小冊子HIV/AIDSと私たち

この最も小さい者の一人にしたのは わたしにしてくれたことなのである

小冊子HIV/AIDSと私たち

21世紀を迎えた今、地球的規模で流行しているエイズが人類におよぼす影響について、日本のカトリック教会ももっと関心を払う必要があります。エイズ患者・HIV感染者とともに生きる社会を築くために、正しい知識を持ち、自らの人と人との関わり方を見つめなおして、意識革命を行ない、偏見や差別のない社会をつくっていきましょう。

2001.04.15発行  この小冊子は非売品です。

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小冊子「HIV/AIDSと私たち」の内容

小冊子「HIV/AIDSと私たち」の内容はこちらからごらんいただけます。
小冊子に掲載されているデータは2001年4月現在のものですが、こちらからのデータは2004年版になっています。冊子をお持ちの方も参考にしてください。

HIV/AIDSと私たち

この最も小さい者の一人にしたのはわたしにしてくれたことなのである

HIV/AIDSと私たち

日本カトリック司教協議会
HIV諸問題検討特別委員会
2001年4月15日発行

はじめに

世界ではじめてエイズ患者の存在が報告されてからほぼ20年。現在では、ほとんどの人がエイズという病気のことを知っています。しかしその一方で、「関心がない」「人ごと」と考えている人が増え続けています。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の2000年末の推計では、HIV感染者とエイズ患者は世界で3,600万人おり、 これまでに2、200万人が死亡しました。昨年一年間だけで過去最高となる約300万人が死亡しています。先進国でこそ患者の死亡率は下がっていますが、世界でも貧しい国が集まるサハラ砂漠以南のアフリカは世界のエイズ患者・HIV感染者の約7割を抱え、 社会を根底から揺さぶる被害がもたらされています。アフリカ各国の国民の平均寿命は、2005年から2010年にかけて、エイズのため平均寿命が45歳に急落すると予測されています。また、1999年末の時点で、世界で約1,320万人の子どもがエイズのために親を亡くし、そうした子どもたちの9割までがサハラ以南のアフリカに集中しています。

 21世紀を迎えた今、 地球的規模で流行しているエイズが人類におよぼす影響について、日本のカトリック教会ももっと関心を払う必要があります。 エイズ患者・HIV感染者とともに生きる社会を築くために、私たちはエイズという病気についての正しい知識を持ち、自らの人と人との関わり方を見つめ直して、一人一人が意識革命を行ない、偏見や差別のない社会をつくっていきましょう。

世界では

下図はエイズ予防情報ネットからのデータです。

map

日本では

HIV感染者・エイズ患者は着実に増えています。
  日本でもエイズ患者 ・ HIV感染者は依然として増加を続けており、 2001年には過去最多の患者・感染者が新たに報告されました。   厚生労働省のエイズ動向委員会の報告によると、2000年12月 現在の国内のエイズ患者 ・ HIV感染者数の累計は、 患者2,542人・感染者5,313人、合計で7,855人となっています。 年代別にみると、20代、30代、40代に患者・感染者が増えています。 エイズ患者 ・ HIV感染者に対する偏見や差別が強い日本社会のなかで、患者 ・ 感染者の方々は、不安と恐れと孤独な状況に追いやられています。

  教会は、キリストに倣って社会から疎外され「苦しむ人」「傷ついた人」に近づいて友となり、 福音を告げ知らせることを使命と しています。 日本の教会が現代の人類の新しい苦しみに対してどのように関わっていくのか。 それが今、21世紀を生きる私たちひとりひとりに突き付けられているのではないでしょうか。

fig1

HIV感染者及びAIDS患者の都道府県別累積報告状況

都道府県 HIV AIDS
北海道 117 89
青森県 33 18
岩手県 18 21
宮城県 77 43
秋田県 15 15
山形県 15 19
福島県 41 34
茨城県 434 262
栃木県 178 135
群馬県 126 96
埼玉県 323 243
千葉県 523 364
東京都 4,068 1,374
神奈川県 763 399
新潟県 59 38
山梨県 85 38
長野県 248 159
富山県 22 19
福井県 39 14
石川県 28 16
岐阜県 63 54
静岡県 258 131
三重県 572 263
愛知県 103 62
滋賀県 49 28
京都府 150 67
大阪府 1,129 328
兵庫県 198 111
奈良県 56 33
和歌山県 30 32
鳥取県 8 4
島根県 9 3
岡山県 48 34
広島県 98 37
山口県 32 9
徳島県 8 10
香川県 24 19
愛媛県 46 33
高知県 22 11
福岡県 186 87
佐賀県 6 5
長崎県 22 17
熊本県 40 26
大分県 18 11
宮崎県 17 11
鹿児島県 37 24
沖縄県 98 54
合計 10,539 4,900

(2009年2月)

厚生労働省エイズ動向委員会「平成22(2010)年エイズ発生動向-概要-」
http://api-net.jfap.or.jp/status/2010/10nenpo/gaiyou.pdf

HIV/AIDSとは?

HIV/AIDSとは?

  エイズとは、 HIVというウィルスの感染によって起こる病気です。HIVは、血液、精液、膣分泌液のなかに存在し、 性行為、母子感染、 麻薬のまわしうちによって感染します。 HIVは、 免疫機能を担うリンパ球に入り込み、 免疫細胞を壊しながら増力していきます。 そして免疫力が低下すると、 さまざまな感染症や悪性腫瘍にかかりやすくなります。 これがエイズの発症です。 エイズの診断は、 HIV感染 + 免疫機能低下 + 20数種の疾患または状態があって判断され、 この段階ではじめてエイズ患者、 あるいはエイズ発症者と言われ、 発症前はHIV感染者 あるいは 陽性者と呼びます。 発症までの潜伏期間は個人差があり、 半年から10年と言われています。

  現在のところ、 エイズの根本的な治療法方やワクチンはありませんが、 近年は、 エイズの発症・進行を遅らせる薬や日和見感染症に対する予防・ 治療薬が開発され、 今までのように「すぐ死に至る病」というイメージはなくなりつつあります。 しかし、HIVについての関心の低さから、 エイズを発症してはじめて自分のHIV感染を知る人がほとんどであり、 感染の事実を知らずに生活している人々を加えると、 実際の感染者数は5倍を超えると言われています。 発見が遅れたために危険な状態に陥ることもあるため、 保健所などで抗体検査を受け、 早期発見、 早期治療に取り組むことが何よりも大切です。

教会はエイズに応える

【国際カリタス HIV/AIDS研究グループ(CAFOD)1996】
教皇ヨハネ・パウロ二世をはじめ、 各司教会議ならびに世界中の教会関連諸団体は、 1980年代前半にエイズが確認されて以来、 この問題に取り組んできました。 このHIV/AIDSに対する教会の声明の抜粋は、 現在の時点で教会が何を公的に教えているかを示していると言えます。

ヨハネ・パウロ二世〈1989年11月 バチカンエイズ会議〉

 エイズを患っている人々よ、たとえエイズが他に類を見ない病状であっても、あなた方は、他の病んでいる人々と同じように十分な診察、丁重な理解、完全な連帯を得る権利があります。

 神を創立者として、また師として模範にしている教会は、常に病んでいる人々を援助することを基本的使命としています。教会は現在、自分がこの人類の新しい苦しみの分野の主導者として立ち上がるように要求されていると感じ、苦しんでいる人が伝道と司牧の「特別な道」であることを認識しています。

アメリカの司教〈1987年12月〉

 エイズに感染した人々のニーズに対する私たちの応答は、私たちが彼らのなかに神を発見し、また彼らが私たちとの交流を通して「苦しみ、恐れ、疎外感のなかで、私はあなたのなかに強さ、愛、連帯の神を感じた」と言えるようになったとき、初めて評価されるでしょう。

パウロ・エバルスト・アルンズ枢機卿(サンパウロ大司教区)〈1988年〉

 私たちに、言葉と態度で私たちが取らなければならない道を教えてくださったのが、イエスご自身なのです。良きサマリア人やライ病人を癒すたとえ話は、私たちが今日の具体的現状を把握するための良い例です。エイズにかかった人々に私たちが、「なぜ」「どのようにして」病気になったのか、という質問は不要です。

フィリピン司教会議〈1993年〉

 エイズに関する状況が、司牧的介護を必要としていることは明らかであります。なぜなら、教会はイエスの使命を続けなければならないからです。救いの良い知らせを告げるために、病人を癒すために、罪人を赦すために、民衆とともに憐れみ深くあるために、イエスは、教会が何をすべきかお示しになりました。神の民は苦しんでいる人々の側にいなくてはなりません。特に今日貧しい人々や苦しんでいる人々に対して、教会は実践した憐れみを行なわなければなりません。

アフリカ南部の司教〈1990年6月〉

 恐らくエイズの危機は、私たちが互いに他の人々の世話をし、瀕死の人々を助け、命の賜物を感謝するための神の試みなのです。エイズは単に危機であるとは限りません。それはまた道徳的ならびに精神的な成長に対して神から与えられた機会であり、罪と道徳についての私たちの考えを見直す時でもあります。現代のエイズの流行は、司牧的対応を必要としています。

ガーナ司教会議〈1990年10月〉

 エイズは、この病気にかかった人と、その人を取り巻くあらゆる制度との間に、疎外や離別をもたらします。私たちは、患者とその周辺にいる人々との壊れた関係を修復する調停者とならなければなりません。私たちは信頼感をうちたて、奉仕の心を持たなければなりません。これには時間、教育、そして私たちの心を変えることが必要です。私たちは「死」と関わらないわけにはいきませんが、私たちは最後の瞬間まで人々が充実した生活を送れるように助けたいのです。

 もし、私たちの信仰の基準が「無条件の愛」、特に「社会から見捨てられた人々に対する愛」であるならば、エイズに苦しんでいる人々に答えることが、私たちの信仰の尺度となります。

押川嘉夫司教 (HIV諸問題検討特別委員会・委員長)2001年3月

 日本のカトリック教会でHIV/AIDSについてのアンケート調査をいたしました。その結果、カトリック信者の中でHIV/AIDSについて関心をもっている人が多く、エイズ発症者に対して支援活動をすることに賛同している人も多いということが分かりました。

 キリストの目は常に、苦しんでいる人々に向けられています。しかし、偏見や差別はいつの時代にもあります。今、私たちが生きているこの時代にも、残念ながらHIV/AIDSの患者に対する偏見と差別は残っています。私たちはキリスト者としてエイズ発症者への偏見や差別を捨て、共に生きることにより、キリストと結ばれて生きることができるのです。

 キリストの目は常に、小さい人々に向けられています。教会が、「HIV/AIDSという新しい苦しみ」(ヨハネ・パウロ2世の言葉)を担う人々と共に歩き始める時、HIV/AIDSの人々が抱えている多くの諸問題は、私たちに対する新しい問いかけを投げかけてくるに違いありません。この問いかけをしっかりと受けとめ歩く時、キリストもまた、私たちとともに歩いてくださる違いありません。

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