2月4日朝、教皇フランシスコは、パウロ六世ホールに集まった信者とともに、一般謁見を行いました。この謁見の中で教皇は、家庭に関する連続講話の5回目として、再び父親について語りました。以下はその全訳です。
家庭—3．父親について②
親愛なる兄弟姉妹の皆さん、おはようございます。
今日は、家庭における父親の姿に関する講話の第二部を進めたいと思います。前回は、父親「不在」の危険について話しましたが、今日はプラスな要素に目を向けたいと思います。聖ヨセフでさえ、マリアが身ごもっていることを知ったとき、彼女と縁を切ろうとしました。しかし、主の天使が二人の中に割って入り、ヨセフに神の計画と、彼の養父としての使命を明らかにしました。そして、正しい人であるヨセフは、「妻を迎え入れ」（マタイ1・24）、ナザレの家族の父となったのです。
どの家庭にも父親が必要です。父親の役割の大切さを考えるにあたり、今日、わたしはまず、箴言の中のことばについて考えたいと思います。それは、父親が自分の子どもに向けて言ったことばです。「わが子よ、あなたの心が知恵を得れば、わたしの心は喜び祝う。あなたの唇が公正を語れば、わたしのはらわたは喜びおどる」（23・15－16）。父親が人生で本当に大切なものをわが子に伝えたと認識したときの誇りと感情を、これほどよく表していることばは他にないでしょう。人生で大切なものは、賢明な心です。この父親は、「あなたがわたしと同じようであり、わたしの言動と同じことをしたからあなたを誇りに思う」と言ったのではありません。違います。彼はそんなに単純なことを言ったのではありません。もっと重要なことを言いました。それはこのように理解できます。「わたしは、あなたが知恵を得るたびに喜びます。あなたが公正を語るたびに感動します。それこそが、わたしが伝えたかったことです。感じて行動し、知恵と公正さをもって話し、判断する姿勢です。あなたがそうなれるように、わたしはあなたが知らないことを教え、あなたが気づかなかった間違いを正しました。わたしは、その時々に深い愛情をあなたに注ぎました。あなたが若くて、自分に自信が持てないうちは、その愛情を十分、認識できなかったでしょう。わたしはあなたに断固とした厳しいあかしをしました。あなたが他の人と共に行動したり、他の人から守られたりすることを好んでいる間は、それを理解することができなかったでしょう。わたしは、まず自分の心の知恵によって自分自身を試すと同時に、感情が高ぶりすぎたり、怒りにとらわれたりしないように気をつけなければなりませんでした。それは、避けることのできない誤解という重荷を背負いつつ、自分自身を理解してもらう適切なことばを見つけるためでした。」父親はさらに続けます。「あなたが自分の子どもや他のすべての人にこのように接するのを目にするとき、わたしは感動します。そして、あなたの父親であることをうれしく思います。」これが、賢明な父親、円熟した父親のことばです。
父親は、この遺産を手渡すには、何が必要なのかよく分かっています。自分がどんなに親しく、優しく、確固たる姿勢をとるべきか分かっています。しかし、子どもたちがその遺産を喜んで受け入れるとき、父親はどんなに大きな慰めと報いを得ることでしょう。それはすべての苦難を打ち消す喜びです。その喜びはあらゆる誤解を打ち砕き、あらゆる傷をいやします。
まず必要なのは、父親が家庭にいることです。父親が妻の側にいて、喜びも悲しみも、希望も苦難もすべて共にすることです。そして、子どもたちが成長するときに彼らに寄り添うことです。子どもたちが遊ぶとき、努力するとき、不注意になるとき、悩んでいるとき、口数が多いとき、無口なとき、大胆なとき、臆病なとき、誤った道をたどるとき、道を見つけ直すときに、父親がいつもそこにいることです。「そこにいる」ことは、「支配する」こととは違います。子どもたちを支配しようとしすぎる父親は、子どもたちを駄目にしてします。そういう父親は子どもたちを成長させないからです。
福音は、天におられる御父の模範について語ります。イエスは真に「よい父」と呼べるのは神おひとりであると言います（マルコ10・18参照）。ルカによる福音書の15章に記されたあの素晴らしい「放蕩息子」のたとえ話（15・11－32参照）の中の「慈しみ深い父親」のことは、誰もが知っています。家の戸口に立って息子の帰りを待つ父親の期待の内には、いかに深い威厳と優しさが込められていることでしょうか。父親は忍耐強くなければなりません。待つよりほかに何もできないときもしばしばあります。祈りながら忍耐、優しさ、寛大さ、そして慈しみをもって待つのです。
よい父親は、どのように待ち、どのように心からゆるすかを知っています。そしてもちろん、断固とした姿勢で誤りを正すすべも知っています。よい父親は弱い人ではありません。従属的でも感情的でもありません。屈辱を与えずに人を正すすべを知っている父親は、どうしたら人を十分に守ることができるかを知っています。ある結婚式で、一人の父親がこう話していました。「わたしは子どもたちをときどき、軽く叩かなければなりません。しかし、子どもたちに屈辱を与えないようにするために、決して顔は叩きません。」なんて素晴らしい父親でしょうか。彼は尊厳を尊重しています。罰しなければならないときには、正しい方法を用いているのです。
もし、イエスから教えられた「主の祈り」を完全に説明することができる人がいるとしたら、それは父親です。天におられる御父から授かる恵みがなくては、父親たちは勇気を失い、その場から退いてしまうでしょう。しかし、子どもたちは自分が失敗して家に帰ったときに、待っていてくれる父親を必要としています。子どもたちは、父親に認めてもらうために、もしくは父親に見せるためにすべてのことを行っているわけではありません。しかし、彼らには迎えてくれる父親が必要です。父親は、子どもたちの中のいやし難い傷を探すために彼らを待っているわけではないのです。
わたしたちの母である教会は、寛大でよい父親が家庭の中にいるようにするために懸命に尽くしています。なぜなら、父親は、聖ヨセフのように、よい心を持った信仰、正しい心を持った信仰、そして神に守られた信仰のかけがえのない保護者であると同時に仲介者でもあるからです。