「船員の日」 メッセージ 2012年

震災でつながった海の連帯  昨年の地震と津波から10か月が経った今年の1月、大船渡である出来事がありました。大船渡港に入ってきた米国の貨物船(M/V Inca Maiden)には多くのフィリピン人船員がいましたが、その船 […]

震災でつながった海の連帯

 昨年の地震と津波から10か月が経った今年の1月、大船渡である出来事がありました。大船渡港に入ってきた米国の貨物船(M/V Inca Maiden)には多くのフィリピン人船員がいましたが、その船には船員たちの使う水がなくて、大変困っていました。大船渡では震災で給水施設が壊れていて補給できない状態でしたが、船は次の寄港地ロシアまで行かなければならず、少なくても30トンの水が必要だったのです。岩手県と大船渡市側は、水を供給できないと知った上で入港したのだからと対応してくれません。この件でAOSに関わっているフィリピン人司祭のところに連絡が入り、彼はAOSから支援を行ったことのある「三陸とれたて市場」の漁師に相談しました。漁師たちは、対応しない県と市の態度を詫びながらもすぐ行動を起こし、25トンもの生活のための水を小さなトラックで、何と二日間もかけて運び続けたのです。乗組員たちは「これでシャワーも浴びられる」と大喜びをしたということです。水を運んだ漁師たちも、自分たちが震災の時に助けられたという思いもあり、同じ海で働く人たちの困った姿を見過ごすことはできないと駆けつけたのです。それぞれ困難な状況の中に置かれている者同士ですが、それだからこそ共感し合い、つながっていったのでしょう。乗組員たちにとって、どれほどうれしい水だったことでしょうか。それも暖かい心がこもった水を。

 ふと耳にしたこの話も、私たちの知らないところで乗組員たちや漁師たちが毎日、いろいろな苦労や困難と直面しながら働いていることを改めて気づかせてくれた出来事だったと思います。そして、困難な中でもそれを他人事とは思わず駆け寄る仲間も多くいて、お互いに助け合っていることも知りました。私たちの多くは海で働いていませんが、実は海でつながっている仲間ではあるのです。すなわち、海の豊かさを漁師たちの働きを通して享受しているし、船員たちが運んでくる世界の物資によって生活が成り立っているからです。その意味では、私たちの生活は海でつながっているのです。だからこそ、あの駆けつけてくれた漁師たちと同じように、彼らを仲間として、支援していきたいと思います。私たちにできることは、“暖かい心のこもった水”としての祈りや訪船活動、あるいは献金などによる支援です。

「主よ、海で働く人々をいつも守り祝福してください。彼らが安全のうちに仕事を果たし、家族をはじめ、多くの人々とのつながりを日々深めていくことができますように」

2012年7月8日
日本カトリック難民移住移動者委員会
委員長 松浦 悟郎(大阪教区補佐司教)

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