「2018年7月26日の死刑執行に対する抗議声明」(日本カトリック正義と平和協議会死刑廃止を求める部会)

内閣総理大臣 安倍 晋三 様 法務大臣   上川 陽子 様  私たち日本カトリック正義と平和協議会「死刑廃止を求める部会」は、世界人権宣言と日本国憲法を尊重する者として、またイエスがその生涯を通して教えた神の愛(福音)を […]

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
法務大臣   上川 陽子 様

 私たち日本カトリック正義と平和協議会「死刑廃止を求める部会」は、世界人権宣言と日本国憲法を尊重する者として、またイエスがその生涯を通して教えた神の愛(福音)を信じ、あらゆる「命の尊厳」を守るキリスト者として、2018年7月26日に、仙台拘置支所の小池(旧姓:林)泰男さん(60歳)、東京拘置所の端本悟さん(51歳)、豊田亨さん(50歳)、広瀬健一さん(54歳)、名古屋拘置所の宮前(旧姓:岡崎)一明さん(57歳)、横山真人さん(54歳)に死刑が執行され、その尊い命が国家の手によって奪われたことに対して強く抗議します。

 本日の6名の執行によって、安倍晋三政権下では第一次内閣で10名、第二~四次で34名、あわせて44名の大量の人命が処刑されたことになります。上川陽子法務大臣の執行命令によっては、これで16名の命が絶たれ、在任期間中に計13名の死刑執行を命じた故・鳩山邦夫法相よりも多くの命を奪った法務大臣になりました。私たちは、これほどまでに多くの命の殺害を命じた上川法相のために祈らざるを得ません。そして、死刑執行という苦役を課せられ、各拘置施設で実際の殺害行為に携わった方々の苦悩に思いを馳せるとき、その負わされた苦痛を心から憂慮し、かれらのためにも祈らざるを得ません。いかなる理由を付けようとも、死刑執行は生きている人の命を意図的に奪う、国家による殺人に他ならないからです。

 今月6日、一日に7名という近年類を見ない大量の執行がなされました。それからわずか20日後の本日、再び6名もの大量同日執行が強行されました。私たちは人数にかかわらず、あらゆる死刑執行に反対していますが、それでも、ひと月に13名を処刑するという常軌を逸した大量殺戮には、戦慄を禁じ得ません。1911年1月には、いわゆる「大逆事件」の死刑囚12名が処刑されましたが、それから100年以上経った今の時代に、それを超える蛮行などあってはならないことです。アントニオ・グテーレス国連事務総長は昨年の「世界死刑廃止デー(10月10日)」にあたり、「私はこの野蛮な慣行を続けているすべての国に訴えたいと思います。死刑の執行を停止してください。死刑は21世紀に相応しくありません」と訴えました。「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」と思う私たちは、こうした国際社会からの声に耳を貸そうとしない日本政府の頑なさと不誠実さを大変遺憾に思います(日本国憲法前文参照)。

 今月執行された13名は、オウム真理教という「宗教団体」として、かれらの考える「救済」のために、その教義すら用いて暴力と破壊行為、さらには殺人までをも肯定していきました。オウム真理教の関連した一連の事件から20年以上経った今なお、かれらが社会に残した深い傷はまだ癒やされていません。被害に遭われた多くの方々、とりわけ亡くなられた方やご遺族、事件の後遺症や恐怖体験によって現在も身体的・精神的に苦しみ続ける人々のことを思うとき、私たちの心は耐えがたいほどの痛みに襲われます。被害者の嘆きに心を寄せつつ、だからこそなおさら、今回の死刑執行によって事件の安易な「幕引き」が図られることを危惧しているのです。

 現に、13名のうちの多くは再審請求中でした。初めての再審請求だった方もいましたし、冤罪や誤判を主張している人もいました。再審請求中の死刑執行は、憲法にも国際法にも違反しかねない暴挙であり、断じて容認することができません。政府の果たすべき責任は、オウム真理教がどうしてこのような凄惨な事件を起こすに至ったのかを可能な限り究明し、同様の事件が二度と起きないように再発防止策を講じることでした。けれども、日本の犯罪史上未曾有の事件に関わった者を死刑にすることで、この事件の真相を知り得る機会が不可逆的に失われてしまいました。

 6名の死刑が執行された今日は、2016年7月26日未明、相模原の「津久井やまゆり園」において、知的障がい者を狙った大量殺傷事件が起きた日からちょうど2年の日にあたります。犠牲となった19名の尊い命のために多くの人が祈りを捧げ、「必要のない命」「殺されていい命」などないのだということを改めて心に刻もうとする今日という日に、あえて死刑を執行するおぞましさに、身が震えます。死刑とはまさに、この世には「殺したほうがいい命」が存在し、その命を抹殺することは「正義」なのだという残虐なメッセージの体現です。死刑を存続させることで、社会にこうした誤ったメッセージが発し続けられます。その結果、「生産性」の有無で「命の価値」を値踏みするような人間が必ず現れますし、命を軽んじる犯罪もきっと繰り返されるでしょう。

 近年、地球規模の異常気象が相次ぎ、世界の各地で大規模な自然災害が頻発しています。日本でも、西日本を中心に発生した深刻な豪雨災害により、これまで200名以上の方が命を落とし、いまだ安否のわからない方も多くおられます。数多くの人が愛する者の死を悼み、悲しみと恐怖を抱えながら不安な日々を過ごしています。勢力の強い台風12号が日本に接近しており、被災地を再度水害が襲う危険性も高い状態です。そうした中で国家が真っ先に行うべきは、一人でも多くの人の命を助け、被害を最小限に抑えて迅速な救援・復興作業に取り組むことであり、酒宴に興じて「人災」を拡大させることではなく、ましてや混乱に乗じて自国民を虐殺することではないはずです。これ以上、「新たな遺族」を生み出さないでください。

 また、日本列島を襲う今年の猛暑はあまりに過酷で、暑さによる死者が連日のように出ている状況の中、7月24日の早朝、名古屋刑務所の40代の男性受刑者が熱中症で亡くなりました。受刑者の適切な処遇に一番の責任を持つ上川法相がその日行ったのはほかでもなく、本日の死刑執行命令書への押印でした。命にかかわる暑さに苦しむ受刑者を見殺しにしただけでは飽き足らず、その日に6名もの死刑執行を命じる無神経さは、翌朝に大量執行を控えた7月5日晩の酒宴での様子と相通じ、法務大臣としての資質も閣僚としての危機管理能力も著しく欠いているとしか思えません。これほどまでの命と人権の軽視を、私たちは決して看過できません。

 まもなく、8月に入ります。8月は、日本が過去に行った戦争によって命を落とした方々への追悼の思いが、一年の中でもより強まる月です。私たちは、すべての死者のために心からの祈りを捧げつつ、宗教の本来の役割は人の命を救うことであり、暴力や破壊、殺人や排除によっては真の「救済」は得られないのだということを、宗教を信じ伝える者の責任と反省において再度はっきりと宣言します。その上で、すべての命が尊ばれる社会を目指すという使命に基づき、命そのものの持つ神聖さと不可侵さから死刑廃止を呼びかける教皇フランシスコと声を合わせ、私たちは引き続き、死刑執行の即時停止と死刑制度の廃止を強く求めます。

Prot. JP-d 18-03
2018年7 月26 日

日本カトリック正義と平和協議会
死刑廃止を求める部会
部会長 ホアン・マシア神父

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