教皇ベネディクト十六世の国際宇宙ステーションとの対話

教皇ベネディクト十六世は5月21日(土)午後1時11分(日本時間同日午後8時11分)から国際宇宙ステーション(ISS)と衛星テレビ電話を通じて対話を行いました。対話は英語とイタリア語により約20分間行われました。以下はそ […]


教皇ベネディクト十六世は5月21日(土)午後1時11分(日本時間同日午後8時11分)から国際宇宙ステーション(ISS)と衛星テレビ電話を通じて対話を行いました。対話は英語とイタリア語により約20分間行われました。以下はその全訳です。この対話の様子はバチカン放送(Radio Vaticana、CTV)によりインターネット中継されました。ローマ教皇が宇宙滞在中の宇宙飛行士と通話を行うのは初めてのことです。

対話には国際宇宙ステーション滞在中の宇宙飛行士全員が参加しました。教皇は5つの質問を行い、それぞれの質問に、「エンデバー」船長のマーク・ケリー(Mark Kellly 47歳)、ロナルド・ギャラン(Ronald J. Garan, Jr. 49歳)、マイケル・フィンケ(Edward Michael Fincke 44歳)、ロベルト・ヴィットーリ(Roberto Vittori 46歳)、パオロ・ネスポリ(Paolo A. Nespoli 54歳)各宇宙飛行士が答えました。

国際宇宙ステーションには米国人7名、ロシア人3名、イタリア人2名の計12名の宇宙飛行士が滞在しています。うち、ロベルト・ヴィットーリ宇宙飛行士を含む4名は、5月16日に打ち上げられたスペースシャトル「エンデバー」により宇宙ステーションに到着しました。「エンデバー」の打ち上げはこれが最後となります。

マーク・ケリー夫人のガブリエル・ギフォーズ下院議員(Gabrielle Dee Giffords 40歳)は2011年1月8日にアリゾナ州ツーソンで銃撃され、頭部に重傷を負いました。

なお、対話の動画は以下のNASAウェブサイトで視聴できます。
http://www.nasa.gov/multimedia/videogallery/index.html?media_id=89979111


あいさつ

 親愛なる宇宙飛行士の皆様。

 ミッションを行う皆様と会話する特別な機会を得たことをたいへんうれしく思います。とくに(エンデバー)乗組員と現在の宇宙ステーション滞在者の多くのかたとお話しできることを感謝します。
 人類は科学的知識とその技術的応用の分野できわめて急速な進歩を遂げた時期を経験しています。その意味で、皆様はわたしたちの代表者です。皆様は、日常生活の限界を超えて、人類の未来にとっての新たな空間と可能性の探求を先頭に立って行っておられるからです。
 わたしたちは皆、皆様がこのミッションを勇気と規律と献身をもって準備してこられたことをたたえます。皆様が高貴な理想から霊感を受け、研究と努力の成果を人類と共通善のために役立てようとしておられることを確信しています。
 この対話の機会に、皆様と皆様のミッションが可能となるために協力しているすべてのかたに対し称賛と感謝を表します。そして、ミッションが安全かつ成功裡に終了するよう皆様を心から励まします。
 しかし、これは対話ですので、わたしだけが話していてはいけません。皆様の体験と考察を伺えることをとても楽しみにしています。よろしければ、いくつかの質問をさせていただきたいと思います。

第一の質問

 皆様は宇宙ステーションから地球をたいへん異なるしかたで見ておられます。皆様は一日に何度も諸大陸と諸国家の上を飛行されます。皆様にとって、わたしたちが地球上にともに住んでいること、互いに争い、殺し合うのが愚かなことは、自明のことだと思われます。マーク・ケリー氏の奥様(ガブリエル・ギフォーズ下院議員)が深刻な攻撃の犠牲となられたことを存じております。奥様の健康状態が回復し続けることを願っております。宇宙ステーションから地球を眺めながら、地上で諸国家と諸国民がともに生きる生き方、あるいは、科学が平和に役立つ方法についてお考えになったことがありますか。

マーク・ケリー(米国)

 教皇様、ご親切なおことばをありがとうございます。家内のギャビーのこともお話しくださり、感謝します。とてもよいご質問です。わたしたちが世界の大部分の上空を飛行しているとき、国境は見えません。しかし、同時にわたしたちは、人々が互いに争い合っていること、この世界で多くの暴力が振るわれていること、それが本当に不幸だということが分かっています。通常、人々はさまざまなことがらをめぐって争います。現在、中東に見られるとおりです。その原因は、ある地域では民主化ですが、人々が争う普通の原因は資源です。宇宙では興味深いことがあります。・・・・地上では人々はしばしば資源のために争います。宇宙では太陽光エネルギーを使用しています。宇宙ステーションには燃料電池があります。ご存じのとおり、宇宙ステーションで太陽光エネルギーを利用することを可能にした科学技術は、わたしたちに限りない量のエネルギーを与えてくれます。この技術がもっと地上で応用されれば、暴力をある程度減らすことができるでしょう。

第二の質問

 わたしがしばしば話題にするテーマは、わたしたち皆が地球の未来に責任を負っているということです。わたしは、環境と将来の世代の生存が深刻な危機に直面していることを思い起こします。科学者は、わたしたちは注意を払い、倫理的観点から良心をも深めるべきだといいます。皆様は特別な観測点から、地球の状況をどのようにご覧になりますか。わたしたちがもっと注意すべきしるしないし現象があるでしょうか。

ロナルド・ギャラン(米国)

 教皇様。お話しできることを光栄に存じます。仰るとおりだと思います。わたしたちは特別に有利な地点に立っています。一方で、わたしたちは、自分たちに与えられた地球が言い表しがたいほど美しいのを目にすることができます。しかし他方で、地球がどれほど壊れやすいかも本当にはっきりと分かります。たとえば大気です。宇宙から見た大気は紙のように薄いものです。この紙のように薄い層があらゆる生物と真空の宇宙を分離し、それだけがわたしたちを保護していることを考えると、厳粛な気持ちになります。次のように思われます。地球は暗黒の宇宙に吊り下がっています。わたしたちは皆、この地球上に住み、宇宙の中でこの美しく壊れやすいオアシスの上に乗っています。それは本当に信じられない眺めです。わたしたちは皆、国際協力により多くの国が建設した驚くべき衛星宇宙ステーションに搭乗し、軌道上で驚くべき事業を成し遂げています。そのことを考えると、多くの希望に満たされます。それだけでも、わたしたちは、ともに働き、協力することによって、地球が直面するさまざまな問題を克服できることが示されます。わたしたちは地球の住民が直面する多くの困難を解決できると思います。・・・・ここは生活し、働くためのすばらしい場所です。わたしたちの美しい地球を見るためのすばらしい場所です。

第三の質問

 皆様が現在なさっている経験は、特別なものであり、またたいへん重要です。皆様がわたしたちのいる地球に戻って来られても同じです。皆様は、帰還されると、大きな称賛を受け、権威をもって語る英雄のように扱われることでしょう。皆様はなさった経験について話すよう求められるでしょう。皆様がとくに若者に伝えたいもっとも重要なメッセージは何でしょうか。若者は皆様の経験と発見から強い影響を受けながら、世を生きるからです。

マイケル・フィンケ(米国)

 教皇様。同僚がお話ししたように、わたしたちは神が造ったわたしたちの美しい地球を上から眺めることができます。地球は太陽系全体の中でもっとも美しい惑星です。しかし、上を見上げると、地球以外の宇宙を見ることができます。地球以外の宇宙が、わたしたちの探求を待ちながらそこに存在しています。国際宇宙ステーションは、人類が建設的に働くならば何をなしうるかを示す、一つの象徴ないし例にすぎません。ですから、わたしたちのメッセージは――それは多くのメッセージの一つですが、もっとも重要なメッセージの一つだと思われます――、地球の子どもたち、若者に、わたしたちの探求を待っている宇宙が存在することを知らせることだと思います。わたしたちが力を合わせるなら、実現できないことはありません。

第四の質問

 宇宙の探求は科学が行う魅力的な冒険です。皆様は外界から来る放射線の科学的研究を進めるための新機材を導入されたと伺っています。しかし、宇宙の探求は、人間精神の冒険でもあります。それは、宇宙と人類の起源と目的を考察するための力強い刺激となります。信仰者はしばしば限りない天を仰いで、万物の創造主について思い巡らします。そして偉大な創造主の神秘に心を打たれます。それゆえ、わたしが、自らミッションに参加することのしるしとしてロベルト(・ヴィットーリ)に差し上げたメダルには、人間の創造の姿が刻まれています。それはミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の天井に描いたものです。多くの活動と研究の中で、しばしこのような考察を行い、あるいは創造主に祈ることがあるでしょうか。それとも、地上に戻ってからこうしたことがらを考えるほうが容易でしょうか。

ロベルト・ヴィットーリ(イタリア)

 教皇様。宇宙ステーションに滞在し、ステーションの宇宙船ソユーズの宇宙飛行士として働くことは、きわめて多忙です。しかし、わたしたちは皆、夜になると、地球を見下ろす機会があります。わたしたちの地球、この青い惑星は、美しいものです。青はわたしたちの地球の色です。青は空の色です。青はイタリア空軍の色でもあります。イタリア空軍は、わたしがイタリア宇宙機関(ASI)と欧州宇宙機関(ESA)に参加する機会を与えてくれた組織です。わたしたちが一時、地上を見下ろすとき、地球の美しさを三つの次元で示す美がわたしたちの、わたしの心を捕らえます。そしてわたしは祈ります。自分のため、家族のため、未来のために。わたしは硬貨をとって、無重力を示すために、目の前で浮かべてみます。この機会に教皇様に心から感謝します。そして、硬貨を友人であり同僚であるパオロに向かって浮遊させます。パオロはソユーズで地球に帰還します。わたしが宇宙に携えてきた硬貨を、パオロが地上に持ち帰り、教皇様にお渡しします。 (以上、英語。以下イタリア語)

第五の質問

 わたしの最後の質問はパオロに行います。親愛なるパオロ。ご存じのとおり、数日前、お母様が亡くなりました。数日後、家に帰られても、お母様を見ることはできません。わたしたちは皆、あなたに寄り添います。わたしもお母様のためにお祈りしました。・・・・この悲しみのときをどのように過ごしておられたでしょうか。宇宙ステーションの中で、遠く離れ、孤独で、人々から引き離されたと感じておられますか。それとも、皆様の中で一致し、関心と愛情をもってあなたに同伴する共同体に属していると感じておられますか。

パオロ・ネスポリ(イタリア)

 教皇様。教皇様と皆様の祈りがここまで届いていることを感じました。確かにわたしは地上から離れ、地球の周りを回っています。わたしは地球を眺め、また、自分たちの周りにあるすべてのものを見ることができます。わたしの同僚たち――ディミトリ(・コンドラチェフ)、ケリー、ロン、アレクサンデル(・サモクチャエフ)、アンドレイ(・ボリセンコ)――は、このわたしにとって大切なときに、寄り添ってくれています。兄弟、姉妹、叔母、従兄弟、親戚が、臨終の母に付き添ってくれたのと同じようにです。これらすべてのことに感謝しています。わたしは遠く離れているとは感じますが、すぐ近くにいるとも感じます。そして、皆様がわたしに寄り添ってくださり、このときにあたりわたしと結ばれているとの思いは、本当に深い慰めとなります。臨終のときに母と話すことができるようご手配くださった欧州宇宙機関とアメリカ航空宇宙局(NASA)にも感謝します。(以下英語)

最後のあいさつ

 親愛なる宇宙飛行士の皆様。
 皆様とお目にかかり、お話しするという、このすばらしい機会を与えてくださり、心から感謝します。皆様は、わたしと他の多くの人が、人類の未来にかかわる重要な問題についてともに考えるための助けとなってくださいました。皆様の活動と、科学、国際協力、真の発展に奉仕する皆様の偉大なミッションの成功、そして世界の平和のために祈ります。わたしは思いと祈りをもって皆様に寄り添い続けます。そして心から使徒的祝福を与えます。

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