2019年「聖職者による未成年者への性虐待の対応に関するアンケート」調査報告と課題

2019年「聖職者による未成年者への性虐待の対応に関するアンケート」 調査報告と課題 (日本カトリック司教協議会)  わたしたち司教団は、2002年以来、日本における「聖職者による性虐待の実態調査」を実施してきました。状 […]


2019年「聖職者による未成年者への性虐待の対応に関するアンケート」
調査報告と課題
(日本カトリック司教協議会)



 わたしたち司教団は、2002年以来、日本における「聖職者による性虐待の実態調査」を実施してきました。状況把握の困難や調査方法の不備などのため、報告が大変遅くなりましたが、この度、その結果を公表することにしました。
 この機会を借りて、日本のカトリック教会における責任者として、被害者と関係者の方々に深くお詫びいたします。
 この調査報告には、教会が抱えている問題、そして今後取り組まなければならない課題が多く含まれており、引き続き、真の実態把握への努力を続けていく所存です。
 何よりも、わたしたちはこの結果を真摯に受け止め、このようなことを二度と起こさないよう再発防止に全力を尽くす覚悟です。
 皆様方のお祈りとご協力をお願いいたします。

2020年3月13日 性虐待被害者のための祈りと償いの日
日本カトリック司教協議会会長
髙見三明大司教(長崎大司教区)


はじめに

 2002年に米国ボストン教区で明るみに出た聖職者による性虐待事件をきっかけに、日本カトリック司教団は「子どもへの性的虐待に関する司教メッセージ」1)を発表し、日本における聖職者による性虐待問題に対応するべく、「司教のためのガイドライン」2)を作成するためのプロジェクトチームならびに子どもと女性の権利擁護のためのデスク(以降、デスクと記す)を立ち上げた。デスクの大きな役割は、ガイドラインに基づいた仕組みづくりと啓発活動である。

 本来、聖職者による性虐待・性暴力の事例は、個々の教区・修道会・宣教会が、その訴えに対して責任を持って対応しなければならない。修道会・宣教会の事例においては、事例に関連する教区の司教に報告を上げ、教区司教は、訴えに関する調査を迅速に行うよう努め、促し、性虐待事例に限って聖座へ報告を行うという手順を踏む。日本においては、聖座への報告と同時に、司教協議会会長への報告を行うよう定めている。現時点では、司教協議会会長への報告が日本の司教協議会への報告(司教団全体が把握する)を意味するものではない。

 デスクは、ガイドラインの更新、聖座の方針や日本のカトリック教会における対応姿勢などを共有するためのマニュアル3)づくり、各教区における体制づくりを、常任司教委員会や司教総会の審議を経て、司教団のもとに進めている。今回の調査では、調査票の作成、データの取りまとめ等を担当した。

 今回の調査は日本のカトリック教会における「聖職者による未成年者への性虐待」に限ったものである。性虐待は、リアルタイムで件数として上がってくることは少ない。被害者は、自分が被害を受けたことを認識するまでに時間がかかることや、加害者から口止めをされることなどがその理由である。

 また性犯罪は、暗数の多い犯罪でもある。とくに教会という密接なかかわりをもつ共同体の中での性犯罪は、被害者が声を上げることがより難しい。公的機関での公表件数然り、今回の調査においての該当件数も、言葉にできた勇気ある被害者の数であり、氷山の一角にすぎない。今もなお声を上げられない人がいる可能性は大きく、性虐待・性暴力全体の被害者の実数は把握しきれない。

 よって、本調査によって訴えがあがってこなかった教区・修道会・宣教会においても、「被害がない」という短絡的な捉え方をするべきではない。被害者が安心して声を上げられる環境かどうかを見直し、教会全体として、性虐待・性暴力根絶に向けた、たゆまぬ努力が必要である。

Ⅰ アンケート調査概要

 2019年5月、教皇フランシスコの意向を受け、司教協議会会長(髙見三明大司教)は全16教区司教に向けて、「未成年者への性虐待の対応に関するアンケート」を実施した。本調査の目的は、日本の教会が未成年者への性虐待に関する対応についての実態を把握し、今後の対策を検討することである。なお、より正確な状況を把握するため、2019年10月に40の男子修道会・宣教会、77 の女子修道会・宣教会に向けても、同様の追加調査を行った。
 質問内容は、事例内容の報告(事件発生・発覚時期、被害時の年齢、申告や相談方法、被害内容・対応・結果、加害聖職者(被疑者)の氏名・認否・処分・現在の状況など)、前任者から後任者への事例の引き継ぎの有無、書類保管の状況についてである。

Ⅱ アンケート調査結果

 2020年2月末日の時点で、全16教区ならびに全40の男子修道会・宣教会、55の女子修道会・宣教会から回答を得た。その結果、「聖職者より性虐待を受けた」とされる訴えは、16件報告された。
 いずれのケースも、個々の教区・修道会・宣教会の名前と件数は、被害者個人の特定につながるため、公表しない。

1.不明事例について

 不明な点が多い事例について再調査を求めたが、①事件当初より長い年月を経ており、幼少期に性虐待を受けた事実以外特定ができない ②特定できたとしても、現時点で被害者ならびに被疑者が高齢であり、病気や認知症を患っている ③被疑者が死亡している、などの理由で確認が困難であった。これらは、事例の報告、引き継ぎに関する取り決めがなされていなかったことに起因する。

2.被害者について

  1. ①性虐待事件が起きた年代と被害者の性別について
    1950年代に1件(女子)、1960年代に5件(女子1件、男子3件、不明1件)、1970年代に1件(男子)、1990年代に3件(女子2件、男子1件)、2000年代に3件(女子1件、男子1件、不明1件)、2010年代に2件(女子1件、男子1件)の被害があったと報告がなされ、ほか1件は被害があったが詳細は不明である。

  2. ②被害当時の年齢について
    被害時の年齢としては6歳未満が1件、6~12歳が5件、13~17歳が6件、4件が不明である。

  3. ③事件の訴えについて
    被害にあった時から訴えるまでの期間が、最も早くて半年以内、10~30年後が最も多く、50~70年後という長い年月を経て、重い口を開く形になっている。
    多くの事例は、家族や信頼のおける教会関係者からの相談によって、また自らが大人になり、消しがたい苦悩として、教区または修道会・宣教会に訴えがなされている場合が多い。

  4. ④対応について
    多くの事例で、訴えた被害者(関係者含)と当該教区司教(または当該修道会・宣教会の長上)との話し合いが持たれていた。
    被疑者が加害を認めた場合は、被害者の意向に沿う形の対応を行っており、その多くが示談または和解という形が取られていた。
    一方で、事実確認の段階で被疑者が否認や黙秘をしている場合は、教区司教や長上による謝罪で終わるなど、消極的な対応事例も少なくない。

3.加害聖職者(被疑者)について

  1. ①加害聖職者の所属について
    教区司祭(日本人)が7件、修道会・宣教会司祭(外国籍7件・日本人1件)が8件、1件が不明(外国籍)である。

  2. ②加害の認否について
    加害を認めた件数が4件、否認した件数が5件、不明が7件である。
    否認した場合に第三者委員会による調査が入った件数が1件、教会裁判にかけられた件数が1件に留まり、そのいずれも黙秘または否認の状態であった。なお否認の場合に第三者委員会を立てなかった3件は、いずれも内部の対応に留まっている。

  3. ③加害聖職者の措置(事件発覚時)について
    聖職停止が2件、退会が1件、異動が8件(国内外含)、ほか5件は不明となっている。

  4. ④加害聖職者の現在の状況について
    死亡が4件、還俗が2件、他教区異動が3件、同教区内にて司牧が2件(加害否認)、病気療養が1件、不明が4件となっている。


Ⅲ 結果を踏まえての反省と課題

1.国家法の遵守

 性虐待は、児童虐待に該当する犯罪である。児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合は、児童福祉法第25条4)の規定ならびに児童虐待の防止等に関する法律第6条5)に基づき、すべての国民に、通告する義務が定められているため、児童相談所または各自治体の福祉事務所、警察などに通告を行い、児童虐待防止に資することが必要であるという認識を共有しなければならない。
 教皇フランシスコ自発教令形式による使徒的書簡『あなたがたは世の光である』6)(以降『あなたがたは世の光である』と記す)第19条にも、国家法の遵守が明記されているが、今回の調査では、年代の古い事例も含まれており、国家法に基づいた通告事例は見られなかった。

2.報告義務の徹底

  1. ①当該教区司教への報告
    今回の調査で、修道会・宣教会の性虐待事例について、新たに教区司教へ報告された事例もある。事例が発覚した場合は、教区司教への報告を徹底する必要がある。なお、修道会・宣教会本部から本部所在地の教区司教に報告された事例もあるため、事例が発生した土地の教区司教へ報告することを確認する。

  2. ②聖座への報告
    聖座への報告については、『あなたがたは世の光である』第3条に基づき、地区裁治権者への報告義務ならびに聖座への報告義務が課せられるため、それに基づいて対応する必要がある。なお、日本においては、聖座への報告と同時に、司教協議会会長への報告(マニュアル7)参照)も行わなければならない。

3.第三者委員会の設置と招集の徹底

 今回の調査では、4件が加害を認め、5件が否認、不明が7件となっている。否認した件数のうち、第三者委員会にかけられた事例は1件、教会裁判にかけられた事例が1件のみである。
 被疑者が加害を否認した場合には、必ず第三者委員会を立ち上げ、被害者の訴えを確認し、加害の有無を判断しなければならない。
 なお、第三者委員会は、被害者に立証を求め、合意の有無を確認するなど一般的な裁判の暴行・脅迫要件の基準だけで、加害の有無を判断してはならない。そのためにも第三者委員会構成員には慎重な人選が求められる。

4.司教(長上)による事例の引き継ぎと共有

 今回の調査で、2002年ならびに2012年の調査内容の事例に関する引き継ぎは、当該教区すべてにおいて「前任者からの引き継ぎがなかった」という結果だった。
 性虐待に限らず性被害の事例は、今後の加害聖職者の動きを把握するためにも、前任者から後任者への引き継ぎが必須である。たとえ前任司教(長上)からの引き継ぎがなくても、データ保管を確実にして、後任司教(長上)がそのデータを確認できるようにする必要がある。
 これらの事例の引き継ぎや共有の徹底は、再発防止ならびに被害拡大防止の点からも重要な意味を持つ。

5.加害聖職者の教会内における処分

 マニュアル8)に示されているとおり「当該聖職者の法的・倫理的責任を明確にし、事件の再発の可能性がある職務からはずし、子どもと接する機会がないような措置を講じる。場合によっては聖職停止処分とする。また重大なつまずきになる場合には、還俗を勧めたり、聖職者身分から追放することもありえる」という項目を遵守しなければならない。
 今回の調査事例では、処分中にもかかわらず、その条件を守らずに活動している聖職者がいたことが報告された。司教ならびに長上は、処分そのものが「制限を設けること」や「単なる有期的な制裁(活動停止、蟄居のような謹慎処分)」に留まっており、加害聖職者の真の回心や償いに結びついていないという現実を受け止め、加害者の処分について検討し、再発防止に努めなければならない。
 なお司教団としても、加害聖職者の処分について再考すると同時に、カウンセリングや医療的な治療の実施、霊的同伴を含めた包括的な更生プログラムを検討する必要がある。

6.被害者への配慮

 『あなたがたは世の光である』第5条によると、教会権威者(教区司教、修道会・宣教会長上)は、被害を訴えた人が、その家族とともに、尊厳と敬意をもって扱われるように努めることや、被害者への寄り添い、精神的な支援、個々の事例に応じた医学上、治療上、心理学上の支援を提供することが明示されている。
 被害者の全人的痛み(心理的・身体的・社会的・霊的傷つき)を重く受け止め、本人が希望する支援の提供を行うことができるよう対応する必要がある。また、たとえその時点で本人が支援を求めなかったにせよ、その後、援助が必要になった際はいつでも受け付けられるような配慮が必要である。

おわりに

 今回の調査報告における当該教区・修道会・宣教会は、新たに第三者による検証委員会を設置する。この検証委員会は、事例対応が適正に行われたかどうかを精査し、当該教区司教より原則6か月をめどに、司教協議会会長に報告する。
 なお本調査の対象は、あくまでも未成年(18歳未満)に対しての性虐待についてであったが、『あなたがたは世の光である』では、その適用範囲が「弱者(脆弱な大人)」を含むとなっているため、具体的な事例に基づき、性暴力に関しても考え、マニュアル等に反映させていく。
 今後も以上の課題解決に向けて、修道会・宣教会と協力して取り組み、教会内(教育機関、関連施設含)の性虐待・性暴力の根絶に向けて努力する。

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