教皇フランシスコ、 2022年9月1日「被造物を大切にする世界祈願日」メッセージ

「被造物を大切にする世界祈願日」教皇メッセージ 2022年9月1日 親愛なる兄弟姉妹の皆さん  「被造物の声を聞け」――これが今年の「被造物の季節」(訳注:2007年に始まった、諸教会・超教派による環境問題啓発のための年 […]

「被造物を大切にする世界祈願日」教皇メッセージ
2022年9月1日

親愛なる兄弟姉妹の皆さん

 「被造物の声を聞け」――これが今年の「被造物の季節」(訳注:2007年に始まった、諸教会・超教派による環境問題啓発のための年間行事。日本のカトリック教会では「すべてのいのちを守るための月間」として、2020年から取り組んでいる)のテーマであり、呼びかけです。エキュメニカルなこの行事の開催期間は、9月1日の「被造物を大切にする世界祈願日」から、10月4日のアッシジの聖フランシスコの記念日までです。すべてのキリスト者が一致して、わたしたちの共通の家のために祈り、そのケアをする特別な機会です。もともと、コンスタンティノープル全地総主教によって鼓舞されたこの季節は、わたしたちの「エコロジカルな回心」を深める機会となっています。聖パウロ六世がすでに1970年には語っていた「生態系異変」1への対策として、聖ヨハネ・パウロ二世教皇が提唱した回心です。

 被造物の声に耳を傾けることを覚えれば、その中にある、ある種の不協和音に気づきます。片やそれは愛する創造主を賛美する甘美な歌声で、片や人間による虐待を訴える悲痛な叫びです。

 被造物の甘美な歌は、自然界を通して神の存在を感受する「エコロジカルな霊性」(回勅『ラウダート・シ――ともに暮らす家を大切に』216)を実践するようわたしたちを招きます。それは、「他の被造物から切り離されているのではなく、万物のすばらしい交わりである宇宙の中で、他のものとともにはぐくまれるのだということを、愛をもって自覚すること」(同220)の中に、わたしたちの霊性を基礎づけなさいとの招きです。とくにキリストの弟子たちは、そうしたすばらしい経験から、「万物はことばによって成った。成ったもので、ことばによらずに成ったものは何一つなかった」(ヨハネ1・3)という理解を深めるのです。この「被造物の季節」に、被造界という大聖堂での祈りに立ち帰り、神を賛美して歌う無数の被造物から成る「宇宙の壮大な合唱」2を大いに楽しみましょう。アッシジの聖フランシスコに声を合わせて歌いましょう――「賛美されますように、わたしの主よ、あなたがお造りになったあらゆるものによって」(兄弟なる太陽の賛歌)。詩編作者に声を重ねて歌いましょう――「息あるものはこぞって主を賛美せよ」(詩編150・6)。

 けれども悲しいことに、その甘美な歌声には悲痛な一つの叫びが重なっています。いえむしろ、悲痛な叫びの合唱が加わっています。まず叫んでいるのは、姉妹であり、わたしたちの母なる大地です。わたしたちの過剰な消費主義の支配に、大地はうめき声を上げ、虐待と破壊に終止符を打つようわたしたちに懇願しています。ですから、叫びを上げているのはすべての被造物です。創造のわざにおいて、キリスト中心の対局にある「専制君主的な人間中心主義」(『ラウダート・シ』68)に翻弄されることで、無数の種は死に絶え、それらによる神をたたえる賛歌は永遠に失われてしまうのです。ですが、叫んでいるのはわたしたちの中でのもっとも貧しい人々でもあります。気候危機にさらされることで貧しい人々は、ますます激化し頻発している干ばつ、洪水、ハリケーン、熱波のもっとも深刻な影響を受けています。さらに、先住民族の兄弟姉妹が叫びを上げています。収奪的な経済的利益追求の結果、彼らの祖先の土地は四方八方から侵略され荒廃し、「天へと向かう嘆きの叫び」(使徒的勧告『愛するアマゾン』9)を上げています。ついには、わたしたちの子どもたちも、叫びを上げています。近視眼的な利己主義によって危険にさらされ、若者たちはわたしたち大人に対し、地球の生態系の崩壊を防ぐため、あるいはせめて抑制するため、あらゆる可能なことを実行するよう切に求めているのです。

 これらの悲痛な叫びを聞いたわたしたちは、悔い改め、有害なライフスタイルやシステムを変えなければなりません。福音書は最初から「悔い改めよ。天の国は近づいた」(マタイ3・2)と呼びかけ、神との新しい関係に招くとともに、他者そして被造物との、これまでとは違う関係にも言及しています。わたしたちの共通の家の荒廃した状態には、深刻な健康危機や武力紛争といった地球規模の他の課題と同じく高い関心を寄せるべきです。「神の作品の保護者たれ、との召命を生きることは、徳のある生活には欠かせないことであり、キリスト者としての経験にとって任意の、あるいは副次的な要素ではありません」(『ラウダート・シ』217)。

 信仰をもつ人間としてわたしたしたちは、そうした回心の求めにこたえる日々の行動をもって振る舞う責任をいっそう感じています。個人の回心だけではありません。「永続的な変化をもたらすために必要とされるエコロジカルな回心はまた、共同体の回心でもあるのです」(同219)。こうした観点から、国際社会もまた、とくに国連の環境問題に特化した会議において、最大限の協力の決意をもって取り組むよう求められています。

 2022年11月にエジプトで開催される気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、パリ協定の効果的な履行を一丸となって推進する新たな契機となります。先日わたしが、聖座がバチカン市国に代わりその名において国連気候変動枠組条約とパリ協定に加盟するよう指示を出したのもこうした理由からです。21世紀の人類が「重大な責任を十分担ったことで記憶に残る」(同165)よう願っています。気温上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標達成はきわめて困難であり、温室効果ガスの純排出量をできるだけ早急にゼロにするための、より大胆な気候変動対策やNDC(訳注:国がパリ協定の下で気候変動枠組み条約事務局に約束する、温室効果ガス排出削減目標)を提示し、あらゆる国が責任をもって協力することが必要です。消費モデルと生産モデル、さらにはライフスタイルを「改心」させ、被造物をより大切にし、現在および未来のすべての人の全人的発展――貧しい人や将来世代に対する責任、思慮/予防措置、連帯、配慮を土台にした発展――をより重視するよう方向づけるのです。すべての根底には、人間と環境の連携があるはずです。環境は、わたしたち信者にとって、「わたしたちを生み出し、旅するわたしたちの目的地である、造り主としての神の愛」3を映し出す鏡です。こうした回心に伴う移行においては、正義の要求、とくに気候変動の影響のいちばんの被害者となる労働者にとっての正義を無視してはなりません。
 12月にカナダで開催される生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)については、生態系の破壊と種の絶滅を食い止めるべく新たな多国間協定を採択するよう、各国政府の善意に訴える重要な機会となるでしょう。ヨベルの年という古代の知恵に倣い、わたしたちは「思い起こし、立ち帰り、休息し、修復」4しなければなりません。神が与えてくださった「生命の織物」である生物多様性のさらなる崩壊を食い止めるために、わたしたちは祈り、各国が以下の4つの基本原則に合意するよう呼びかけましょう。1)生物多様性の保全に必要な変革のために、明確な倫理的基盤を構築すること。2)生物多様性の喪失を食い止め、その保全と回復を支援し、持続可能な方法で人々のニーズにこたえること。3)生物多様性は、共同での取り組みが求められる地球全体の共有財であることを踏まえ、世界的な連帯を促進すること。4)生物多様性の損失の影響をもっとも被る人々を含め、先住民、高齢者、若者といった脆弱な状況にある人々を中心に据えること。

 あらためて申し上げます。「採掘・採取にかかわる大企業――鉱業、石油産業、林業、不動産ビジネス、農業ビジネスなど――に、神の名においてお願いします。森林、湿地、山の破壊をやめてください。河川や海洋を汚染しないでください。人々と食物を害さないでください」5

 過去二百年でもっとも汚染を引き起こしてきた、経済的に豊かな国々が負う「エコロジカルな債務」(『ラウダート・シ』51)の存在は無視できません。これにより、そうした国々には、COP27とCOP15の両方で、より踏み込んだ対策を掲げることが求められています。そこには、自国内での断固とした行動に加え、すでに気候変動の実害を被っている経済的に貧しい国々への財政的ならびに技術的支援の約束を履行することも含まれています。さらに、生物多様性保護のための追加資金援助の見通しについても早急に検討すべきです。経済的に豊かでない国もまた、重大な、しかし「差異ある」責任を負っています(同52参照)。他国の遅れは、自国の不作為を決して正当化しません。わたしたちは皆、断固として行動しなければなりません。「限界点」に達しつつあるのです(同61参照)。

 この「被造物の季節」の間、COP27とCOP15の締約国会議が、気候変動と生物多様性の減少という二重の危機に断固として対処するため、人類家族を一つにできるよう(同13参照)祈りましょう。喜ぶ人とともに喜び、泣く人とともに泣きなさい(ローマ12・15参照)という聖パウロの勧めを思い起こし、被造物の悲痛な叫びに声を合わせて泣き、それに耳を傾け、行いをもってこたえましょう。そうすればわたしたちと将来世代は、被造物のいのちと希望の甘美な歌をもって喜び続けることができるのです。

ローマ、サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂にて
2022年7月16日 カルメル山の聖母の記念日
フランシスコ

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