教皇フランシスコ追悼ミサ 説教 (東京大司教、日本カトリック司教協議会 会長菊地功 枢機卿) 愛する兄弟姉妹の皆様、 本日、私たちは深い悲しみに包まれながらここに集っています。敬愛する教皇フランシスコが、88年にわたる […]
(東京大司教、日本カトリック司教協議会 会長菊地功 枢機卿)
愛する兄弟姉妹の皆様、
本日、私たちは深い悲しみに包まれながらここに集っています。敬愛する教皇フランシスコが、88年にわたる人生の旅路を終え、御父のもとへ召されました。この突然の別れは、教会にとって、力強い牧者を失う痛みであり、世界中の人々にとって計り知れない喪失感を抱かせるものです。1936年、アルゼンチンにホルヘ・マリオ・ベルゴリオとして誕生された教皇フランシスコは、イエズス会の司祭、そして教皇として、その深い愛といつくしみに満ちた姿勢を生涯貫かれました。弱き者に寄り添い、愛を実践する教皇の生涯は、教会とすべての人々への奉仕に捧げられ、世界に希望と光を広める力強い牧者としての使命を果たされました。
教皇フランシスコはその教えと行動でもって、私たちに謙虚さと寛容さをもって生きること、そして対話を重んじる生き方を身をもって示してくださいました。その温かな笑顔と力強い言葉が、どれほど多くの人々の心を癒し、励まし、そして希望を与えてきたことでしょう。しかし今、私たちは教皇フランシスコの声をもう聞くことができず、その導きの光が遠ざかってしまったように感じています。教皇フランシスコの逝去は私たちの心に深い空白をもたらし、その存在の大きさを改めて感じさせます。
2013年3月13日、教皇ベネディクト16世の引退を受けて行われた教皇選挙において第266代教皇に選出された際、「貧しい人々を忘れないでください」という言葉を心に刻み、貧しい人々や自然を愛し、平和を求めたアッシジの聖フランシスコにちなんで「フランシスコ」という名を選ばれました。その名の通り、教皇は謙虚で質素なライフスタイルを貫き、貧しい人や社会的な弱者や疎外された人々に深い共感を示し、その権利を擁護し、誰一人として排除しないという強いメッセージを発信し続けました。特に、移民や難民をはじめとする社会の周縁に置かれた人々に対して、教皇が示された深い愛情と共感にその姿勢が顕著に表れていました。
まさに教皇に就任した2013年10月、イタリア、ランペドゥーザ島近くで、アフリカからの難民500人以上を乗せた船が沈没し、300人以上が命を落とし事故があった際、教皇は直ちに犠牲者を悼むためにランペドゥーザ島で特別なミサを行いました。教皇はその場で涙を流しながら、「この海はあまりにも多くの死者を抱えた水中の墓地だ」と語り、移民問題に対する国際社会の無関心を非難し、世界中の人々に対して責任を問われました。この訪問は、教皇として最初に行われた公式訪問であり、その象徴的な意義を鮮やかに刻む出来事となりました。
2013年11月、教皇フランシスコは使徒的勧告「福音の喜び」を発表し、誰ひとり排除されることのない、喜びに満ちた教会の理想像を鮮明に示されました。続いて、2015年5月には回勅「ラウダート・シ」を通じて、すべてのいのちを尊重し、世界に平和と環境保護の重要性を力強く訴えました。教会の未来を見据えた改革への熱意は、シノドス的な教会への道筋を示した取り組みにも表れています。互いに耳を傾け、誰も排除することなく支え合い、祈り合いながら、聖霊の導きを識別する教会。その姿こそ、未来に向けた教会共同体の指針であると示されたのです。
2019年、38年ぶりとなる教皇の訪日を果たされた教皇フランシスコは、長崎、広島、そして東京において、多くの人々と出会い、対話による平和の実現と、すべてのいのちを守ることの重要性を力強く発信されました。特に、核兵器の使用だけでなく、その保有自体も「倫理に反している」と踏み込んで述べられた言葉は、平和を願う人々の心に深く刻まれました。日本の教会にとって、それはまさに、私たちの牧者がその存在を示された瞬間でした。あの時、私たちは教皇フランシスコの声に直接触れ、霊的な喜びと力を与えられ、心から燃え上がったことを今でも鮮明に覚えています。
日本の司教団は、2015年と2024年の二度にわたり使徒座定期訪問(アド・リミナ)でローマを訪れ、教皇フランシスコと直接意見を交換する機会をいただきました。このときに体験した、権威に基づいて命じるのではなく、耳を傾け、ともに歩もうとする教皇フランシスコの姿勢に、わたしたちは多くのことを学びました。
奇しくも、教皇フランシスコにとって最後の復活祭は感動的な締めくくりとなりました。教皇は聖ペトロ大聖堂のバルコニーから、短くも力強く「親愛なる兄弟・姉妹の皆さん、復活おめでとう」と言葉を発しました。そしてオープンカーで広場を巡る中、赤ちゃんに祝福を与え、多くの信者たちに驚きと喜びを与えました。この瞬間は教皇フランシスコが私たちに遺した最後の愛のサプライズとなり、多くの人々の心に深い感動を刻みました。
私たちは、教皇フランシスコが示してくださった道を歩み、その精神を受け継ぐことで、この喪失感を乗り越える力を見出すことができるでしょう。
愛する教皇フランシスコが御父のもとで永遠の安息を得られるよう心から祈るとともに、その灯した愛と希望の火を絶やすことなく、未来に向かって歩み続けていきましょう。