2018年7月6日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」 (「働き方改革」一括法)に関わるお願い

すべての(そしてカトリック信徒の)企業経営者、政治家の皆様へ  カトリック教会では、「労働」を、神の似姿として創造された人間による、神の創造のわざへの参与、と考えてきました。それゆえ、神が世界を6日間で創造された後に安息 […]

すべての(そしてカトリック信徒の)企業経営者、政治家の皆様へ

 カトリック教会では、「労働」を、神の似姿として創造された人間による、神の創造のわざへの参与、と考えてきました。それゆえ、神が世界を6日間で創造された後に安息されたように、人間も7日目を安息日とすることを大切にしてきたのです。

 しかしながら近年の日本社会では、長時間過密労働が蔓延する中、過労死、過労自死が頻発する極めて深刻な事態を迎えています。2018年7月6日に厚生労働省が公表した2017年度「過労死等の労災補償状況」をみると、脳・心臓疾患に関する事案の労災補償の支給決定件数は253件、うち死亡件数は92件でした。精神障害に関する事案の労災補償の支給件数は506件、未遂を含む自殺の件数は98件にのぼっています。
 そして2018年6月29日、「働き方改革」一括法が成立しました。「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる」ように、「長時間労働の是正、 多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる」(厚生労働省)ために定めたとしていますが、かえって労働時間規制が緩和され、雇用者は労働者を際限なく、しかも一定賃金で労働させることが可能となりました。

「働き方改革」一括法は、たとえば以下のような問題が指摘されています。

  • 時間外労働の上限規制が、過労死ライン(月80時間の時間外労働)を超える時間数(最大で月あたり100時間未満)で設定され、月末・月初に残業を集中させれば月160時間もの長時間労働を行わせることが可能となりました。
  • 「働き方改革」一括法における高度プロフェッショナル制度においては、雇用者は、一定の働き手、すなわち「高専門かつ高収入」の労働者に対する、残業代を支払う義務(労基法37条)、休憩を与える義務(同34条)、週1回の休みを与える義務(同35条)などの義務の免除が認められることになりました。
  • しかしこの高度プロフェッショナル制度の対象となる「高専門かつ高収入」の定義は、厚生労働省の省令によるもので、国会の決議なくその範囲を広げることのできる、きわめてあいまいなものです。政府は、健康被害の懸念を払しょくするために選択制の「健康確保措置」を設けたものの、その選択肢のうち「残業見合いの労働時間が月80時間を超えた場合の健康診断」を受けさせさえすれば、やり方次第では、24時間48日連続労働や、年間6000時間もの労働が可能になります。

 このような事態においては、「労働」はもはや「神の創造のわざへの参与」であるどころか、人を殺す凶器でさえ、ありえるでしょう。労働者は「使い捨て可能な商品」(使徒的勧告『福音の喜び』53)であることが、法律上認められてしまった、と言えるかもしれません。
 
 いま、わたしたちは、教皇フランシスコが使徒的勧告『福音の喜び』において、現代社会にたいして行った警告に耳を傾けたいと思います。

 「殺してはならない」というおきてが人間の生命の価値を保障するための明確な制限を設けるように、今日においては「排他性と格差のある経済を拒否せよ」ともいわなければなりません。この経済は人を殺します。(53)

政治家の皆様、どうか「働き方改革」一括法の危険に気づき、廃止に動いてくださいますように。企業経営者の皆様、過労死、過労自死の問題に目をつぶらず、労働者のかたがたへの、いっそうの配慮を、お願い申し上げます。
 
 カトリック信徒である政治家、企業経営者の皆様、聖母被昇天の祝日にあたり、福音や教皇メッセージに込められた意図を十分にくみ取り、信徒として相応しい行動を取られますよう、特にお願い申し上げます。

Prot. JP-d 18-05
2018年8 月15 日

日本カトリック正義と平和協議会
会長 勝谷太治司教

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