核兵器廃絶を求めます

内閣総理大臣  橋本龍太郎殿 1998年5月、南西アジア(インド・パキスタン) に核拡散の嵐が吹き荒れました。 この事態に対し、わたしたちは怒りと同時に、人類が今なお紛争解決の手段として 対話の道を選べないでいることに悲 […]

内閣総理大臣  橋本龍太郎殿

1998年5月、南西アジア(インド・パキスタン) に核拡散の嵐が吹き荒れました。 この事態に対し、わたしたちは怒りと同時に、人類が今なお紛争解決の手段として 対話の道を選べないでいることに悲しみを感じています。一連の核実験強行が新た な核実験への誘い水となることのないよう心から訴えます。

  

核兵器に対する日本カトリック司教団の見解

 人類史上初の核兵器の犠牲となった広島と長崎という二つの町を持つ日本にあって、 日本のカトリック教会は、核兵器をはじめすべての兵器を廃絶するよう、世界の人々 に訴える責任と義務があると考えます。

 核兵器は非人道的な兵器であり、決して認めることのできない悪そのものです。 「都市全体または広い地域をその住民とともに無差別に破壊することに向けられた 戦争行為はすべて、神と人間自身に対する犯罪であり、ためらうことなく固く禁止 すべき」(第二バチカン公会議『現代世界憲章』80)ものだからです。

 日本のカトリック教会は、核兵器を持つことが力の均衡を保つために仕方ないこと だという主張を絶対に認めることはできません。「ある国が核兵器を装備するとした ら、この事実は、他の国に、同種の、しかも同じ破壊力を持つ手段を手にしようと努 力させる理由となるのです」教皇ヨハネ二十三世『パーチェム・イン・テリス-地上 の平和-』三)。「準備が整うということは戦争開始が可能だということを意味し、 さらにそれは、ある時、どこかで、何らかの形で、だれかが、世界破壊の恐るべきメ カニズムを発動させるという危険をおかすということなのです」(教皇ヨハネ・パウ ロ二世「広島での平和アピール」1981年2月25日『教皇ヨハネ・パウロ二世訪日公式 メッセージ』)。  日本のカトリック教会は、できうる限りすみやかに核兵器の実験を停止し、核兵器 を廃絶するよう求めます(日本カトリック司教団「核兵器廃絶アピール」1995年6月 23日)。

インドとパキスタンに対する抗議

両国が武力、わけても核兵器によらない平和を求める世界の人々の願いにこたえる ことなく、核の誘惑に屈したことに対して抗議します。原子爆弾によっていのちを落 とした広島・長崎の36万を超える人々と、今なお苦しんでいる被爆者は、人類が二度 と同じ過ちを繰り返してはならないという歴史の証人であって、核兵器の威力や核抑 止力の証人ではありません。今なお原爆症で苦しんでいる方々の叫びに真摯に耳を傾 けてください。平和のための核兵器など存在し得ないのです。今後、両国が一切の核 実験を行うことなく、軍拡競争を中止することを要請すると同時に、決して核兵器を 使用しないことを心から要望いたします。

  

核保有国(国連安全保障理事会常任理事国)に対する要請

 わたしたちは、このたびの核拡散に対する核保有国の重大な責任を厳しく追及しま す。平和を望む世界の人々の声にこたえ、国連が核拡散防止条約(NPT)(1975)、 包括的核実験禁止条約(CTBT)(1996)と、核軍縮の流れを作ってきたことに対し て、一定の評価はできます。しかし、核保有国は核兵器を手放さない方針を貫いてき ました。フランス・中国の駆け込み核実験、アメリカの臨界前核実験に見るように、 そこには核兵器廃絶の意志は微塵も感じられません。

 核保有国が核抑止力による安全保障という考えをやめ、自己中心的既得権を放棄す る勇気を持つことを要請します。国連安全保障理事会常任理事国には、率先して、こ の世界から核兵器を廃絶する具体的計画を立てる義務があります。 そうしない限り、 非核保有国に核保有への欲望を正当化する口実を与え続けることになります。

 無条件の核兵器廃絶条約に向けて、今すぐ行動を始めることを要望します。この条 約こそ、世界の平和につながる近道だと信じるからです。

  

日本政府に対する要請

日本政府が被爆国の立場から核実験を非難してきたことを支持すると同時に、改め て核兵器の廃絶を留保なしに訴えることを強く要請します。これまで日本政府が、核 保有国(国連安保理常任理事国)の核実験(臨界前核実験を含む)に対して例外なく批判 してきたとは言い難いからです。日本政府は公式見解として非核三原則を表明してい ます。しかし、日本は核の傘に入っているではないかという疑問と、プルトニウムを 保有することで核兵器準備をしているのではないかという疑惑に対して、明確な回答 をいまだに出していません。これらがはっきりしない限り、日本も核抑止力の論理に 従っていると言われても反論はできません。日本政府は、核兵器がもたらす恐ろしさ を世界に広く知らせ、核抑止力によらない安全保障の道を国際社会と共に探求する使 命が与えられていることを自覚してください。

  

日本のカトリック信者に対する要請

 核兵器の削減は、人々の心から戦争への恐怖を取り除くために、一致協力して、誠 実に努力することなくしては実現しないものです。すべての人の幸せを望んでおられ る神の導きを祈りつつ、国と国、民族と民族との間に真の信頼関係が築かれるために、 わたしたちにできることを一つひとつ実践していきましょう。わたしたちの力をはる かに超える神の力に信頼し、真心と愛をもって平和のために連帯していきましょう。

  

祈り

 神よ、すべての人の心の中に、平和の知恵と正義の力と兄弟愛の喜びを注いでくだ さい。神よ、わたしたちに、憎しみには愛、不正には正義、戦争には平和をもってこ たえることができる英知をお与えください。貧困をなくすために努力し、簡素な生活 を選びとり、国籍を超えて連帯する勇気をお与えください。

1998年6月9日
日本カトリック司教協議会
会 長   濱尾 文郎

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