日本の教会の基本方針と優先課題の解説

このたび司教総会で採択された「日本の教会の基本方針と優先課題」は、私たち日本 司教団が、日本の教会全体に対する共同責任に基づいて決議した、これからの教会活動 の中で軸として捉えたいと思うものを再確認したものです。  司教 […]

このたび司教総会で採択された「日本の教会の基本方針と優先課題」は、私たち日本 司教団が、日本の教会全体に対する共同責任に基づいて決議した、これからの教会活動 の中で軸として捉えたいと思うものを再確認したものです。

 司教たちは、司祭、修道者、信徒と一体となって教会の使命に生きるために、今、自 分たちが基本的に何を目指そうとしているかを再確認し、それを日本の教会に示すこと が自宜を得たことと判断したからです。

 一、基本方針

1.カトリック者のキリストを伝える使命
  カトリック者は、「全世界に行き、すべての者に福音を宣べ伝えなさい」(マルコ  16・15)というイエズスのご命令を実践し、一人でも多くの人々に洗礼の恵みを  分かち合う責任を担っています。「あなたたちは行って、すべての国の人々を弟子に  しなさい。父と子と聖霊のみ名に入れる洗礼を彼らに授け、わたしがあなたたちに命  じたことを、すべて守るように教えなさい。」(マタイ28・19-20)という使  徒たちへのご命令は現代の日本の教会の司教たちにもそのまま当てはまると考えてい  ます。

  すでに洗礼の恵みにあずかった人々は、ことばと生活を通して、他の人々にキリス  トを伝え、その中からキリストの福音の新しい伝え手を見つけなければなりません。  そのために、おのおのの共同体は、まず神のみ言葉をいただき、そこから霊的な力を  くみ取ることが大切です。み言葉は、私たち自身のためだけにではなく、それを伝え  るためにいただくものなのです。     そして、「まだキリストの食卓を囲んでいない人々」が、それぞれどんな苦しみ、  悩みまた希望を抱いて生きているのかに耳を傾け、み言葉を信じる自分の体験を語り、  キリストを紹介するという対話を通して、かれらがついにはそのキリストを受けいれ  るように導くことこそがカトリック者の使命のであることを改めて強調したいと思い  ます。     その実現のために、教会活動を思い切って方向転換する必要があるという信念に達  しました。つまり、教会内の行事や活動のみにとどまったり、一方的に要理を教授す  るという形ではなく、地域や自分たちが関わる多くの人々とともに、キリストを見い  だしていく対話の訓練をすることが必要なのではないかと思います。これこそが、福  音宣教であるといっても、過言ではないからです。

2.社会の福音化のためにある教会
  1974年のシノドス(世界代表司教会議)は、教会の中心的使命である福音宣教  が、単に個人の回心のみではなく、その内的な回心が、社会と生活様式を含めた文化  にまで影響を及ぼすものでなければならないことを指摘しました。聖書は、罪や悪が  単なる個人の問題ではなく、人間関係に及ぶものであることを初めから教えていまし  たが、現代人は、社会が複雑化するにしたがって、このことを以前にも増して意識す  るようになりました。そして、解放や救いをのべるとき、それが、人々の考え方、価  値観、関心事、生活様式にまで及ぶものでなければならないことを痛感しています。  福音であるキリストの力によって、あらゆる悪の根源である罪から解放され、社会的  偏見、差別、抑圧、搾取を生み出している社会や文化が変革されるよう働くことこそ  真の福音宣教である、と改めて強調したいと思います。     しかし、これは、既存の社会や文化を破壊し、なにか別のものをうち建てることを  意味しているわけではありません。キリストの福音が、日本人の心情や精神性にまで  達することが大切であることを言っているのです。そのためには、キリスト教を頭で  理解するだけでは足りません。キリストと現代人であり日本人である私たちがほんと  うに出会い、一つになることが求められるわけです。

  そこで、司教団は、社会や文化の中にある福音的なものを見いだし、それをさらに  完成に向けて育て、同時に福音に反するものが変革されるように、キリストとともに  「小さな人々」のうちに住まい、み国の奥義を示し、み国を与えるのがおん父のご意  志であると言われたからです。福音と私たちの出会いの場はそこにしかないと思いま  す。

3.キリストの霊による一致
 以上の二つの基本方針は、あたかも両車輪のようにお互いに補い合うものであり、福 音を伝えるという基本的使命において一つになっています。したがって、強調点はそれ ぞれ異なりますが、キリストのご命令を実践するという唯一の使徒職にともにあずかる ことなのです。同じキリストの霊に生かされ、お互いに一致協力しながら、この共通の 使命に生きることが大切なのです。

 二、優先課題

1.宣教のための共同体育成
 十六教区が一体となって、日本の教会として当面取り組まなければならないのは、上 述の基本方針を実現するための実践的養成ではないでしょうか。そして、どの教区も、 どの小教区も、み言葉を聞き、それを喜びとして語る共同体になるにはどうしたらよい かを真剣に考え、実践することを、他の何にも増して第一の課題としたいと思います。

 この課題が、まずカトリック者一人ひとり、各小教区、各教区のそれぞれの回心と努 力によって達成されることは当然ですが、それとともに、他の小教区、教区とも手をと り合い、助け合って努力することも大切です。

 このような具体的な取り組みを通して、宣教共同体としてのプログラムができればと 願っています。その意味で、私たち司教団も、今までの各方面での努力を積極的に評価 し、お互いに学び合い、深め合えるような機会をできるだけ多く設けたいと思います。

2.修道会、宣教会、カトリック諸事業体との協力態勢
 司教団は、教区の責任者である司教と修道会、宣教会、カトリック諸事業体との関係 についても率直に反省しなければならないところがあることを認めます。これらの方々 は、教育や福祉という大きなパイプで現在の日本の社会につながれています。それぞれ が、それぞれの考えと方針に基づいて、役割を果そうとするのは当然ですが、それに加 えて、日本の教会の一員として、司教を中心とした宣教共同体となり(第二バチカン公 会議〔司教司牧任務教令〕28項)、この基本方針に沿って協力ができるように、態勢 作りを具体的に実現していこうではありませんか。

3.1987年福音宣教推進全国会議の開催
 私たち司教団は、日本の教会がすべてのカトリック者によって構成され、福音を宣べ 伝える使命をただ司教団のみが担うものではないことを知っています。

 そして、日本の教会の神の民が、その姿を具体的に表現し、また責任を分かち合うた めの場として福音宣教推進全国会議を設置し、それへの参加を呼びかけたいと思います。  この会議は、日本の教会の福音宣教についての中・長期展望と方針を審議し、司教協 議会に対して提案、答申するために、全国の信徒、修道者、司祭の代表者が司教団と共 に開くもの、というのが司教団の構成です。司教団の執行機関である常任司教委員会の 指導のもとに、司教・司祭・信徒からなる議長団を組織して準備・運営にあたりますが、 その会議に至るプロセスを大切にし、代表者だけのものではなく、全共同体のものにし たいと願っています。

 司教団は、この全国会議の第一回を1987年に開催することにしました。そのため に、85年には、上記基本方針について、教区レベルでは、司教が司祭団、修道会、宣 教会と、小教区レベルでは司祭が信徒と話し合い、86年には、教区ぐるみ、あるいは 教会管区ぐるみでの意識の高揚と学習に取り組みたいと考えています。このようにして、 福音宣教のための一致した動きが始まるとき、日本の教会は宣教共同体としての第一歩 を踏み出すのではないでしょうか。

 父である神が、私たち日本の教会を祝福し、私たちの歩みを導いてくださるように、 ともに祈りつつ、「基本方針と優先課題」の実現を目指して前進していこうではありま せんか。

1984年7月5日
     日本カトリック司教協議会
 常任司教委員会
 

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