教皇フランシスコ カトリック新教会法典第六集改訂のための使徒憲章 『パシーテ・グレジェム・デイ(Pascite gregem Dei)』

 

教皇フランシスコ
カトリック新教会法典第六集改訂のための使徒憲章

『パシーテ・グレジェム・デイ』
(神の羊の群れを牧しなさい)

 「神の羊の群れを牧しなさい。強制されてではなく、神に従って、自ら進んで世話をしなさい」(一ペト5:2)。この神から霊感(インスピレーション)を受けた使徒ペトロの言葉は、司教叙階において用いられている式文の中にも反映されています。「人々をあがなうために御父から遣わされたわたしたちの主イエス・キリストは、ご自身も十二の使徒たちを世にお遣わしになりました。それは、彼らが聖霊の力に満たされて福音をのべ伝え、そしてすべての民を牧者のもとに一つに集めて、これを聖なる者とし、治めるためでした。…わたしたちの主イエス・キリストご自身が、司教の英知と賢慮をとおして、この地上の旅路を続けるあなたがたを永遠の幸せに導いてくださいます」(ラテン語規範版儀式書『司教、司祭および助祭叙階式』39項:De Ordinatione Episcopi, Presbyterorum et Diaconorum, Editio typica altera,1990年, n. 39)。そして牧者には、「助言、勧告、模範によって、また、権威と聖なる権能によって」(『教会憲章』27項)、自らの責務を果たすことが呼びかけられています。なぜなら御父がまさにそうなさるように、愛といつくしみは、時に歪んだものを真っ直ぐにしようと努力することも求めるからです。

 使徒の時代以来、地上の旅路を歩み続ける中で、教会には行動の規則が与えられました。これが、やがて何世紀も経る中で一貫性を持った拘束力のある規範の集合体となり、神の民を一つにまとめるものとなりました。そしてこの規範を遵守させることは、司教の責任となりました。これらの規範は、わたしたちすべてが信じている信仰を反映したものなのです。こうした規範に拘束力が生じるのは、それらが信仰に由来し、信仰の上に築かれたものだからです。そしてこれらの規範は、自らの目的が常に魂の救済(salus animarum)にあることを知っている教会の母としてのいつくしみを明らかに示すものでもあります。このような規範は、時代が変わっても、共同体の生活を律していかなければならないことから、社会の変化や神の民の新しい要請と密接に関係を保ち続けていく必要があります。そのため、時にはこれらの規範を修正し、状況の変化に適合させていく必要があるのです。

 わたしたちが急速な社会の変化を経験していく中で、「わたしたちが生きているのは、単に変化の時代であるばかりではありません。わたしたちは、時代の変化も生きているのです」(「降誕祭前の挨拶のための教皇庁職員との謁見」、2019年12月21日)ということを自覚しながら、全世界の教会の要請に適切に応えていくためには、聖ヨハネ・パウロ二世が1983年1月25日に公布した教会法典の中の刑罰に関する規律にも改訂の必要があることは明らかでした。司牧者たちが、救済と矯正をもたらすためのより機動的な道具として用いることができるよう修正することが必要だったのです。それは、より大きな悪を避け、人間の弱さによって生じた傷を癒すために、時宜にかなった仕方で、司牧的な愛をもって、この規律を用いることができるようにするためです。

 このような目的のために、わたしの尊敬する前任者の教皇ベネディクト16世は、2007年に教皇庁法文評議会に対して、1983年の教会法典に含まれる刑罰規定の改訂に向けた研究を開始するように命じました。同評議会は、この委任に基づき、新しい時代の要請を具体的に精査し、現行法の限界や不備を識別し、可能かつ単純明快な解決策を示すことに注意深く専念しました。この研究は、合議と協働の精神の下、さまざまな専門家や司牧者の協力も仰いで、可能な解決策と、それぞれの地方教会の性格や必要性に対応する可能な解決策を実現しました。

 こうして、新しい教会法典の第六集の最初の草案が作成され、意見を集めるために、全司教協議会、教皇庁の各省庁、修道会の上級上長、教会法学部、その他さまざまな教会機関に送付されました。同時に、世界中の数多くの教会法学者や刑法の専門家にも諮りました。この一回目の意見聴取で得られた回答は、しかるべく整えられた上で、専門家による特別部会に引き渡されました。この部会は、受け取った提言と照らし合わせながら草案の改訂を行ないました。その後草案は、改めて顧問たちによる厳正な審査にかけられました。さらに新たな改訂や検討を重ねた後、ついに最終草案が教皇庁法文評議会のメンバーによる全体会議で審議される運びとなりました。この全体会議による修正が反映された後、2020年2月、同法文評議会から教皇に文書が送付されました。

 刑罰に関する規律の遵守は、神の民全体の義務ですが、前にも述べた通り、この規律を正しく適用する責任は、特に司牧者や各共同体の上長にあります。これは、司牧者や上長に委ねられた「司牧的任務(munus pastorale)」から決して切り離すことのできない義務なのです。そして、教会やキリスト者共同体、場合によってはその被害者ばかりでなく、罪を犯した加害者たち、つまり教会のいつくしみと教会による矯正を同時に必要としている人たちにとっても、具体的で否定し得ない愛の要請として実施されるべき義務なのです。

 過去に――愛徳の実践と制裁の規律への訴えが状況によって求められる場合と正義がそれらを必要とする場合において――愛徳の実践と制裁の規律への訴えとの間に存在する緊密な関係性について、教会内で適切な認識が欠如していたことにより多くの被害が生じていました。経験が教えてくれている通り、このような認識不足のせいで、勧告や助言だけでは十分でないような道徳上の規律に反する行動を取った者を、適切な解決策を講じずそのままにさせてしまっていた恐れがあります。このような状況はしばしば、時間が経つにつれて、そうした行動が矯正が困難となるまで頑迷なものとしてしまい、多くの場合、信者の間に躓き(スキャンダル)や混乱を引き起こしかねない危険をはらんでいました。このようにして、司牧者や上長にとって刑罰を適用することが必要不可欠なことになったのです。ある司牧者が刑罰制度に訴えることをないがしろにするのであれば、その人が自らの役割を正しく忠実に果たしていないことは明らかです。それは、自発教令の形式による使徒的書簡(2016年6月4日の『コメ・ウナ・マードレ・アモレーヴォレ』1や2019年5月7日の『ヴォス・エスティス・ルクス・ムンディ』2)など、近年わたしが発表した数々の文書において明確に警告しておいた通りです。

 まさに愛は、必要があればその都度、司牧者が刑罰制度に訴えることを求めています。その際、教会共同体の中での訴えにおいて必要とされる3つの目的を考慮しなければなりません。それらの目的とは、正義によって求められる原状の回復、違反者の更生、躓き(スキャンダル)の解消です。

 最近わたしが述べた通り、教会法の制裁は、修復と救済の役割を合わせ持つものであり、特に信者の善益を追求するものでもあるのです。ですからこれは、「神の国の実現のための、そして個人および共同体の成聖に招かれている信仰共同体の中に正義を再構築するための肯定的な手段」(『教皇庁法文評議会全体会議の参加者に向けて』 2020年2月21日)なのです。

 したがって、新しい法文は、教会法の法制全体の枠組み――これは、時代とともに強化されてきた教会の伝統に従ったものですが――との継続性を尊重しながら、現行法にさまざまな修正を加え、いくつかの新しい形態の犯罪に制裁を科しています。そして、犯罪によって損なわれた正義と秩序を取り戻したいという、さまざまな共同体の間でますます広まっている要請に応えるものです。

 法文は、技術的な面でも以前よりも適切なものとなりました。特に、例えば弁護を受ける権利、犯罪の訴追権の時効、より厳密な刑罰の確定といった刑法の基本的な側面に関する部分がそうです。そして刑法上の適法性に関する要請に応えて、裁治権者や裁判官が、具体的な事例において適用すべきふさわしい制裁を見定めるための客観的な基準を提供するものともなっています。

 改訂にあたっては、制裁を科すのが教会権威者の裁量に任されているような事例を減らすという原則に従って進められてきました。このようにすることで、遵守すべき法の規定に従って(servatis de jure servandis)刑罰を適用するにあたって、特に共同体内に大きな被害や躓き(スキャンダル)を引き起こしかねない犯罪に対して、教会の一致を保つことができます。

 ここまで述べてきたことすべてを踏まえて、本使徒憲章によって、整えられ、改訂された教会法典の第六集の法文を公布します。この法文が、魂の善のための道具となることを願っています。また司牧者が、信徒たちの善のために要請がある場合には――卓越した枢要徳である――正義の義務として刑罰をもって威嚇することも自分たちの奉仕職に属する務めであることを自覚し、正義といつくしみをもって必要な場合にこの法文の規定を適用することを願ってやみません。

 最後に、すべての人が、ここで扱われている措置についてたやすく完全に理解することができるように、この改定された教会法典第六集が「オッセルヴァトーレ・ロマーノ」(L’Osservatore Romano)紙を通して公布され、2021年12月8日から施行されること、その後公式な官報である『使徒座官報』(Acta Apostolicae Sedis)に記載されるよう命じます。

 また、新しい第六集の施行によって、現行の教会法典第六集は、特筆すべきものも含めて、いかなる反対があったとしても廃止されるものと定めます。

2021年(教皇在位第9年)5月23日 聖霊降臨の祭日
ローマ、聖ペトロの傍らにて
フランシスコ

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