教皇フランシスコ、平和と和解のミサ説教

韓国訪問の最終日となる8月18日、教皇フランシスコは、韓国・ソウルのミョンドン(明洞)司教座聖堂において、平和と和解を希求するミサをささげました。ミサ中、教皇は、分断された朝鮮半島に、いやしと一致の恵みが与えられるよう祈 […]

韓国訪問の最終日となる8月18日、教皇フランシスコは、韓国・ソウルのミョンドン(明洞)司教座聖堂において、平和と和解を希求するミサをささげました。ミサ中、教皇は、分断された朝鮮半島に、いやしと一致の恵みが与えられるよう祈りました。ミサのはじめにはまた、高齢となった従軍慰安婦の人々に支えのことばを特別にかけました。以下はそのミサ説教の全訳です。

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親愛なる兄弟姉妹の皆さん、

 わたしの韓国での滞在も終わりに近づくにつれ、神がこの愛すべき国に授けた多くの祝福、特に韓国教会に授けた祝福に対し、神に感謝しています。こうした祝福の中で、この数日間、ここにいる全員が体験したことですが、アジア中から多くの青年たちが巡礼し集まったことを、特に心に刻んでいます。この青年たちのイエスへの愛と、み国を告げ知らせようとする彼らの熱意は、わたしたち全員を鼓舞し続けました。

 わたしの訪韓はこのミサで、いま頂点を迎えています。ここでわたしたちは平和と和解の恵みを、神に切に願い求めます。この祈りは、朝鮮半島において特別な響きがあります。今日のミサは何よりも、この朝鮮半島の家族が和解するための祈りです。福音においてイエスは、わたしたちのうち、二人または三人が一緒になって何かを願う時、いかにその祈りが力強いものであるかを語っています(マタイ18・19−20参照)。すべての人々が心のこもった願いを天に届ければ、さらにどれほど力強くなることでしょう。

 第1朗読では、災害と分断によってちりぢりにされた人々に、統一と繁栄を取り戻すと約束する神を描いています。イスラエルの民にとってと同様、わたしたちにとってもこれは希望に満ちた約束です。神がいまもなお、わたしたちのために準備している未来を指し示しているのです。しかしこの約束は、一つの命令と固く結びついています。つまり、神のもとに立ち帰り、心を尽くしてその律法に従うことです(申命記30・2−3参照)。和解、統一、平和という神のたまものは、回心の恵みと密接に関連しています。この心の変革こそが、わたしたちの人生を、また歴史の歩みを、個人としても人々のレベルでも高められるのです。

 このミサにおいて、わたしたちは自然と韓国の人々の歴史的体験の文脈でこの約束の話を聞きます。つまり、優に60年を超えている分断と紛争という体験です。しかし、回心せよという、神の緊急の呼びかけはまた、韓国のキリスト者に対しても、真に公正で人間を大切にする社会を建設するために自分は十分貢献しているかどうかを自問自答するよう、課題を投げかけます。皆さん一人ひとりが、個人としてまた共同体として、あまり恵まれていない人、迫害を受けている人、失業している人、多数の人が受けている繁栄を享受できない人に対し、福音の光にそった関心をどれほど示しているか、内省するよう課題を投げかけています。さらに、皆さんがキリスト者としてまた韓国人として、疑念、対立、競争といったことから形作られるものの見方を断固捨て去り、その代わりに福音の教えと、韓国人の高貴な伝統的価値から作られた文化を育てていくよう課題を投げかけています。

 今日の福音において、ペトロは主にたずねます。「『兄弟がわたしに対して罪を犯したなら、何回ゆるすべきでしょうか。七回までですか。』イエスは言われた。『あなたに言っておく。七回どころか七の七十倍までも赦しなさい』」(マタイ18・21−22)。こうしたことばは、イエスが語る和解と平和のメッセージのまさに中心に届くものです。イエスの命令に忠実であるとき、わたしたちは天の父が、「わたしたちも人をゆるすように」、わたしたちの罪を日々ゆるしてくれるように願います。もしわたしたちがこれをできないなら、どうして誠実に平和と和解のために祈ることができるでしょう。

 イエスは、ゆるしが和解へと通じる扉であることを信じなさいと言います。素直に兄弟姉妹をゆるしなさいと言うとき、まったく根本的な何かを、イエスはわたしたちに命じています。しかしまた、イエスはわたしたちにそれができるようにと恵みも与えます。人間の目から見て不可能で、実現困難で、ときには反感さえ抱くように見えることでも、イエスは十字架の限りない力によって、それを可能で実り多いものとします。キリストの十字架は神の力を表し、あらゆる分裂に橋を架け、あらゆる傷をいやし、もともとあった兄弟愛の絆を取り戻すのです。

 そしてこれが、わたしが韓国訪問を終えるにあたって皆さんに残すメッセージです。キリストの十字架の力を信頼してください。その力が生み出す和解の恵みを皆さん自身の心に受け入れ、その恵みを他の人々と分かち合ってください。皆さんの家庭で、共同体で、国レベルの活動の中で、キリストが伝える和解のメッセージを、説得力をもって証ししてください。わたしは信頼しています。他のキリスト教教派の皆さんとの友情と協力の精神のうちに、他の諸宗教の実りをもって、さらに韓国社会の未来を心配するすべての善意の人々とも一緒になって、皆さんがこの地で、神の国のパン種となるのです。こうして、平和と和解を求めるわたしたちの祈りは、かつてないほど純粋な、一人ひとりの心から神のもとへ上げられ、神のいつくしみ深いたまものによって、わたしたちが待ちこがれる大切な宝を手に入れるのです。

 それでは、祈りましょう。新たな対話、出会い、違いを克服する機会が生まれますように。困窮している人々への寛大なる人道支援が引き続き提供されますように。すべての韓国朝鮮人の兄弟姉妹が一つの家族、一つの民族であることがこれまでに増して理解されますように。これらの人々は同じ言語を話しているのです。

 韓国を離れる前に、パク・クネ大統領、政府当局者・教会関係者の皆さん、そして今回の訪問が可能になるようあらゆる形で支援してくださったすべての皆さんに感謝を表したいと思います。特に韓国の司祭たちに心からの感謝の言葉を贈りたいと思います。この司祭たちは日々、福音への奉仕と、信望愛のうちに神の民を育て上げるために働いています。わたしは皆さんに、キリストの使者、和解させるためのキリストの愛の奉仕者としてお願いします(二コリント5・18−20)。皆さんの小教区において、皆さん自身の中で、そして皆さんの司教と、尊敬、信頼と調和のある協力の橋を築き続けてください。主への惜しみない愛という皆さんの模範、自分の奉仕職への忠実さと熱心さ、困窮している人々への皆さんの愛ある配慮が、この国における和解と平和のわざに、大きく貢献します。

 親愛なる兄弟姉妹の皆さん、神はわたしたちに、神のもとに戻り、その声に耳を傾けるように呼びかけ、わたしたちの祖先が知っているよりずっと大きな平和と繁栄を、この地に築くことを約束してくださいます。韓国におけるキリストの弟子たちが、どうかこの新たな一日の夜明けのために準備することができますように。その時この地は朝の静けさの中で、調和と平和という神の最高の祝福を受け、喜び踊るのです。アーメン。

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