青柳さんの地裁判決に対する私たちの見解

青柳さんの地裁判決に対する私たちの見解  本年1996年3 月13日、福岡地裁はペルー人を紹介したとして、出入国管理および難民認定法(不法就労助長罪)違反に問われていた青柳行信さんに対し、懲役八月、執行猶予三年の有罪判決 […]

青柳さんの地裁判決に対する私たちの見解

 本年1996年3 月13日、福岡地裁はペルー人を紹介したとして、出入国管理および難民認定法(不法就労助長罪)違反に問われていた青柳行信さんに対し、懲役八月、執行猶予三年の有罪判決を下しました。日頃から移住労働者の支援に関わっている者にとって、この判決は大変不当なものであると感じております。

 日本における移住労働者政策は、過去数回の閣議決定「雇用対策基本方針」で「専門的・技術的分野の労働者は、可能な限り受け入れることにするが、いわゆる単純労働者の受け入れについては、わが国の経済社会に広範な影響が懸念されることから、十分慎重に対応する」というものでした。しかし、バブル経済の時、労働力が著しく不足すると、入国管理局(以下入管とする)は、資格外・超過滞在の労働者の存在を暗黙のうちに認めてきました。つまり、政府はアジア系の移住労働者に対して、不法状態で働くことを容認する「不法就労」政策をとってきました。さらに政府は、1990年に何の社会的整備をすることなく、入管法を改訂し、日系人だけが、単純労働に従事できるビザを定めました。これは、閣議決定に反するものであり、単純労働を合法化するものでした。しかし、一方でアジア系の移住労働者に対しては、厳しい締め付けが始まり、追い出しにかかりました。つまり、労働力の切り替えであり、使い捨てでもあったわけです。

 1990年には、10万単位の日系人労働者が急増しましたが、バブル経済が崩壊すると、入管は日系人に対するビザ更新条件を厳しくすることによって、追い出し政策をとっているのです。

 政府の移住労働者政策は、移住労働者を人間としてではなく労働力として景気の調整弁として機能させ、人権を無視した使い捨て政策に他なりません。このような政策は、移住労働者に何ら社会的な保障も与えず、彼らを疾病、賃金未払、労働災害などさまざまな苦境に追い込み、帰国するにも帰国できない状況に追い込みました。これらの人たちを支援したのは、公的な機関ではなく、青柳さんをはじめとする善意の人々、市民団体、労働組合でした。人権を無視した政策のつけは、市民や市民団体、労働組合が背負っているのです。止むに止まれず仕事を紹介した青柳さんに「不法就労助長罪」を適用したことは、衆参両議院による付帯決議「同規定は、悪質な雇用主・あっせん業者等の取り締まりの必要性から設けられた経緯に鑑み、むやみな摘発を控え、その適用に当たっては、いやしくも乱用にあたることがないように十分配慮する」(1990年6 月1日)で言われている「その適用にあたって乱用」していることに他なりません。

 これまで「不法就労助長罪」の適用は、超過滞在の労働者を多く雇用している雇用主ならびに悪質なブローカーに対して適用されてきましたが、彼らに対する適用でさえ、罰金程度で済んでおり、起訴され有罪判決を受けた例を探すのは困難です。裁判官が判決の後半で、青柳さんの活動に対して「人道主義に根ざした崇高なもの」と述べていますが、まさに人道主義に基づいた活動に下された有罪判決は、市民運動に対する挑戦であり、不当なものであると言わざるを得ません。私たちはこの判決をとうてい容認することはできません。

 また、判決文の中で青柳さんをブローカーとして位置づける根拠となったペルー人の証言は、法廷で証言したペルー人のものではなく、入管によって早々に送還され、ペルー国内で得られた証言をもとにしているのです。このこと自体、公正さを欠いたものであり、本来法廷でその証言の真偽が問われるべきものなのです。従って証拠としては極めて信憑性が疑われると言えるでしょう。

 さらに判決の中で、上記ペルー人を早々に強制退去させた入管は、人手不足のうえ、仕事量が多く、外国籍の人たちに対する対応が不備であったことを認めており、青柳さんの働きが「入国管理局の政策を補完する意味合いがあったことは否定できない」と述べていることを考え合わせてみるとき、青柳さんの活動をブローカーと断定することはできません。

 私たちは青柳さんに全く落度が無かったと主張するものではありません。個人の通帳に寄付金やカンパを入れるなどの過ちがあったことは事実としても、このことが「犯情は悪質」と断罪されなければならないほどの罪にあたるものでないことは、今まで述べてきたことから明らかです。私たちは青柳さんの無実と、青柳さんの裁判を支援してくださるように皆さんに訴えたいと思います。

     1996年9 月

        

カトリック国際協力委員会
       委員長  池長 潤
滞日外国人と連帯する会・全国担当者、運営委員

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