FABC司牧書簡 アジアの地方教会へ――被造界のケアについて エコロジカルな回心への呼びかけ

Prot.No.004/2025 2025年3月15日 FABC司牧書簡 アジアの地方教会へ――被造界のケアについて エコロジカルな回心への呼びかけ  キリストにある親愛なる兄弟姉妹の皆さん  平和と祝福が皆さんの上にあ […]

Prot.No.004/2025
2025年3月15日

FABC司牧書簡
アジアの地方教会へ――被造界のケアについて
エコロジカルな回心への呼びかけ

 キリストにある親愛なる兄弟姉妹の皆さん
 平和と祝福が皆さんの上にありますように。

 豊かな文化、古くからの伝統、そして深い信仰をもったアジアの教会の牧者である皆さんにこの手紙をお送りします。この人間的・精神的多様性のゆりかごの中で、神のことばは試練と挑戦に直面する多くの人々に希望を与え続けています。
 今日、わたしたちは現代のエコロジカルな危機にこたえる緊急性について考察します。被造界・神・他者との関係を再発見するようにとの人類への預言的な呼びかけである、教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』公布10周年にあたり、わたしたちはともに暮らす家を配慮する約束を新たにします。このメッセージは教皇フランシスコの使徒的勧告『ラウダーテ・デウム』によってさらに深められます。『ラウダーテ・デウム』は将来の世代のために地球を守るための決定的な行動を呼びかけるからです。
 2025年の希望の聖年を祝い続けながら、わたしたちは聖パウロのローマの信徒への手紙のことばから霊感を与えられます。「苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを。希望はわたしたちを欺くことがありません」(ロ-マ5・3-5)。キリスト者の希望は、被造界を再興し、わたしたちの世界の傷をいやすために積極的に努めるよう呼びかけます。この手紙は現代のエコロジカルな苦しみを認識することへの招きです。しかし、それは絶望させるためではなく、むしろキリストに根ざした忍耐・行動・希望への招きです。

1 わたしたちがともに暮らす家の苦難

 わたしたちはアジア全域にわたり、人間的な無関心、虐待、乱開発の重荷により被造界がうめくのを目にしています。その結果は、すでに目に見えるもので、科学的にも立証されています。
 ・森林破壊と生物多様性の喪失 インドネシア、パプアニューギニア、マレーシア、ミャンマー、フィリピンの熱帯雨林は荒廃しつつあり、先住民共同体を追い出し、生物多様性を脅かしています。地球の生存のために必要なこれらの熱帯雨林は、違法な伐採、農地の拡大、採鉱によって圧迫されています。
 ・海水面の上昇と海岸線の退行 太平洋の温暖化は、台風、洪水、海水面の上昇を激化させ、フィリピン、バングラデシュ、ベトナムなどの国々において村落全体の存在が脅かされています。海岸近くの共同体は増大する海岸線の退行に直面しており、何百万の人が気候による移住を余儀なくさせられています。
 ・水の安全保障 ヒマラヤ山脈の氷河の溶解と、南アジア・中央アジアの川枯れは、何百万の人への水の供給を危険にさらしています。これらの変化によって、とくに多くの国が共有する河川の流域における水資源をめぐる紛争が深刻化しています。
 ・大気汚染と健康影響 北京、上海、ダッカ、デリー、カラチ、ジャカルタ、マニラ、バンコクなどのアジア全域の都市は、大気汚染が危険なレベルに達しています。こうした大気汚染は、とくに子どもや高齢者の呼吸器疾患に大きな影響を及ぼし、生の質全体を低下させています。
 ・規模と頻発の増大する極端な気象事象 太平洋の温暖化は台風の頻度と規模を増大させ、とくにフィリピンのような太平洋に面する東南アジア諸国に破壊的な影響を及ぼしています。こうした影響は南アジア(たとえばインド、パキスタン、バングラデシュ)と東アジア(たとえば中国、台湾、日本)の全域で見られ、惨害と立ち退きと経済的苦難をもたらしています。こうした強力な台風は、気候変動へのわたしたちの不作為が、もっとも弱い立場にある兄弟姉妹の苦しみを大きくしていることを思い起こさせるものです。
 ・農業危機と食糧安全保障 干ばつ、洪水、予期不能な気候パターンは、農業を荒廃させ、穀物生産を減少させ、食糧安全保障をおびやかします。気候変動は農業で生計を立てる地域住民にとりわけ壊滅的な影響を与えています。
 こうしたエコロジカルな悲劇は、アジアのもっとも貧しくて脆弱な共同体に影響を及ぼしています。すなわち、家が流された海岸地域の家族、穀物の収穫ができなくなった農民、大気と水の汚染に苦しむ子どもたちです。政治指導者、政府政策立案者、そして意思決定権者、とくに信徒のカトリック信者は、次のことを思い起こさなければなりません。すなわち、あなたがたが今日行う選択が、来るべき世代によって裁かれます。あなたがたは地球を乱開発によって荒廃した惑星にするのでしょうか。それとも、神の創造のみわざの美しさを映し出す家にするのでしょうか。
 この聖年という時期にあたり、こうした苦難は、わたしたちが悔い改め、回心し、神の創造のみわざの管理者としての共同責任をより堅固な決意をもって引き受けるよう、呼びかけます。

2 希望のしるし――働いておられる聖霊

 こうした難題にもかかわらず、わたしたちは現代世界において聖霊が生きて働いておられる希望のしるしを目にしています。
 ・共同体の立ち直る力 森林再生の取り組みや、アジアの多くの地域でのマングローブの回復といった、草の根の運動は、地域共同体の立ち直る力を示しています。こうした取り組みは、生物多様性と、気候行動の最前線にいる先住民の生活とを支えます。
 ・エコロジカルな奉仕職と教育 アジア全域にわたり、諸教区は、小教区の環境保全活動のための自己評価から再生可能エネルギー転換のための計画におよぶエコロジカルな奉仕職を導入しています。それらの奉仕職は、被造界への配慮を、小教区の生活とカトリック教育に組み入れるものです。こうした取り組みは他の人々がこれに倣うよう鼓舞します。
 ・青年の主体的関与 アジアの諸教区の青年は、地球の未来に資する緊急行動を、との『ラウダーテ・デウム』における教皇フランシスコの呼びかけに心を留め、インテグラル・エコロジーの闘士となっています。こうした青年たちの献身は、被造界の未来に希望を与え、わたしたち皆がよりいっそう責任をもって行動するよう促します。
 ・諸宗教および市民社会との協働 気候正義の緊急性は宗教の垣根を越えるものです。それは、エキュメニカル対話と諸宗教間対話、また、市民社会やすべての善意の人との協力のきわめて重要な出発点となります。わたしたちはキリスト者として、隣人の諸宗教とともに歩みながら、わたしたちがともに暮らす家のケアを、声を合わせて叫ばなければなりません。
 ・教会基礎共同体(Basic Ecclesial Communities)のためのミッション 教会基礎共同体を人間基礎共同体(Basic Human Communities)に変容させることは、信仰に根ざした取り組みとグローバルな持続可能性目標(sustainability goals)を架橋させつつ、人間的兄弟愛を広げ、被造界の保護管理責任に関する共通の感覚を養う助けとなります。
 ・聖年における教会の決意表明 2025年の希望の聖年の一部として、教会は被造界への配慮を不可欠なテーマとして組み込んでいます。教会は、教区と小教区がエコロジカルな自発性を強化し、持続可能なライフスタイルを信仰の表現として推し進めるよう促します。
 これらの希望のしるしは、苦しみが終着点ではないことを思い起こさせてくれます。教皇フランシスコが強調するとおり、聖霊によって注がれた神の愛は、被造界の刷新というミッションに大胆に参加するよう鼓舞します(ローマ5・5参照)。

3 行動への呼びかけ

 希望はわたしたちを行動へと駆り立てます。わたしたちはアジアの地方教会として、勇気と決断をもって立ち上がり、この時を満たさなければなりません。わたしたちは4つの実に難しい局面――緩和、適応、法制、金融――においてエコロジカルな危機に対処しなくてはならないのです。

a. 緩和――ギャップを埋めること
 わたしたちはパリ協定のような、気候問題へのより強力な公約を擁護し、気候に関する国家目標と、平均気温上昇を1.5℃に抑えるという科学的に必要とされるグローバルな目標とのギャップを埋めるよう働かなければなりません。アジアの熱帯雨林、サンゴ礁、河川を保全することを優先課題としなければなりません。政府、財界、共同体は、これらの生態系が生き生きと保たれるよう、先導してくれる先住民といっしょに働かなければなりません。FABC50周年総会最終文書であるバンコク文書(『アジアの諸民族としてともに旅する〔2023年3月15日〕)が『ラウダート・シ』の響きをこだまさせつつ述べたとおり、「環境は各世代に貸与されているものであり、次の世代にどのように残すかという責任を負っている」(BD 104)のだということを認めなければなりません。わたしたちは、未来の世代のために、この共通の遺産を守らなければならないのです。
b. 適応および損失と損害――弱い人々とともに立ち上がること
 気候変動から最初にもっともひどい打撃をこうむるのは貧しい人々です。わたしたちはその人々の声を増幅し、政府と産業に説明を求めなければなりません。とりわけ、アジアの脆弱な国と共同体のため、適応および損失と損害のための財政的支援を加速しなければなりません。FABC50周年バンコク文書は、世代間の連帯が、選択肢の一つではなく、正義の問題であることを思い起こさせます(BD 104)。
c. エコロジーの知見を土台とする国内・国際的法制
 わたしたちは、固体・液体・ガス廃棄物管理に関する明快な実施規定や採鉱に関する規制や河川流域の保護策を含む環境法の創設のために積極的に働きかけなければなりません。そして、共同体や小国が、環境の乱用や破壊が判明した国および多国籍企業に対して説明を求めることができるようにしなければなりません。
d. 金融
 正義に根ざした気候資金調達は不可欠です。汚染者は当然の負担を支払わなければなりません。また富裕な国は気候行動への資金供給の約束を履行しなければなりません。この聖年にあたり、わたしたちは、債務という罠が多くの国にとって気候危機への効果的な対処の妨げとなっていることを認めつつ、債務免除を擁護しなければなりません。

 しかし、債務免除を超えて、真に不可欠なのは、依存と経済的従属との永続的循環より債務国の福利を優先する国際融資システム全体の包括的な見直しです。経済正義は、金融機関と債権国が、グローバルサウスにおける気候行動と持続可能な発展を抑圧する不正な構造を考え直すことを求めます。

4 COP 30への参画――積極的な主体的関与への呼びかけ

 エコロジカルな回心とグローバルな連帯への献身を深めようとするわたしたちは、2025年〔11月10日-21日〕にブラジルのベレンで開催されるCOP 30(第 30 回国連気候変動枠組条約締約国会議)へのアジアのすべての地方教会の積極的な参加をも促します。この会議は、気候行動への決意を新たにするために集まる諸国家・共同体に欠かすことのできない討論の場を提供するものです。わたしたちは、各教区が、大胆で公平な気候変動対策を推し進めるために、意識を喚起し、気候アドボカシーを支援し、意思決定権者と関わっていくことによって貢献するよう、呼びかけます。とくに地球とそこに住むすべてのものに配慮するというキリスト者の共同責任に照らして、もっとも弱い立場にある人々の声が聞かれ、正義への呼びかけが力強く鳴り響くのを保証できるよう、働きかけようではありませんか。

5 被造物の季節――霊的でエコロジカルな刷新の時

 『ラウダート・シ』公布10周年と2025年の希望の聖年とを祝いつつ、アジアのすべての地方教会が、9月1日(多くの東方教会における創造のみわざの祝日)から10月4日(エコロジーの保護聖人であるアッシジの聖フランシスコの記念日)までの間、被造物の季節を祝うよう、招きます。この特別な時は、次のような意味で、霊的でエコロジカルな刷新を深める好機です。
a. エコロジカルな責任についてわたしたちの共同体の学びを導く。
b. より簡素で、より持続可能なライフスタイルを奨励する。
c. 神・人類・宇宙とのわたしたちのかかわりを深める、創造の霊性を培う。
 恐怖と無関心によって身動きが取れなくなってはなりません。そうではなく、信仰と勇気をもって、ともに希望の巡礼を歩みましょう。キリストがわたしたちとともに歩み、わたしたちの集団的な取り組みを通して地の面(おもて)を新たにしてくださることをわたしたちは信じます。

結び

 この四旬節が、自らの良心を糾明し、神の創造のみわざに対して犯したわたしたちの罪を謙虚に認める機会となりますように。この四旬節が、エコロジカルな回心への神の呼びかけにこたえる好機となりますように。
 宣教するシノドス流の教会になるための歩みを続けるわたしたちは、聖母マリアに自らをゆだねようではありませんか。聖母は、神の創造のみわざに配慮を施すわたしたちとともに歩んでくださいます。マリアの執り成しが、わたしたちがともに暮らす家のため、勇気と知恵と思いやりをもって行動するよう、わたしたちを鼓舞してくださいますように。

 キリストにおいて、

 FABC会長 フィリペ・ネリ・フェラオ 枢機卿
 FABC副会長 パブロ・ダヴィド 枢機卿
 FABC事務局長 菊地 功 枢機卿