたえて、ともに「新しい歌」を歌います。キリストは「万物を新しくする」(黙示録21・5)かただからです。しかし、この刷新は何よりもまず、願い求めるべきたまものです。そしてここにわたしたちは、祈りを特徴づけるべきもう一つの要素を見いだします。それは、主に次のように熱心に祈ることです。み国が来ますように。人間の心が神の支配に忠実に聞き従いますように。み心がわたしたちと世の生活を導いてくださいますように。ヨハネの黙示録の幻の中で、このような願いの祈りは特別に重要なものとして示されます。「24人の長老」と「4つの生き物」は、歌う際に用いる竪琴とともに、「香のいっぱい入った金の鉢」(5・8a)を手に持ちます。説明されているとおり、この香は「聖なる者たちの祈りである」(5・8b)。それは、すでに神のもとに達した人々の祈りですが、旅路を歩むわたしたち皆の祈りでもあります。神の玉座の前で、わたしたちは、天使が金の香炉を手にして、この香炉に絶えず香をついでいるのを見いだします。この香は、わたしたちの祈りです。香の甘い香りは、神のみ前でささげる祈りとともにささげられます(黙示録8・1-4参照)。この象徴的表現はわたしたちに次のことを語ります。わたしたちの祈りは皆、どれほどそれが限界と困難と貧しさと荒みと不完全を伴うものであっても、いわば清められて、神のみ心に達します。それゆえ、次のことを確信すべきです。むだで役に立たない祈りなど存在しません。いかなる祈りもむだではありません。祈りにはこたえがあります。たとえ時としてそれが不可解なものであってもです。なぜなら、神は愛であり、限りないあわれみだからです。聖ヨハネは述べます。「天使が香炉を取り、それに祭壇の火を満たして地上へ投げつけると、雷、さまざまな音、稲妻、地震が起こった」(黙示録8・5)。この比喩は次のことを意味します。神はわたしたちの祈願に無関心でいることができません。神は語りかけ、ご自分の力と声を地上に聞かせます。悪い者のやり方を揺り動かし、打ち倒します。悪に直面するとき、わたしたちはしばしば無力感を抱きます。けれども、祈りはわたしたちが行うことのできる第一の、もっとも有効な応答です。そして祈りは、善を広めようとするわたしたちの日々の努力を強めてくれます。神の力はわたしたちの弱さから実りを生み出すのです(ローマ8・26-27参照)。
 最後の対話について少し触れて終わりたいと思います(黙示録22・6-21参照)。イエスは何度も繰り返していいます。「見よ、わたしはすぐに来る」(黙示録22・7、12)。このことばは世の終わりに関する未来の展望を示すだけではありません。むしろそれは現在のことも語ります。イエスは来ておられます。ご自分を信じて、受け入れる人々のうちに住んでおられます。そこで会衆は聖霊に導かれて、イエスに対して、もっと近くに来てくださいという切迫した願いをささげます。「来てください」(黙示録22・17a)。あたかも婚姻が完成することを心から待ち望む「花嫁」(22・17)と同じように。3回目に、祈願が繰り返して述べられます。「アーメン、主イエスよ、来てください」(22・20b)。このイエスの来臨の意味を示すことばをもって、朗読する人は結びます。「主イエスの恵みが、すべての者とともにあるように」(22・21)。
 ヨハネの黙示録は、複雑な象徴表現を用いながら、わたしたちを豊かな祈りへと導き入れます。そのため、わたしたちも主に耳を傾け、主を賛美し、感謝し、仰ぎ見ます。そして主にゆるしを願います。黙示録の偉大な共同体的・典礼的な祈りの構成は、感謝の祭儀がもつ、わたしたちを造り変える特別な力をも再発見させてくれます。わたしはとくに、主日すなわち主の日、日曜日のミサに忠実に参加してくださるよう、強くお願いしたいと思います。日曜日は週のまことの中心だからです。黙示録の豊かな祈りはダイヤモンドのことを考えさせます。ダイヤモンドには魅力的なカットが施されていますが、その価値は唯一の中心の純粋さにあります。それゆえ、ヨハネの黙示録に見いだされる意味深い祈りの形は、イエス・キリストの唯一の言い表しがたい貴さを輝かせるのです。ご清聴ありがとうございます。

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