障害者自立支援法に対して声明文

全ての人が安心して暮らせる社会に向けて
障害者自立支援法施行後の現状をかえりみて

日本カトリック司教協議会カリタスジャパン

 カリタスジャパンは、日本カトリック司教協議会における社会福祉推進活動と援助活動を担当する委員会として、また、バチカンに本部を置く国際カリタスの一員として活動しています。

  ご存知のように日本のカトリック教会は、聖フランシスコ・ザビエルの渡来以降、宣教師・修道者およびその協力者が先頭に立ち、福祉活動にも協働し、その理 念や発展に寄与して参りました。イエス・キリストの福音に基づき、人間の尊厳の尊重、社会的に弱い立場の人との共生などを目的として、現在500を超える カトリック医療・社会福祉施設が誕生し、活動しています。

 昨今の社会情勢の目まぐるしい変化の なか、2006年12月13日、第61回国連総会において「障害者の権利条約」が採択されました。カリタスジャパンは、本条約における障害をもつ人の尊 厳、人権を尊重するという基本理念、ならびに、本条約策定に障害をもつ人の直接参加がなされたことを評価します。そして、日本政府がその理念を鑑み、障害 者自立支援法をはじめとする福祉制度の見直しがなされることを心から願っています。

 特に2006年10月1日に完全施行された障害者自立支援法は、障害をもつ人の権利の尊重および完全な社会参加への実現を厳しいものとしており、大きな改善を必要としていると言わざるをえません。

  障害者自立支援法は、その第1条に示されているように、障害者のノーマライゼーションという思想に基づいて導入されました。当該法の理念や地方自治体の実 施責任の明確化等の点で評価する声もある一方、充分な論議や社会保障制度の確立がないままの拙速な施行の結果、障害をかかえる全ての人、その家族、福祉施 設関係者の不安を高め、福祉の現場で様々な問題や課題が発生しています。

 定率負担の実施により、経 済的に生活できない人や家族が増え、特に障害年金で生活している人にとっては、死活問題となっています。この状況は、障害をもつ人の福祉サービス利用や社 会参加を後退させ、その連鎖から関係施設への補助金が減少し、職員の減少を招き、福祉関連施設の閉鎖を余儀なくされるという悪循環を招いています。

  自治体による福祉計画の履行は評価されるべき点もありますが、障害程度区分の認定、福祉サービス量、介護移動費までが自治体に委任されたことにより、各自 治体の体制によって格差が生じています。人の暮らしや安全保障が自治体によって異なることは、公正であるべきはずの国の福祉の姿勢が問われるものと言わざ るをえません。この法律によって生じた障害程度区分認定とそれに基づいて提供されるサービスの一元化が、それぞれ内容の異なる障害をもつ人々の多様性を否 定しており、今のままでは、多くの人が経済的な窮地にますます追い込まれていきます。障害をもつ多くの人、その家族、福祉関係者がこのような困難な状況に 追い込まれることは、神の前で許される社会状況ではありません。

 国は、介護保険制度にあるよう な介護保険事業者の保険金不正請求の絶滅、要介護認定の適正化、過剰サービスによる給付の膨張などの検閲に力を入れていますが、私たちは、むしろ要援護者 を権利主体とする憲法に立ち返り、すべての人にあるべき社会保障水準を保つことが最も重要なことだと考えています。

  以上を踏まえて、私たちは、障害者自立支援法をはじめとする福祉制度に、障害をもつ人たちの声が反映され、真の社会参加、ノーマライゼーションへの取り組 みが改善されるよう、ここに求めます。国民一人ひとりの人権、人命を尊重するより良い社会保障制度の確立がなされることを祈ってやみません。

2007年1月19日
日本カトリック司教協議会カリタスジャパン

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