入国管理事務所・留置所・拘置所・刑務所における外国籍の人々に対する対応および処遇改善に関する要望書

法務大臣 下稲葉耕吉殿  私たちカトリック教会は、さまざまな事情から来日する外国人の援助に、微 力ではありますが、これまで積極的にかかわってまいりました。日本で働く彼ら が直面する問題は複雑で、彼らを支え助けることは容易 […]

法務大臣 下稲葉耕吉殿

 私たちカトリック教会は、さまざまな事情から来日する外国人の援助に、微 力ではありますが、これまで積極的にかかわってまいりました。日本で働く彼ら が直面する問題は複雑で、彼らを支え助けることは容易なことではないこと、ま た建前だけで解決できるような単純なものではないことも、私たちは十分承知し ております。しかし、いかに問題が複雑であろうとも、私たちは国籍、人種の違 いを超えて、すべての人間が神の前で同じ人間であり、人間としてかけがえのな い尊厳をもっているという信念のもとに、彼らとかかわってまいりましたし、こ れからもその信念のもとにかかわっていく所存です。

 その中で、私たちは、不幸にも日本社会の中で法を犯し、留置所や拘置所や その他の所で取り調べを受けたり、刑務所に送られたりする外国人に対する対応 や処遇が、人道的な見地から改善すべき点が多々あることを知りました。担当者 や責任者の方々が、定められた法と規則に則(のっと)って行動されており、ま たそれぞれの施設で改善のための努力をなさっておられることを存じ上げてはい ますが、人道的な見地から早急に改善すべき点がまだまだあるという確信から、 以下に示すいくつかの点に関して、関係省庁の皆様方と責任者の方々に、対応お よび処遇の改善、さらには法や規則の改正を行ってくださるようお願い申し上げ る次第です。     
1.拘置所や刑務所に送られることは、日本人であっても、緊張するものです 。日本語や日本の風習が分からない外国人にとっては、些細(ささい)なことが その不安を増幅させるきっかけとなります。そのためにノイローゼや精神障害に 陥る人も少なくありません。そこで、まず外国語のできる職員の養成をお願いい たします。また、拘置所や刑務所に入るとき、彼らへの説明や心得などは、自国 の言葉で聞き、読めるような配慮をお願いいたします。またその中に、弁護士を 依頼できる正当な権利があることも明記してくださるようお願いいたします。
2.さまざまな事情からノイローゼや精神障害に陥る場合には、彼らがカウン セリングを受けられるように、配慮をお願いいたします。不安が高じたための刑 務所内での彼らの秩序を逸脱するような言動に対しては、懲罰をもって対処する のではなく、カウンセラーや専門家の協力を得ながら対処してくださるよう、配 慮をお願いいたします。
3.刑務所での面会が家族にしか許されないという、現行の規則の改定を願い ます。と申しますのは、本国からの家族の面会は、経済的な理由から、ほとんど 不可能です。家族と面会のないままの刑務所での生活は、孤独感や不安感を一層 増幅させます。せめて家族からの依頼を受けた者が、家族に代わって面会できる よう、規定の改定を願います。
4.自国語で手紙を自由に書くことや面会のときに自由に自国語で話すことが できるよう、特にアジアの諸言語を話せる職員の養成に力を入れてくださるよう お願いいたします。刑務所に入れられた息子の面会に来たイスラエル国籍の、日 本語も英語もできない母親が息子との自国語での会話が許されず、一言も話すこ ともできずに祖国に戻ったという非人道的なケースも聞いております。 しかし 、職員の言語能力の養成には時間がかかるとも思いますので、暫定的にNGOな ど民間からの人材の活用を提言いたします。
5.施設で働く職員の意識・自覚が、国際レベルからはるかに遠いものである ということも、私たちはかかわりのなかで知りました。職員の方々には、人権に 関する意識の向上、そのための養成および学習の充実を願います。刑務所の存在 理由は「懲らしめとしての施設」から「更生のための施設」へと変わりつつあり ます。これは今や国際的な流れであると私たちは認識しております。この点を考 慮して、職員の方々のための、人を更生させるためのカウンセリングなどを含め た養成・学習の徹底をお願いいたします。
6.人間は、刑罰を与えるだけでは立ち直れるものではありません。カウンセ リングや宗教の力を借りて、心の問題に触れる必要があります。そこでは宗教も 大きな力となるものです。受刑者が信じる宗教とのかかわりの在り方に関して、 大所高所から見た、施設側の理解と柔軟な対応を望みます。カトリックの信仰を 持つ者には、洗礼やミサや聖体拝領は重要な意味を持ちます。宗教に対する海外 の在り方なども参考に研究し、宗教に対する深い理解を願います。
7.入管事務所や留置所その他の所で通訳制度を確立し、充実してくださるよ うお願いいたします。種々の言葉を話すことのできる通訳者だけでなく、特に公 正な裁判のために裁判用語や制度を熟知した通訳者の質の向上を願います。
以上の事柄は、私たちが外国人にかかわった経験から実感したものです。日本 が世界に開かれた国際社会の一員として活躍していくためにも、その一つとして 、人道的な見地から、拘置所や刑務所に送られる外国人に対する対応の改善を願 うものです。

1997年11月12日送付
日本カトリック司教協議会
常任司教会委員長
濱 尾 文 郎

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