国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)参加者へのアピール

2015年10月26日、バチカンにおける記者会見で、「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」(2015年11月30日~12月11日)に向けた、各大陸司教協議会連盟の連名によるアピール文書が発表されました […]

2015年10月26日、バチカンにおける記者会見で、「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」(2015年11月30日~12月11日)に向けた、各大陸司教協議会連盟の連名によるアピール文書が発表されました。11月25日にアジア司教協議会連盟(FABC)事務局より、日本の司教協議会に同文書は配布されました。以下はその全訳です。

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国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)参加者へのアピール

 このアピールは、大陸別の各司教協議会連盟を代表する世界中の枢機卿、総主教、司教により作成されています。それは、パリで行われている国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の参加者に対し、公正で、法的拘束力があり、真に変化をもたらす条約の承認に向けて尽力するよう要望するものです。
 5大陸のカトリック教会を代表して、わたしたち枢機卿、総主教、司教は、自らがケアする人々と自分自身のために、多くの人々が抱いている願いを表明するために集いました。それは、パリで開催されているCOP21で、公正かつ法的拘束力のある気候に関する合意が締結されるよう求める願いです。わたしたちは、10カ条の政策提案を提示します。それらは、諸大陸の人々の具体的な経験に基づくもので、もっとも貧しく弱い立場にある市民に対する社会的不正義と社会からの排除を、気候変動と関連づけています。

気候変動:課題と機会

 教皇フランシスコは、その回勅『ラウダート・シ』(LS)の中で「この惑星に住むすべての人」(3)に語りかけ、「気候変動は今日、人類が直面する主要な課題の一つです」(LS 25)と述べています。気候はすべての人のものであり、すべての人のためにある共有財産です(LS 23)。自然環境は共同の財産であると同時に、全人類の世襲財産であり、またすべての人に課せられた責務でもあります(LS 95)。
 信者であるか否かに関わらず、今日、わたしたちは皆、地球は本質的に分かち合うべき相続財産であることを認識しています。信者にとって、それは創造主への忠誠の問題です。神はすべての人のためにこの世をお造りになったからです。したがって、あらゆる環境保護のための活動は、貧しい人や恵まれない人の基本的な権利を考慮に入れた、社会的な視点を伴う必要があります(LS 93)。
 気候と環境へのダメージは、大きな影響をもたらします。気候変動の加速によって生じる問題は、地球全体に影響を与えます。それは、「成長」と「発展」という観念を定義し直すようわたしたちを駆り立て、ライフスタイルに疑問を投げかけます。気候変動は非常に規模が大きく、地球全体にかかわる問題であるので、それに対する解決策は合意に基づくものでなければなりません。したがって、普遍的な連帯、「世代間の」連帯、「世代内の」連帯が求められます(LS 13、14、162)。
 教皇は、この世界を「わたしたちの共通の家」と定義しています。その世界を管理するにあたり、わたしたちは環境破壊のために人間と社会が衰退していることを心に留める必要があります。わたしたちには、全体的な環境保護活動が必要です。「大地の叫びと貧しい人々の叫びを聞くためには」(LS 49)、社会正義を中心に据える必要があります。

持続可能な発展は、貧しい人を包括しなければなりません

 教会は、海面上昇、異常気象、生態系の破壊、生物多様性の喪失といった、加速する気候変動による深刻な影響を憂慮すると同時に、弱い立場にある共同体や人々が、いかに気候変動による悪影響を受けているかを目の当たりにします。教皇フランシスコは、世界中の多くの発展途上国で、制御されない気候変動によって取り返しのつかない影響が生じていることに注目するよう促しています。また、国連でのスピーチの中で、環境の乱用と破壊は、情け容赦のない排除のプロセスをもたらすと述べています(教皇フランシスコ、国連本部での挨拶、2015年9月25日)。

拘束力のある合意を目指す勇敢な指導者たち

 持続可能な「共通の家」を築き、維持するためには、勇敢で想像力に富む政治的なリーダーシップが必要です。限度を明確にし、生態系を確かに保護する法的枠組みが必要とされています(LS 53)。
 加速する気候変動は、制御されない人間の行いの結果であることが、信憑性のある科学により示唆されています。その主な原因は、特定の開発・発展モデルに向けた働きと、化石燃料への過度な依存です。教皇と5大陸の司教は、それによるダメージに配慮し、温室効果ガスや他の有害ガスの排出を激減させるよう求めます。
 連帯と正義と参加の原則に基づく、包括的で変化をもたらす合意が全会一致で支持されるために、パリの会議がその突破口となるよう教皇とわたしたちは願っています(教皇フランシスコ、欧州連合環境相会議でのあいさつ、2015年9月16日)。その合意は、各国の利害よりも共通善を優先させたものでなければなりません。わたしたちの共通の家とそこに生息するすべての生き物を守ることのできる拘束力のある合意が、討議の結果として結ばれることはきわめて重要です。
 わたしたち枢機卿、総主教、司教は、包括的な呼びかけと、政策に関する明確な10カ条の提案を発表します。そして、とりわけもっとも貧しく、弱い立場にある社会への壊滅的な自然災害を避けるためにも、地球の気温の上昇を、現在、世界中の科学学会で提案されている水準に制限するための国際的合意が結ばれるよう、COP21の参加者に求めます。すべての国が共通でありながら異なる責任を持っていることを、わたしたちは承知しています。それぞれの国が、独自の発展段階にあります。共通の活動として、協力することが必須です。

わたしたちの10カ条の提案

1.国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第3条に記されているように、気候変動の技術的な要素だけでなく、倫理的、道徳的な要素も考慮する。
2.気候と環境は、すべての人に属し、すべての人のためにある地球規模の共有財産であることを認める。
3.わたしたちの世界観に基づく、公正で、変化をもたらし、法的拘束力のある条約を採択する。その世界観は、自然と調和して生きる必要性と、先住民族、女性、若者、労働者を含む、すべての人の人権の尊重を保証する必要性を認めるものである。
4.世界の気温上昇を厳しく制限し、今世紀中期までに低炭素化を完了させることを目標とする。それは、太平洋諸島や沿岸地域の人々などの、気候変動の影響を最前線で受ける地域社会を守るためである。
・すべての国による意欲的な緩和策(温室効果ガスの排出削減と吸収のための対策)と諸活動によって、気温上昇幅を、法的拘束力のある国際条約に記された値に留める。そうした活動は、「共通だが差異ある責任と個別の能力(CBDRRC)」を認めながら、公正原理、歴史的責任、さらには持続可能な発展を促進する権利に基づいて行われる。
・各国政府は、自国の温室効果ガス排出削減量が低炭素化目標に沿うようにするために、自らの公約と熱意を定期的に見直す必要がある。そうした見直しを成功させるには、それが科学と公平さに基づく、強制力のあるものである必要もある。
5.気候と共存する開発やライフスタイルという新しいモデルを開拓する。不平等に対処し、貧困から人々を救う。その中心は、化石燃料時代を終わらせ、化石燃料からの排出物(軍事、航空、船舶によるものを含む)を段階的に削減し、信頼できる安全な再生可能エネルギーがすべての人に手頃な価格で行き渡るようにすることである。
6.気候変動への耐性を高め、持続可能な食料システムを広めるために、人々が必ず水と土地へのアクセスを得られるようにする。利益よりも、決定された解決策を優先させる。
7.もっとも貧しく、弱い立場の人々が入り、彼らも参加し、意思決定プロセスのあらゆる段階に影響を与えることを保証する。
8.2015年の合意により適応された措置が、もっとも弱い立場にある地域社会の切迫した要望に適切に応え、地域の代替策のもとに行われるようにする。
9.適応(影響への備えと新しい気候条件の利用)の必要性は、緩和策が成果を上げるかどうかにかかっていることを認識する。気候変動の責任を負う人々は、もっとも弱い立場にある人々が損失や被害に適応し、対処するのを助け、必要な技術とノウハウを分かち合うのを助ける責任を有する。
10.予想可能かつ首尾一貫した追加資金拠出の確約のための条項に、各国が従う方法を記したロードマップを明示する。そして、緩和策と適応の必要性のバランスのとれた資金調達が確かに行われるようにする。
 これらすべては、環境に対する真摯な認識と教育を必要とします(LS202-215)。

地球のための祈り

愛である神よ。
わたしたちの共通の家であるこの世界をケアする方法をお教えください。
パリに集う各国政府指導者たちが、
地球の叫びと貧しい人々の叫びを聞いて注意を払い、
心を一つにして勇敢に対処し、
共通善を目指し、
わたしたちとすべての兄弟姉妹、未来のすべての世代のためにあなたがお造りになった
美しい地上の園を守るよう導いてください。
アーメン。

オズワルド・グラシアス枢機卿
FABC(アジア)事務総長、 インド・ボンベイ教区大司教
ガブリエル・ミリンギ大司教
SECAM (アフリカ)事務総長、 アンゴラ・ルバンゴ教区大司教
ペーター・エルド枢機卿
CCEE(ヨーロッパ)事務総長、 エスターゴン=ブダペスト教区大司教
ジョゼフ・カーツ大司教
USCCB(米国)事務総長、 ルーイビル教区大司教
ラインハルト・マルクス枢機卿
COMECE (欧州)事務総長、 ドイツ・ミュンヘン教区大司教
ジョン・リバット大司教
FCBCO(オセアニア)事務総長、 パプア・ニューギニア・ポートモレスビー教区大司教
ルベン・サラサール・ゴメス枢機卿
CELAM (ラテンアメリカ)事務局長、コロンビア・ボゴタ教区大司教
デイヴィッド・ダグラス・クロスビー大司教
CCCB-CECC (カナダ)事務局長、 ハミルトン教区司教
ベシャーラ・ブートロス総主教
CCPO (東方教会)事務局長、 アンティオケ総主教(マロン派)
(2015.12.8)

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