教皇フランシスコ、2020年8月9日「お告げの祈り」でのことば

 

教皇フランシスコ、2020年8月9日「お告げの祈り」でのことば

親愛なる兄弟姉妹の皆さん、

 75年前の1945年8月6日、9日、広島と長崎に原爆が投下され、痛ましい大惨事を引き起こしました。わたしは深い感慨と感謝の念をもって、昨年の両地への訪問を思い起こし、核兵器をこの世界から完全に無くすために尽力し、祈るよう改めて呼びかけます。

(「お告げの祈り」後のことばからの抜粋)

*     *     *     *

親愛なる兄弟姉妹の皆さん、こんにちは。

 今日の福音朗読(マタイ14・22-33参照)では、嵐のさなかに湖の上を歩くイエスのことが語られます。五つのパンと二匹の魚で群衆を満腹にさせた後――先週の日曜日に考察した箇所です――、イエスは弟子たちに、舟に乗って、向こう岸に行くように命じます。イエスは群衆を解散させてから、祈るためにひとりで山に登られます。そして御父との交わりに浸られます。

 夜に湖を渡る弟子たちの舟は、突風に阻まれます。これは湖ではよくあることです。そのとき、彼らはだれかが自分たちに向かって湖の上を歩いてくるのを見て、おびえ、「幽霊」だと思い、恐怖のあまり叫び声をあげます。イエスは「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない」と言って、弟子たちを安心させます。するとペトロは決然と答えます。「主よ、あなたでしたら、わたしに命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください」。これは一つの挑戦です。イエスは彼に「来なさい」と言います。ペトロは舟から降りて、数歩、前に進みますが、風と波が怖くなり、沈みかけます。そして「主よ、助けてください」と叫びます。イエスはペトロを手で捕まえて言います。「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」。

 この福音箇所は、人生の中のあらゆるときに、試練や混乱に陥ったときにも、神を信頼して身をゆだねるよう呼びかけています。何もかもが闇に覆われる人生の難局のただ中で、深い疑いや恐れに見舞われ、沈みそうになったら、決して恥ずかしがらずに、ペトロのように叫んでください。「主よ、助けてください」(30節)。神の心を、イエスの心をたたいてください。「主よ、助けてください」。なんと素晴らしい祈りでしょうか。何度繰り返してもかまいません。「主よ、助けてください」。そして、すぐに手を伸ばして友を捕まえてくださるイエスのしぐさを、ゆっくり思い巡らしてください。それこそがイエスです。イエスはそうしてくださいます。イエスは、わたしたちを決して見放さない御父の手であり、つねにわたしたちにとってよいことのみを望んでおられる御父の強くて忠実な手です。騒音の中には神はおられません。激しい風の中にも、火の中にも、地震の中にもおられません。神は、――預言者エリヤに関する物語が今も伝えているように――そよ風の中におられます。つまり、それは、決して押しつけずに、聞いてほしいと、「静かにささやく声」です(列王記上19・11-13参照)。信仰をもつことは、嵐のただ中でも神に、神の愛に、神の父としての優しさに、心を向け続けることです。イエスはそのことをペトロと他の弟子たちに、そして今日のわたしたちにも教えようとしておられます。主は、わたしたちの信仰が闇や悲しみに覆われ弱まること――わたし自身も含め、わたしたちは皆、信仰の薄い者です――、そして、わたしたちの歩みが逆風によって阻まれ、妨害されることをよくご存じです。しかし、主は復活されたかたです。どうかこのことを忘れないでください。主は、わたしたちを安全な場所に導くために、死を過ぎ越されました。わたしたちが主を探し始める前から、イエスはわたしたちのすぐそばにおられます。そして、落ちたところから引き揚げ、信仰のうちに成長させてくださいます。わたしたちはおそらく、暗闇の中で主は遠くにおられると思い、「主よ、主よ」と叫ぶでしょう。すると主は「わたしはここにいる」と言われます。主はすでにわたしとともにおられたのです。主はそのようなかたです。

 嵐に翻弄される舟は、どの時代にも逆風に見舞われる教会を象徴しています。その風はときには、非常に激しくなります。前世紀に起こった、そして今日でもいくつかの場所で起こっている長期に渡る激しい迫害のことを思い起こしましょう。そうした状況においては、神に見捨てられたと考えがちです。しかし実は、そのときこそ、信仰のあかし、愛のあかし、希望のあかしがとりわけ強く輝きます。ご自分の教会の中に復活したキリストがおられることこそが、殉教にまで至るあかしの恵みをもたらし、その恵みから新しいキリスト者を芽生えさせ、全世界の和解と平和という実りを結ばせるのです。
 
 神への信仰が人生の闇や嵐によって脅かされるときにも、信仰と兄弟愛をもち続けることができるよう、マリアがわたしたちのためにとりなしてくださいますように。

 

PAGE TOP