マルチカルチャーに生きる 子どもたちの叫び

はじめに

日本カトリック難民移住移動者委員会は2002年2月、名古屋で「外国籍の子どもの学校教育」というテーマで研修会を開催し、未就学児、ドロップアウトの子どもたちについて、名古屋地方の取り組みを学びました。その中で、外国人が集住する都市では3割とも5割ともいわれる子どもたちが不就学であるとの報告もありました。それぞれの地域で未就学児、ドロップアウトする子供たちの実態を教会としても調査し、把握することが子供たちへの支援の取り組みの第一歩になるという参加者からの要望が出され、今回の実態調査を行うことになりました。

2002年7月に「外国籍の未就学児に関するアンケート調査実施のお願い」と「就学状況の調査」を各小教区、本委員会教区担当者に配布しました。アンケート実施期間は当初7月28日から9月15日までを予定しましたが、2人の司教から短すぎて十分な調査ができないとのご指摘を受け、10月末までに延期しました。

手続きの不備やアンケート調査の未熟さ、また言葉の混乱によってご迷惑をおかけしましたが、多くの方々のご協力により、1291人もの子どもたちの回答を得ることができました。アンケートに答えてくれた子どもたち、アンケートに協力してくださった皆様に心から感謝します。

調査そのものは教会内という限界があり、社会全体の実像を描くところには程遠い結果であることは認めざるを得ません。しかし、少なくとも教会に来ている子どもたちの実態を少しは垣間見ることができたのではないかと思います。そして、何よりも、マルチカルチャーの中で生きる子供たちの教会に対する生の声が、文字となって私たちのところに飛び込んできたような気がします。

このアンケートの報告書をお届けすると共に、それぞれの現場で「一人一人の声をよく聞いてください」という彼らのメッセージをお届けできたと思います。それぞれの小教区において、子どもたちの教育を受ける権利を擁護し、彼らに居場所を提供し、彼らの叫びに応える取り組みをいっそう強めていただけるよう、心からお願いいたします。

2003年2月
日本カトリック難民移住移動者委員会
委員長 谷 大二、スタッフ一同

「外国籍の未就学児に関するアンケート」実施内容

私たちは教会関係者が、マルチカルチャーの中で生きている子どもが抱える現状と問題を理解し、考えるために、以下の要領で就学状況に関するアンケートを実施いたしました。

目的: 私たち教会関係者がマルチカルチャーに生きる子どもたちが抱える問題を理解し、今後、地域教会として何ができるか考えていくために彼らが抱える就学問題について現状を把握する。

期間: 2002年7月28日から11月22日までの約4ヶ月間

対象: 6歳から18歳までのマルチカルチャーの中で生きる子どもたち

配布方法: 教会住所録に載っている小教区、巡回教会、一部の外国人コミュニティーに「アンケートのお願い」・「アンケート」を8ヶ国語(日本語・ベトナム語・スペイン語・ポルトガル語・タガログ語・韓国語・英語・中国語)で送り、各共同体でコピーを取ってもらい、対象となる子どもとその親に配布し、その回答を「難民移住移動者委員会事務局」まで送付してもらった。

回収・集計:最終的に全体の約16%に当たる161件の共同体から返事があり、そのうち該当者無しの教会34件を除いた127件、1291名の子どもからアンケートの回答が返ってきた。それらを事務局で集計し、2002年11月に行われた難民移動移住者委員会全国担当者会議に提出した。

お詫び: 「外国籍」という用語について

「外国籍の未就学児に関するアンケート」というタイトルのためにどの子どもがアンケートの対象となるのか不明確であり、担当者にご迷惑をおかけしました。私たちの意図としては、今回のアンケートの対象は「マルチカルチャーに生きる子どもたち」であり、必ずしも国籍として「外国籍」の子どもたちだけをさしているのではありませんでした。たとえ日本国籍でも、両親が二つの国出身で二つのカルチャーを持っている場合や、本人と両親が同国籍でも、日本で生まれ育った子どもや、移住家族の子どもも対象として考えていました。
多くの教会から、アンケートの対象となる子どもはいませんとの返事がありました。謹んでお詫びします。

子供たちのさけび – どうして学校に行かないの?

子供たちのさけび - どうして学校に行かないの?

子供たちのさけび – どうして教会に行かないの?

子供たちのさけび - どうして教会に行かないの?

子供たちのさけび – 教会に望むことは何ですか?

子供たちのさけび - 教会に望むことは何ですか?

子供たちのさけび – 日本の生活はどうですか?

子供たちのさけび - 日本の生活はどうですか?

子どもの国籍別人数

子どもの国籍別人数

日本 449
ブラジル 359
ペルー 179
フィリピン 68
ベトナム 67
韓国 19
ボリビア 16
アメリカ 14
中国 8
アルゼンチン 7
コロンビア 6
スペイン 5
チリ 5
パラグアイ 5
インド 4
イタリア 3
カナダ 2
カメルーン 2
アンゴラ 1
インドネシア 1
エクアドル 1
グァテマラ 1
メキシコ 1
ケニア 1
空白・無回答 67
総計 1291

子どもが日本国籍の母親内訳

子どもが日本国籍の母親内訳

フィリピン 322
日本 52
ブラジル 12
ペルー 8
フランス 6
アメリカ 4
コロンビア 4
メキシコ 4
韓国 3
パプアニューギニア 2
ポーランド 2
ボリビア 2
中国 2
アルゼンチン 1
パナマ 1
ベトナム 1
空白・無回答 23
総計 449

最も重要な質問に対する アンケート回答データ

あなたは学校に行っていますか?

年齢(才) 就学 不就学 無回答 不就学の割合
6 88 4 7 4.0%
7 130 5 0 3.7%
8 129 2 1 1.5%
9 113 2 1 1.7%
10 139 3 2 2.1%
11 114 1 5 0.8%
12 131 2 3 1.5%
13 99 2 2 1.9%
14 78 1 1 1.3%
15 76 9 1 10.5%
16 35 5 2 11.9%
17 27 10 1 26.3%
18 22 9 0 29.0%
20 1 0 0 0.0%
年齢不詳 13 4 11 14.3%
総計 1195 59 37 4.6%

(単位:人)

3

学校に行っていない児童 (年齢別の考察)

「あなたは学校に行っていますか?」の質問に対して1291人のうち「はい」は1195人、「いいえ」は59人、無回答は37人でした。学校に行っていない子供たちの比率を年齢別にグラフにあらわしたのが上図です。
<6~7歳>
6、7歳で学齢期にあるのに学校に行っていない「未就学」の児童が5%ほど教会の児童の中にもいることがデータからわかります。その子供たちの数名は「ビザがないから」と答えています。

注)
在留資格(ビザ)がない場合でも公立の学校に入学することができます。居住している地方自治体の教育委員会に受け入れを要求することができます。「外国人登録証」の提示を求められることもありますが、その地域に居住していることを証明する公共料金の領収書やアパートの契約書などで代えることができます。教区のスタッフや地域の支援団体などのスタッフと一緒に行くことをお勧めします。
(株式会社スリーエーネットワーク「日本で暮らす外国人のための生活マニュアル」p262参照)

<8~14歳>
小中学校の児童で2%程度の児童が学校に行っていません。その理由の中で目立つものは「授業がわからない」「いじめられるから」。ドロップアウトした児童がいます。
また、「お金がない」「学校にことわられたから」などの理由も目立っています。ブラジル人学校などでは国や市町村の援助がなく、学費が高くなっていることも一つの理由となっています。中には未就学のままの児童も含まれているようです。

<15~18歳>
グラフ3をみると15歳以上になると学校にいかない児童が急増します。(グラフ中の赤い点線) いじめや言葉の障害、勉強が難しくなったことによってドロップアウトする児童も多いようです。また、15歳になると日本の会社などで労働することができるので、働いてお金を稼ぐ児童が多くなるようです。

学校に行かない理由

親が行けと言わないから 1
お金がないから 9
いじめられるから 8
友達がいないから 3
授業がわからないから 15
先生とうまくいかないから 1
学校に断られたから 8
分からない 5
その他 14
総計 64

(単位:人)
※一人につき複数回答有り

学校に行かないと答えた59人の詳細データ
以下の文中では「未就学」「不登校」「不就学」を次の意味で使っています。
※未就学 ・・学齢期にあるのに学校に行っていない子ども。(6才から12才)
※不登校 ・・日本の義務教育(6才から15才)の中でドロップアウトした子ども
※不就学 ・・中学校を卒業して高校に行かない子ども(15才以上)
(就労した子ども・ドロップアウトした子どもも含む)

就学状況 小学 6才~12才 中学 13才~15才 高校 16才~18才 年齢不詳
未就学 13 0 3 16
不登校 6 7 0 13
不就学 5 24 1 30
総 計 19 12 24 4 59

(単位:人)
※中学の不就学があるのは15才で既に卒業した子どもも含まれるから

就学状況 日本 ブラジル ペルー フィリピン ベトナム ボリビア 無回答 総 計
未就学 1 1 5 6 0 0 3 16
不登校 1 4 2 2 2 0 2 13
不就学 3 13 4 3 2 1 4 30
総 計 5 18 11 11 4 1 9 59

(単位:人)

7

学校生活はどうですか?

年齢(才) a.勉強 b.言葉
好き 嫌い 無回答 難しい 大丈夫 無回答
6 73 11 15 20 58 21
7 112 12 12 18 103 15
8 108 18 7 20 102 11
9 99 9 8 20 87 9
10 105 28 11 30 103 11
11 90 21 9 18 91 11
12 103 22 11 36 91 9
13 76 21 6 27 70 6
14 60 16 4 10 64 6
15 57 17 12 14 59 13
16 24 11 7 11 24 7
17 19 9 10 7 22 9
18 12 9 8 7 14 8
20 1 0 0 0 1 0
年齢不詳 14 2 12 4 9 15
総計 953 206 132 242 898 151

4

年齢(才) c.勉強 d.言葉
いる いない 無回答 ある ない 無回答
6 79 3 17 16 56 27
7 124 1 11 41 77 18
8 127 1 5 36 82 15
9 107 3 6 45 56 15
10 129 5 10 37 87 20
11 112 2 6 28 78 14
12 123 3 10 32 88 16
13 96 3 4 24 68 11
14 70 5 5 20 52 8
15 72 4 10 15 59 12
16 32 3 7 4 30 8
17 28 1 9 8 21 9
18 22 0 7 3 19 7
20 1 0 0 0 1 0
年齢不詳 14 2 12 2 10 16
総計 1136 36 119 311 784 196

5

教会に行っていますか?

年齢(才) はい いいえ 無回答 統 計
6 76 16 7 99
7 109 18 9 136
8 121 10 2 133
9 96 13 7 116
10 116 17 11 144
11 93 18 9 120
12 99 29 8 136
13 72 21 10 103
14 59 16 5 80
15 58 22 6 86
16 27 13 2 42
17 29 7 2 38
18 20 7 2 29
20 1 0 0 1
年齢不詳 17 2 9 28
総 計 993 209 89 1291

(単位:人)

誰と教会に行きますか?

年齢(才) 家族と 一人で その他 無回答 統 計
6 68 3 1 27 99
7 96 2 7 31 136
8 113 0 1 19 133
9 85 1 4 26 116
10 93 3 10 38 144
11 82 2 6 30 120
12 87 3 5 41 136
13 65 3 2 33 103
14 48 1 8 23 80
15 47 3 5 31 86
16 21 1 4 16 42
17 22 3 2 11 38
18 15 3 2 9 29
20 0 0 0 1 1
年齢不詳 15 1 12 28
総 計 857 28 58 348 1291

(単位:人)

日本の生活はどうですか?

年齢(才) 楽しい つまらない さみしい その他 無回答 総 計
6 71 4 2 9 13 99
7 110 4 5 4 13 136
8 112 4 4 1 12 133
9 96 2 5 5 8 116
10 110 9 2 9 14 144
11 94 4 1 9 12 120
12 107 8 6 10 5 136
13 73 10 3 5 12 103
14 57 4 3 12 4 80
15 62 6 4 7 7 86
16 34 2 0 4 2 42
17 22 2 2 9 3 38
18 21 2 1 4 1 29
20 1 0 0 0 0 1
年齢不詳 15 1 2 10 28
総 計 985 62 38 90 116 1291

(単位:人)

まとめ

教会に求められていること
今回のアンケートは主に教会内でのアンケートでした。駅、公園、コンビニなどに集まっている児童からアンケートがあれば、もっと数字は変わっていたかもしれません。しかし、さまざまな理由によって、教育を受ける権利が奪われている児童が現実に教会にもいることも今回のアンケートではっきりしたと言ってよいと思います。
私たちの小教区に求められている役割が明らかになっていることもはっきりとしました。それは、教会に来ている児童、駅や公園に集まっている児童たちの教育を受ける権利を擁護し、マルチカルチャーの中で生きる子どもたちに居場所を提供することです。

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