「2018年7月6日の死刑執行に対する抗議声明」(日本カトリック正義と平和協議会死刑廃止を求める部会)

内閣総理大臣 安倍 晋三 様 法務大臣   上川 陽子 様  私たち日本カトリック正義と平和協議会死刑廃止を求める部会は、世界人権宣言と日本国憲法を尊重する者として、またイエスの愛の教え(福音)を信じ、すべての「命の尊厳 […]

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
法務大臣   上川 陽子 様

 私たち日本カトリック正義と平和協議会死刑廃止を求める部会は、世界人権宣言と日本国憲法を尊重する者として、またイエスの愛の教え(福音)を信じ、すべての「命の尊厳」を守るキリスト者として、2018年7月6日に、東京拘置所の松本智津夫(麻原彰晃)さん(63歳)、土谷正実さん(53歳)、遠藤誠一さん(58歳)、大阪拘置所の井上嘉浩さん(48歳)と新実智光さん(54歳)、広島拘置所の中川智正さん(55歳)、福岡拘置所の早川紀代秀さん(68歳)に死刑が執行され、その尊い命が国家の手によって奪われたことに対して強く抗議します。

 今回の7名の執行によって、安倍晋三政権下では第一次内閣で10名、第二~四次で28名、あわせて38名の大量の人命が処刑されたことになります。特に今回、一日に7名もの大量執行は近年類を見ない異様な多さであり、死刑の廃止や執行抑制へと向かう世界の趨勢に大きく反するといわざるを得ません。上川陽子法務大臣によっては、これで10名の命が絶たれたことになりますが、今回は4つの拘置所の職員・刑務官が、死刑執行という名の殺人行為を実行させられました。殺人という苦役を国家によって命じられた方々の苦悩はいかばかりだったでしょうか。実際の執行に携わった人々の負わされた苦痛を心から憂慮し、かれらのために祈りを捧げます。

 今回執行された7名は、オウム真理教という「宗教団体」として、かれらの考える社会変革や「救済」のために暴力と破壊行為、さらには殺人という究極の排除の手段を用い、私たちの社会に大きな傷と衝撃を与えました。オウム真理教の関連した一連の事件から20年以上経った今なお、その深い傷は癒えていません。被害に遭われた多くの方々、とりわけ亡くなられた方々やご遺族、後遺症や恐怖体験によって現在も身体的・精神的に苦しむ人々のことを思うとき、私たちの心はひどく痛みます。

 オウム真理教が、社会を恐怖に陥れるそのような「反社会的行為」に何故至ったのかという真相すら、十分に解き明かされてはいません。私たち日本のカトリック教会は既存の宗教団体の一つとして、そのことを自戒の念と共に深く心に刻みつけ、絶えず問い続けています。日本の犯罪史上未曾有の事件に関わった者をこの世から抹消することで、事件の真実や再発防止に向けた情報を知り得る機会が永遠に失われてしまいます。私たちはそのことを大変危惧すると同時に、宗教の本来の役割は人の命を救うことであって、暴力や破壊、そして殺人や排除によっては真の「救済」は得られないのだということを、宗教を信じ伝える者の責任と反省においてはっきりと宣言します。

 今回執行された方々の中には、心神喪失の疑いがある方がいました。法で禁じられているとおり(刑事訴訟法479条1項)、心神喪失者への死刑執行は断じてあってはなりませんし、そのためには、死刑囚の普段の処遇や執行時の様子の情報が正しく公開される必要があります。まさにブラックボックスの中での死刑執行では、その合憲性や適法性にも関わる真実を闇から闇へ葬り去ることになります。

 また、今回も多くの方が再審請求中でした。日本政府は昨年より、再審請求中の者の死刑執行を何度も強行し、再審請求中であっても執行を停止しないという主張を国内外で繰り返しています。本年6月11日、東京高裁は半世紀以上無実を訴え続けている確定死刑囚・パウロ袴田巌さん(82歳)に対する再審開始決定(静岡地裁、2014年3月27日)を取り消す判断を下しました。けれども戦後、4名の「確定死刑囚」が幾度にもわたる再審請求を行った結果、無罪判決を勝ち取って死刑台から生還したという事実を鑑みても、再審請求中の死刑執行は決して容認することができません。我が国の現行の裁判制度においては、誤判・えん罪の危険性が大きく残されていますし、そうした過ちを正すための再審に関する法整備も極めて不十分です。えん罪防止に向けた実効的な施策、それも「完全かつ検証可能で不可逆的」なものを講じることも、私たちはあわせて求めます。

 このたび、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産への登録が決定しました。潜伏キリシタンの歴史が現代の私たちに教えてくれるのは、いつの時代も為政者・権力者は自分たちにとって都合の悪い人々を排除・弾圧し、その手段として死刑という威嚇と暴力をしばしば用い得るということです。これは日本に限らず、全人類にとっての負の遺産であり、歴史的教訓です。現に今回の執行、特にその人選や時期の決定に関しては、公平性ではなく、極めて恣意的な政治的意図の存在が強く疑われます。

 死刑という究極的な暴力と排除によっては、被害者・遺族の悲しみと社会の傷は真に癒されず、事件の本質的解決にはつながりません。むしろ国家による新たな殺人を重ねることで、社会に対して残虐な暴力のメッセージを発することになります。私たちは「正義」の名によって行われるこうした殺人を断じて許すことはできません。実際、「不要な命は抹殺すべし」という誤ったメッセージを国家が率先して発し続けた結果、2016年7月26日未明、相模原の知的障害者施設で大量殺傷事件が起きてしまいました。この痛ましい事件からまもなく2年を迎えようという今、私たちは「必要のない命」などないのだということを改めて強く主張するとともに、そのことを日本政府にも、言葉と行いをもって明示するように求めます。

 国家の一番の役割は、国民の生命を守ることであり、殺すことではありません。日本各地で頻発する自然災害、特に6月18日に発生した大阪北部大地震や、判明しているだけでも100名以上の死者・行方不明者が出ている西日本での深刻な豪雨災害では、数多くの人が愛する人を喪った悲しみに暮れ、大切な人の安否を心底案じ続けています。また、何万人もの人が避難先や不自由な場所で、恐怖と不安の日々を過ごしています。そうした中で国家が真っ先に行うべきは、一人でも多くの人の命を助けることであり、その混乱に乗じて人を殺すことではありません。私たちは事件・事故によって亡くなったすべての方々を悼み、涙と痛みのうちにあるすべての方々に心を寄せ、かれらに相応しい物的・心的・霊的支援が届くようにと、祈りのうちに働き続けます。私たちは、あらゆる命の尊厳を守るという宗教的使命に基づき、今回の執行が日本にとって「最後の執行」になるよう、死刑執行の即時停止と死刑制度の廃止を引き続き強く訴えます。

Prot. JP-d 18-01
2018年7 月6 日

日本カトリック正義と平和協議会
死刑廃止を求める部会
部会長 ホアン・マシア神父

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