「特定胚の取扱いに関する指針等の改正案」への意見

文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室 殿 「特定胚の取扱いに関する指針等の改正案」への意見 わたしたちは、「特定胚の取扱いに関する指針」、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律施行規則」、「 […]

文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室 殿


「特定胚の取扱いに関する指針等の改正案」への意見


わたしたちは、「特定胚の取扱いに関する指針」、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律施行規則」、「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」に関する今回の改正そのものを承認できないと考えます。理由は以下の通りです。
 
1. 国はすでに2004年に総合科学技術会議において、研究目的の人クローン胚作成を容認する決定を行いましたが、今回の上記指針等の改正により、人クローン胚の作成に関する手続きが法律によって定められることになります。「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について(第一次報告)」が述べているように、人クローン胚研究について、「法律によりその実施を認めている国は少な」く(1-11~1-12)、韓国と英国にとどまります。したがって、今回の指針改正がもつ意味は小さくありません。わたしたちはすでに総合科学技術会議の2004年の決定が行われた際に、ヒト胚の破壊を伴う人クローン胚研究は、倫理的に認められないことを理由に、反対を表明しました。今回、この決定が法的規制を伴って実施されることにあらためて強い反対を表明します。
 
2. 総合科学技術会議は、人クローン胚を作成するために、ヒトの未受精卵を除核したものを用いることを提言しました。しかし、現実にこのような未受精卵を入手することが困難であることを背景として、科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会「人クローン胚研究利用作業部会」は、その後の研究に基づき、総合科学技術会議が想定していなかった、受精卵由来の除核卵を用いた人クローン胚の作成を認め、そのための手続きを今回の改正案に示しました(「特定胚の取扱いに関する指針(案)」第二章第一節第九条5三。「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について(第一次報告)」第2編第1章第2節参照)。この場合に用いる受精卵は、生殖補助医療において廃棄される3前核胚(3個の前核を有する一細胞の受精胚)ですが、受精胚由来の人クローン胚の作成では、(1)ヒト受精胚を除核して破壊し、(2)作成した人クローン胚を、ES細胞作成のために破壊するという、2度のヒト胚の破壊が行われます。このようなヒト胚の二重の破壊は、けっして容認できるものではありません。国も総合科学技術会議意見「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(2004年7月)において「人の生命の萌芽」であるヒト胚は尊重すべきものだということを認めました。この「人の生命の萌芽」が人であることは科学的な事実であり、この萌芽の状態にある人も、人である限り、例外なく尊重すべき尊厳を有します。この考え方は、宗教や国家の違いを超えて、人類が普遍的に共有することのできる原則です。このことは、国連が2005年に研究目的の人クローン胚作成を含め人クローン胚作成の全面的な禁止を宣言したことにも示されています。
 
3. 2004年に総合科学技術会議が意見具申「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」をまとめた後、2007年11月に京都大学の山中伸弥教授らはヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功し、患者自身の体細胞を用いた再生医療や疾患モデルの作成の可能性を示しました。iPS細胞は、クローン胚由来のES細胞と異なり、ヒト胚の破壊という倫理的問題を伴いません。2007年末から国もiPS細胞研究への支援を積極的に進めており、今や人クローン胚作成の必要性に関する社会的妥当性・科学的合理性は認められないと思われます。

2008年7月10日
日本カトリック司教協議会常任司教委員会




解説

 2008年6月24日付で文部科学省が実施した「特定胚の取扱いに関する指針等の改正案に関するパブリックコメント(意見公募)」(注1)に対して、日本カトリック司教協議会常任司教委員会(委員長:岡田武夫 カトリック東京教区大司教)は、7月10日、意見公募に応じ、以下の意見表明を行いました。
意見表明は、カトリックの倫理的教えに基づいて、国の人クローン胚をめぐる施策にあらためて反対するものです。具体的な要点は次の3つです。

  1. 国による人クローン胚の作成の実施に反対する。
    カトリック教会は、人が受精のときから人としての尊厳をもち、尊重されるべきだと考えます。そこで、ヒト胚の一つである人クローン胚(注2の研究目的の作成に反対します。研究目的の人クローン胚作成は、ES細胞を作るために、いったん作ったクローン胚を破壊するからです(注3)。司教団はすでに2004年に国が研究目的の人クローン胚作成を容認する決定を行ったときに反対を表明しました。しかし、今回、この決定を国が正式に法律の下に実施しようとすることに対して、あらためて反対を表明します(注4)
  2. ヒト受精胚由来のクローン胚の作成に反対する。
    今回、国は人クローン胚を作るために、従来考えられていたヒト未受精卵を使用する方法ではなく、ヒト受精胚(その中で、「3前核胚」と呼ばれる、生殖補助医療で廃棄される胚)を使用する方法を新たに提案しました。その場合、(1)ヒト受精胚を(核の除去によって)破壊した上で人クローン胚を作り、(2)その上で、この人クローン胚を破壊してヒトES細胞を作るという、一連の手続きの中で2回のヒト胚の破壊を行うことになります。これはさらに非道徳的な操作だと考えます。
  3. 人クローン胚の作成は不要となったことを指摘する。
    2007年に京都大学の山中伸弥教授が樹立に成功したヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、人クローン胚のようにヒト胚の破壊を行わずに、患者自身の体細胞から作られる万能細胞です。iPS細胞の出現によって、人クローン胚の作成は必要なくなったと考えます。

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