イラク問題の平和的解決についての日本司教団声明

私たち日本司教団が2002年度臨時司教総会のために集まっている今まさにこの時、国際社会は、イラク問題に対して戦争か平和的解決かの重大な選択を迫られています。おりしも世界各地では、戦争による解決に反対する人々の草の根レベル […]

私たち日本司教団が2002年度臨時司教総会のために集まっている今まさにこの時、国際社会は、イラク問題に対して戦争か平和的解決かの重大な選択を迫られています。おりしも世界各地では、戦争による解決に反対する人々の草の根レベルの運動が行われています。この国際社会の重大な選択に対し、キリスト教信仰と教えに照らして、私たち司教団がどのように考えるかについて、ここに表明します。

イエス・キリストは、山上の説教の中で、「殺してはならない」(出エジプト 20・13)というおきてを確認した上で、さらに、怒りや憎しみ、復讐なども禁じ、また敵を愛することさえも弟子たちに求めておられます(マタイ5・21-)。
イラク周辺地図
まず私たちは、教皇ヨハネ23世の回勅『パーチェム・イン・テリス』(地上の平和)発布40周年にあたる今年、同教皇の次の言葉を思いおこします。

「現代には、ますます人々の精神に波及していくひとつの信念がある。諸民族間に発生する紛争は、武力によって解決すべきではなく、交渉によって解決すべきであるという信念がこれである。 (中略)原子の世紀である現代において、戦争が権利の侵害を是正する適当な手段であるということは考えられないことである」。

 この信条を継承する教皇ヨハネ・パウロ2世は、昨年も今年も『平和メッセージ』で、ゆるし合いの精神を強調し、衝突ではなく和解への道を勧めています。また世界の宗教者も平和と慈悲の精神を強調しています。

 私たち司教団は、あらゆる戦争に反対する基本的な立場をはっきりと表明します。今行われようとしているイラクの大量破壊兵器に対処するための予防的な武力行使は、たとえ国連による決議があったとしても、軍事力による正当防衛には当てはまらないと判断します(『カトリック教会のカテキズム』2309番参照)。
したがって私たち日本の司教団は、イラクへの武力行使に対して反対します。この問題を解決すべく、あらゆる平和的手段が用いられるべきであり、そのために国際社会の勇気ある連帯こそ必要だと訴えます。

 戦争が回避されずにイラク攻撃が実行されれば、一般市民を含む多くのかけがえのないいのちが失われます。また度重なる地域紛争や武力衝突および経済制裁によって、すでに苦しんでいるイラク国民をさらに苦しめることになることも容易に推測できます。その上、この攻撃はイラクばかりではなく中近東全体を不安定にさせ、問題の解決どころか、新たな問題を生じさせるに違いありません。
またイラク政府に対しては、大量破壊兵器を放棄すること、そして開発を中止することを国際社会に早期にかつ明確に示すように要望します。
 さらに私たちはイラクに対してと同様に、核兵器その他の大量破壊兵器保有については、すべての国家に対して完全に破棄することを強く求めます。

 今、全世界が戦争と平和、正義と安全に関する重大な選択に直面しています。憎しみは憎しみを、暴力は暴力を誘発するだけで、この暴力の連鎖から平和は生まれません。今こそ世界は「敵意という隔ての壁を取り壊し」(エフェソ書 2,14)、戦争の危機を回避するための方策を模索し、非暴力による対話と協調を基本にした外交努力による平和的な解決を図らなければなりません。
日本も、日本国憲法にも示されている平和の理念を尊重し、国際社会の中でこうした努力を積極的に展開していく道を、勇気をもって選択すべきではないでしょうか。

さらにグローバル化されていく世界には多くの国際的緊張が存在し、その影では常に一般民衆が犠牲になっています。こうした犠牲者の人間としての尊厳こそ、まず第一に回復されるべきであり、私たちはそのために連帯した行動を進めていきたいと思います。そして、世界中で戦争のために注ぎ込まれている時間と資金と労力が、国際紛争の根深い背景と原因である世界中の貧困を終わらせるためにこそ使われることを切に願って止みません。

 私たち日本の司教団は、以上の考えを日本の教会の皆さんに、また日本と世界の人々に向けて表明します。

今こそ私たちはキリスト者として福音の教えと精神に従い、善意ある人々とともに、平和と正義を促進するために積極的に行動しましょう。

 最後に、世界各国の指導者のために祈ります。
平和の源である神よ、イラクへの戦争の危機が迫っている中で、国際社会の平和的共存のために公正で責任ある判断を下すべき立場にある人々が、武力に頼らない平和的な解決を一日も早く見い出すことができますように。

2003年2月21日
日本カトリック司教団

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