2004年「日本カトリック平和旬間」メッセージ

子どもと向き合おう~平和をつくるために~ 兄弟姉妹の皆様 1981年、教皇ヨハネ・パウロ二世が広島で発表された平和アピールを受けて、翌年、日本の司教団は8月6日から15日の十日間を「日本カトリック平和旬間」と定めました( […]

子どもと向き合おう~平和をつくるために~

兄弟姉妹の皆様

1981年、教皇ヨハネ・パウロ二世が広島で発表された平和アピールを受けて、翌年、日本の司教団は8月6日から15日の十日間を「日本カトリック平和旬間」と定めました(1) 。その期間、すべての信者に平和のために祈り、学び、行動するよう呼びかけています。
  近年の生命科学と生命操作技術の発展による「いのちの始まり」への科学の介入は人類に大きな課題を突き付けています。バチカンは早くからこの課題に対して反対の立場を表明し、日本の司教団もメッセージを発表しました(2) 。教会はクローン、出生前診断など子どものいのちを翻弄する事態について深く憂慮しています。
  また最近、児童虐待、子どもの犯罪などが社会問題としてマスコミで大きく取り上げられています。また、日本の教会ではダブルの子どもたち(3)、外国籍の子どもたちが増えていますが、未就学、無国籍、いじめ、アイデンティティなどの問題を抱えている子どもが少なくありません。
  平和は子どもたちのいのち、人権と深く結びついています。今年は日本が「子どもの権利に関する条約」を批准して、ちょうど十年になります。同条約を参考にして子どもたちをとりまくいくつかの状況について見ながら、わたしたち教会の役割を見直してみたいと思います。

 6月、佐世保で起きた少女殺害事件は私たちに大きなショックを与えました。このような痛ましい事件が起こるたびに、私たち大人は当惑します。そしてあらため て子どもの心理や環境について社会的関心が集まっており、子どもに対する関係者の対応の仕方が問われています。私たちは子どもたちが発信している救いを求 めるサインに気づくよう、さらに努力する必要があるのではないでしょうか。
  児 童虐待も深刻な問題で、児童相談所によせられた虐待相談件数は年間二万件を超え、十年前に比べると二十倍以上に増えています。虐待防止法が改正されました が、「子どもの保護を拒む家庭への警察の立ち入り」を認めるかどうかなど次の改正に向けてすでに論議が始まっています。しかし、法整備をすればそれで解決 するような問題ではありません。私たち一人ひとりも含めて、社会全体が子どもと真剣に向き合うことが大切です。

 北朝鮮による日本人拉致問題が外交問題として議論の的になっています。拉致そのものは大きな人権侵害であり、私たちは拉致されたすべての人々が一刻も早く解放されることを願ってやみません。しかし、一方で、拉致問題などが世論で取り上げられるたびに、在日コリアン(4)の子どもたちが服を切られるなど、嫌がらせや差別事件が起こっています。この子どもたちへの人権侵害の事実から私たちは目を背けるわけにはいきません。「子どもの権利に関する条約」第2条によって、彼らの権利を尊重し確保しなければならない政府や自治体が適切な措置を講ずることを切望します。
  難民や超過滞在の移住者がある日突然、強制退去になる事態が頻発しています。その際、妻子と離れ離れになるケースも出ています。同条約9条によると「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する」ことになっています。それにもかかわらず親子が離されてしまう事態が増えていることが懸念されます。
  今年、東京都で日の丸掲揚と君が代斉唱の際に、起立しなかった教職員が処分を受け、同様の行動をとった子どもたちも注意を受けました。「子どもの権利に関する条約」第12条では「子どもの意見表明権」、第13条では「表現の自由」、第14条では「思想・良心・宗教の自由」について謳われています。今回の東京都の対応は子どもたちへの不当な圧力であり、管理の締め付け、人権の侵害だと言えます。日の丸・君が代の強制はダブルの子どもたちや外国籍の子どもたちのアイデンティティにもかかわること(同条約8条)であり、教室内で分裂を起こしかねない重大な問題です。

 目を世界に向けてみると、中東での戦争で二千万人もの子どもたちが難民となっています。紛争地域では兵士として働かされる子どもも増えています。南北問題が イラク戦争、テロとの戦争の根底に横たわっています。南北の経済格差は子どもたちの貧困、飢餓、人身売買、性的搾取などの原因にもなっています。しかし、 ある国々は南北の格差を縮める努力をするよりも、既得権益の確保のためには武力の行使さえしています。この文脈のなかで、日本政府は有事関連七法案を成立 させ、有事関連三条約を批准し、自衛隊は多国籍軍に参加するなどの既成事実を積み重ねて軍隊としての顔を持つようになり、あとは憲法9条を変えれば、日本は戦争の出来る国になります。あらゆる戦争は「女性と子どもへの戦争」でもあり、最大の犠牲を強いられるのは、女性と子どもたちです。このような時こそ平和憲法を堅持しなければなりません。

 「イエスに触れていただくために、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。しかし、イエスはこれを見て憤り、弟子たちに言われた。『子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。』」(マルコ10,13-14)
  イエスは一人の子どもの手を取って弟子たちの真ん中に立たせ、抱き上げて言われました。「私の名のためにこのような子供の一人を受け入れる者は、私を受け入れるのである。」(マルコ9,37)
  イエスは子どもたちを排除しようとする者に対して憤り、排除するのではなく、むしろ、子どもたちと真剣に向き合い、彼らの意見やサインを受け入れ、子どもたちから学ぶことを教えておられます。
  翻って私たち自身を見直してみましょう。私たちは子どもと真剣に向き合い、子どもたちの意見やサインを受け入れ、子どもたちから学ぼうとしているでしょうか。 子どもたちの自由や意見表明権を尊重しているでしょうか。ミサで、子どもを排除せず、子どもたちの参加する権利を認めているでしょうか。教会や地域の子ど もたち、特にダブルの子どもたち、難民、移住者の子どもたちは教育を受ける権利を保障されているでしょうか。まず、こうした自分たちの足元から見直してみ ましょう。
そして大人の見方ではなく、むしろ子どもたちの視点から世界の現実に目を向けてみる必要があるのではないでしょうか。子どもたちの声に耳を傾け、子どもたち の視点に立って、子どもたちの育つ環境を見直し、世界を見直してみましょう。私たち一人ひとりが見方を変えて自らを解放していくことが、大人にとっても暮 らし易い、平和な世界を作り上げていくことになるのです。
平和旬間に「子どもの権利に関する条約」をもう一度読み直し、家庭や教会、そして地域で身近な子どもたちの声を聞き、私たちに何ができるか話し合い、子ども たちと共に祈り、行動することができればと願っています。そして、今、犠牲になっている世界の子どもたちの幸せを神に祈り、子どもたちが幸せに育つことが できる世界になるよう、共に声をあげ、行動していきましょう。

2004年8月 平和旬間

日本カトリック司教協議会       
社会司教委員会      
委員長  髙見三明大司教
委 員  谷 大二 司教
委 員  松浦悟郎 司教
委 員  宮原良治 司教
委 員  菊地功被選司教



(参考資料)
子どもの権利に関する条約  条文1~40条(抜粋)



第一条 子どもの定義

この条約の適用上、子どもとは、一八歳未満のすべての者をいう。ただし、子どもに適用される法律の下でより早く成年に達する場合は、この限りではない。

第二条 差別の禁止

  1. 締結国は、その管轄内にある子ども一人ひとりに対して、子どもまたは親もしくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意
    見、国民的、民族的もしくは社会的出身、財産、障害、出生またはその他の地位にかかわらずいかなる種類の差別もなしに、この条約に掲げる権利を尊重しかつ
    確保する。
  2. 締結国は、子どもが、親、法定保護者または家族構成員の地位、活動、表明した意見または信条を根拠とするあらゆる形態の差別または処罰からも保護されることを確保するために、あらゆる適当な措置をとる。

第三条 子どもの最善の利益

  1. 子どもにかかわるすべての活動において、その活動が公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。
  2. 締約国は、親、法的保護者または子どもに法的な責任を負う他の者の権利および義務を考慮しつつ、子どもに対してその福祉に必要な保護およびケアを確保することを約束し、この目的のために、あらゆる適当な立法上および行政上の措置をとる。
  3. 締約国は、子どものケアまたは保護に責任を負う機関、サービスおよび施設が、とくに安全および健康の領域、職員の数および適格性、ならびに職員の権限ある監督について権限ある機関により設定された基準に従うことを確保する。

第四条 締約国の実施義務
締約国は、この条約において認められる権利の実施のためのあらゆる適当な立法上、行政上およびその他の措置をとる。経済的、社会的および文化的権利に関し て、締約国は、自国の利用可能な手段を最大限に用いることにより、および必要な場合には国際協力の枠組の中でこれらの措置をとる。

第五条 親の指導の尊重
締約国は、親、または適当な場合には、地方的慣習で定められている拡大家族もしくは共同体の構成員、法定保護者もしくは子どもに法的な責任を負う他の者 が、この条約において認められる権利を子どもが行使するにあたって、子どもの能力の発達と一致する方法で適当な指示および指導を行う責任、権利および義務
を尊重する。

第六条 生命への権利、生存・発達の確保

  1. 締約国は、すべての子どもが生命への固有の権利を有することを認める。
  2. 締約国は、子どもの生存および発達を可能なかぎり最大限に確保する。

第七条 名前・国籍を得る権利、親を知り養育される権利

  1. 子どもは、出生の後直ちに登録される。子どもは、出生の時から名前をもつ権利および国籍を取得する権利を有し、かつできるかぎりその親を知る権利および親によって養育される権利を有する。
  2. 締約国は、とくに何らかの措置をとらなければ子どもが無国籍になる場合、国内法および当該分野の関連する国際文書にもとづく自国の義務に従い、これらの権利の実施を確保する。

第八条 アイデンティティの保全

  1. 1.締約国は、子どもが、不法な干渉なしに、法によって認められた国籍、名前および家族関係を含むアイデンティティを保全する権利を尊重することを約束する。
  2. 2.締約国は、子どもがアイデンティティの要素の一部または全部を違法に剥奪される場合には、迅速にアイデンティティを回復させるために適当な援助および保護を与える。

第九条 親からの分離禁止と分離のための手続

  1. 締約国は、子どもが親の意思に反して親から分離されないことを確保する。ただし、司法審査に服する権限ある機関が、適用可能な法律および手続に従い、
    このような分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りではない。当該決定は、親によって子どもが虐待もしくは放任される場
    合、または親が別れて生活し子どもの居所が決定されなければならない場合などに特別に必要になる。
  2. 1にもとづくいかなる手続においても、すべての利害関係者は、当該手続に参加し、かつ自己の見解を周知させる機会が与えられる。
  3. 締約国は、親の一方または双方から分離されている子どもが、子どもの最善の利益に反しないかぎり、定期的に親双方との個人的関係および直接の接触を保つ権利を尊重する。
  4. このような分離が、親の一方ねしくは双方または子どもの抑留、拘禁、流刑、追放または死亡(国家による拘束中になんらかの理由から生じた死亡も含む)
    など締約国によってとられた行為から生じる場合には、締約国は申請にもとづいて、親、子ども、または適当な場合には家族の他の構成員に対して、家族の不在
    者の所在に関する不可欠な情報を提供する。ただし、情報の提供が子どもの福祉を害する場合は、この限りではない。締約国は、さらに、当該申請の提出自体が
    関係者にいかなる不利な結果ももたらさないことを確保する。

第一〇条 家族再会のための出入国

  1. 家族再会を目的とする子どもまたは親の出入国の申請は、第九条1にもとづく締約国の義務に従い、締約国によって積極的、人道的および迅速な方法で取扱
    われる。締約国は、さらに、当該申請の提出が申請者および家族の構成員にいかなる不利な結果ももたらさないことを確保する。
  2. 異なる国々に居住する親をもつ子どもは、例外的な状況を除き、定期的に親双方との個人的関係および直接の接触を保つ権利を有する。締約国は、この目的
    のため、第九条2にもとづく締約国の義務に従い、子どもおよび親が自国を含むいずれの国からも離れ、自国へ戻る権利を尊重する。いずれの国からも離れる権
    利は、法律で定める制限であって、国の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳または他の者の権利および自由の保護のために必要とされ、かつ、この条約において認められる他の権利と抵触しない制限のみに服する。

第一一条 国外不法移送・不返還の防止

  1. 締約国は、子どもの国外不法移送および不返還と闘うための措置をとる。
  2. この目的のため、締約国は、二国間もしくは多数国間の協定の締結または現行の協定への加入を促進する

第一二条 意見表明権

  1. 締約国は、自己の見解をまとめる力のある子どもに対して、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する。その際、子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される。
  2. この目的のため、子どもは、とくに、国内法の手続規則と一致する方法で、自己に影響を与えるいかなる司法的および行政的手続においても、直接的にまたは代理人もしくは適当な団体を通じて聴聞される機会を与えられる。

第一三条 表現・情報の自由

  1. 子どもは表現の自由への権利を有する。この権利は、国境にかかわりなく、口頭、手書きもしくは印刷、芸術の形態または子どもが選択する他の方法により、あらゆる種類の情報および考えを求め、受け、かつ伝える自由を含む。
  2. この権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ次の目的のために必要とされるものに限る。
    (a)他の者の権利または信用の尊重
    (b)国の安全、公の秩序または公衆の健康もしくは道徳の保護

第一四条 思想・良心・宗教の自由

  1. 締約国は、子どもの思想、良心および宗教の自由への権利を尊重する。
  2. 締約国は親および適当な場合には法定保護者が、子どもが自己の権利を行使するにあたって、子どもの能力の発達と一致する方法で子どもに指示を与える権利および義務を尊重する。
  3. 宗教または信念を表明する自由については、法律で定める制限であって、公共の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳または他の者の基本的な権利および自由を保護するために必要な制限のみを課することができる。

第一五条 結社・集会の自由

  1. 締約国は、子どもの結社の自由および平和的な集会の自由への権利を認める。
  2. これらの権利の行使については、法律に従って課される制限であって、国の安全もしくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳の保護、または他の者の権利および自由の保護のために民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も課することができない。

第一六条 プライバシィ・通信・名誉の保護

  1. いかなる子どもも、プライバシィ、家族、住居もしくは通信を恣意的にもしくは不法に干渉されず、かつ、名誉および信用を不法に攻撃されない。
  2. 子どもは、このような干渉または攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

第一七条 マスメディアへのアクセス

  1. 締約国は、マスメディアの果たす重要な機能を認め、かつ、子どもが多様な国内的および国際的な情報源からの情報および資料、とくに自己の社会的、精神的および道徳的福祉ならびに心身の健康の促進を目的とした情報および資料へアクセスすることを確保する。
    (略)

第一八条 親の第一次的養育責任と国の援助

  1. 締約国は、親双方が子どもの養育および発達に対する共通の責任を有するという原則の承認を確保するために最善の努力を払う。親または場合によっては法定保護者は、子どもの教育および発達に対する第一次的責任を有する。子どもの最善の利益が、親または法定保護者の基本関心となる。
  2. この条約に掲げる権利の保障および促進のために、締約国は、親および法定保護者が子どもの養育責任を果たすにあたって適当な援助を与え、かつ、子どものケアのための機関、施設およびサービスの発展を確保する。
  3. 締約国は、働く親をもつ子どもが、受ける資格のある保育のサービスおよび施設から利益を得る権利を有することを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。

第一九条 親による虐待・放任・搾取からの保護

  1. 締約国は、(両)親、法定保護者または子どもの養育をする他の者による子どもの養育中に、あらゆる形態の身体的もしくは精神的な暴力、侵害または虐待、放任または怠慢な取扱い、性的虐待を含む不当な取扱いまたは搾取から子どもを保護するために、あらゆる適当な立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとる。
  2. 当該保護措置は、適当な場合には、子どもおよび子どもの養育をする者に必要な援助を与える社会計画の確立のため、ならびに、その他の形態の予防のため、上記の子どもの不当な取扱いについての実例の認定、報告、照会、調査、処理および追跡調査のため、および適当な場合には、司法的関与のための効果的な手続を含む。

第二〇条 家庭環境を奪われた子どもの養護

  1. 一時的もしくは恒常的に家庭環境を奪われた子ども、または、子どもの最善の利益に従えばその環境にとどまることが容認されえない子どもは、国によって与えられる特別な保護および援助を受ける資格を有する。
  2. 締約国は、国内法に従い、このような子どものための代替的養護を確保する。
  3. 当該養護には、とりわけ、里親託置、イスラム法のカファラ、養子縁組、または必要な場合には子どもの養護に適した施設での措置を含むことができる。解決策を検討する時には、子どもの養育に継続性が望まれることに対して、ならびに子どもの民族的、宗教的、文化的および言語的背景に対して正当な考慮を払う。

第二一条 養子縁組
養子縁組の制度を承認および許容している締約国は、子どもの最善の利益が最高の考慮事項であることを確保し、次のことをする。
(略)

第二二条 難民の子どもの保護・援助

  1. 締約国は、難民の地位を得ようとする子ども、または、適用可能な国際法および国際手続きまたは国内法および国内手続きに従って難民とみなされる子ども
    が、親または他の者の同伴の有無にかかわらず、この条約および自国が締約国となっている他の国際人権文書または国際人道文書に掲げられた適用可能な権利を
    享受するにあたって、適当な保護および人道的な援助を受けることを確保するために適当な措置をとる。
  2. この目的のため、締約国は、適当と認める場合、国際連合および国際連合と協力関係にある他の権限ある政府間組織または非政府機関組織が、このような子
    どもを保護しかつ援助するためのいかなる努力にも、および、家族との再会に必要な情報を得るために難民たる子どもの親または家族の他の構成員を追跡するた
    めのいかなる努力にも、協力をする。親または家族の他の構成員を見つけることができない場合には、子どもは、何らかの理由により恒常的にまたは一時的に家
    庭環境を奪われた子どもと同一の、この条約に掲げられた保護が与えられる。

第二三条 障害児の権利

  1. 締約国は、精神的または身体的に障害を負う子どもが、尊厳を確保し、自立を促進し、かつ地域社会への積極的な参加を助長する条件の下で、十分かつ人間に値する生活を享受すべきであることを認める。
  2. 締約国は、障害児の特別なケアへの権利を認め、かつ、利用可能な手段の下で、資格ある子どもおよび子どもの養育に責任を負うものに対して、申請にもとづく援助であって、子どもの条件および親または子どもを養育する他の者の状況に適した援助の拡充を奨励しかつ確保する。
  3. 障害児の特別なニーズを認め、2に従い拡充された援助は、親または子どもを養育する他の者の財源を考慮しつつ、可能な場合にはいつでも、無償で与えられる。その援助は、障害児が可能なかぎり全面的な社会的統合ならびに文化的および精神的発達を含む個人の発達を達成することに貢献する方法で、教育、訓練、保健サービス、リハビリテーションサービス、雇用準備およびレクリエーションの機会に効果的にアクセスしかつそれらを享受することを確保することを目的とする。
  4. 締約国は、国際協力の精神の下で、障害児の予防保険ならびに医学的、心理学的および機能的治療の分野における適当な情報交換を促進する。その中には締約国が当該分野においてその能力および技術を向上させ、かつ経験を拡大することを可能にするために、リハビリテーション教育および職業上のサービスの方法
    に関する情報の普及およびそれへのアクセスが含まれる。この点については、発展途上国のニーズに特別な考慮を払う。

第二四条 健康・医療への権利

  1. 締約国は、到達可能な最高水準の健康の享受ならびに疾病の治療およびリハビリテーション上の便宜に対する子どもの権利を認める。締約国は、いかなる子どもも当該保険サービスへアクセスする権利が奪われないことを確保するよう努める。
  2. 締約国は、この権利の完全な実施を追求し、とくに次の適当な措置をとる。
    (略)

第二五条 医療施設等に措置された子どもの定期的審査
締約国は、身体的もしくは精神的な健康のケア保護または治療のために権限のある機関によって措置されている子どもが、自己になされた治療についておよび自己の措置に関する他のあらゆる状況についての定期的審査を受ける権利を有することを認める。

第二六条 社会保障への権利

  1. 締約国は、すべての子どもに対して社会保険を含む社会保障を享受する権利を認め、かつ、国内法に従いこの権利の完全な実現を達成するために必要な措置をとる。
  2. 当該給付については、適当な場合には、子どもおよびその扶養に責任を有している者の資格および状況を考慮し、かつ、子どもによってまたは子どもに代わってなされた給付の申請に関する他のすべてを考慮しつつ行う。

第二七条 生活水準への権利

  1. 締約国は、身体的、心理的、精神的、道徳的および社会的発達のために十分な生活水準に対するすべての子どもの権利を認める。
  2. (両)親または子どもに責任を負う他の者は、その能力および資力の範囲で、子どもの発達に必要な生活条件を確保する第一次的な責任を負う。
  3. 締約国は、国内条件に従いかつ財源内において、この権利の実現のために、親および子どもに責任を負う他の者を援助するための適当な措置をとり、かつ必要な場合には、とくに栄養、衣服および住居に関して物的援助およびかつ援助計画を行う。
  4. 締約国は、親または子どもに財政的な責任を有している他の者から、自国内においてもおよび外国からでも子どもの扶養料を回復することを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。とくに、子どもに財政的な責任を有している者が子どもと異なる国に居住している場合には、締約国は、国際協定への加入または締結ならびに他の適当な取り決めの作成を促進する。

第二八条 教育への権利

  1. 締約国は、子どもの教育への権利を認め、かつ、漸進的におよび平等な機会にもとづいてこの権利を達成するために、とくに次のことをする。
    (a)初等教育を義務的なものとし、かつすべての者に対して無償とすること。
    (b)一般教育および職業教育を含む種々の形態の中等教育の発展を奨励し、すべての子どもが利用可能でありかつアクセスできるようにし、ならびに、無償教育の導入および必要な場合には財政的援助の提供などの適当な措置をとること。
    (c)高等教育を、すべての適当な方法により、能力にもとづいてすべての者がアクセスできるものとすること。
    (d)教育上および職業上の情報、ならびに指導を、すべての子どもが利用可能でありかつアクセスできるものとすること。
    (e)学校への定期的な出席および中途退学率の減少を奨励するための措置をとること。
  2. 締約国は、学校懲戒が子どもの人間の尊厳と一致する方法で、かつこの条約の精神に従って行われることを確保するためにあらゆる適当な措置をとる。
  3. 締約国は、とくに、世界中の無知および非識字の根絶に貢献するために、かつ科学的および技術的知識ならびに最新の教育方法へのアクセスを助長するために、教育に関する問題について国際協力を促進しかつ奨励する。この点については、発展途上国のニーズに特別の考慮を払う。

第二九条 教育の目的

  1. 1.締約国は、子どもの教育が次の目的で行われることに同意する。
    (a)子どもの人格、才能ならびに精神的および身体的能力を最大限可能なまで発達させること。
    (b)人権および基本的自由の尊重ならびに国際連合憲章に定める諸原則の尊重を発展させること。
    (c)子どもの親、子ども自身の文化的同一性、言語および価値の尊重、子どもが居住している国および子どもの出身国の国民的価値の尊重、ならびに自己の文明と異なる文明の尊重を発展させること。
    (d)すべての諸人民間、民族的、国民的および宗教的集団間ならびに先住民間の理解、平和、寛容、性の平等および友好の精神の下で、子どもが自由な社会において責任ある生活を送れるようにすること。
    (e)自然環境の尊重を発展させること。
  2. 2.この条件または第二十八条のいかなる規定も、個人および団体が教育機関を設置しかつ管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、つねに、この条の1に定める原則が遵守されること、および当該教育機関において行われる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。

第三〇条 少数者・先住民の子どもの権利
民族上、宗教上もしくは言語上の少数者、または先住民が生存する国においては、当該少数者または先住民に属する子どもは自己の集団の他の構成員とともに、自己の文化を享受し、自己の宗教を信仰しかつ実践し、または自己の言語を使用する権利を否定されない。

第三一条 休息・余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加

  1. 締約国は、子どもが、休息しかつ余暇をもつ権利、その年齢にふさわしい遊びおよびレクリエーション的活動を行う権利ならびに文化的生活および芸術に自由に参加する権利を認める。
  2. 締約国は、こどもが文化的および芸術的生活に十分に参加する権利を尊重しかつ促進し、ならびに、文化的、芸術的、レクリエーション的および余暇的活動のための適当かつ平等な機会の提供を奨励する。

第三二条 経済的搾取・有害労働からの保護

  1. 締約国は、子どもが、経済的搾取から保護される権利、および、危険があり、その教育を妨げ、あるいはその健康または身体的、心理的、精神的、道徳的もしくは社会的発達にとって有害となるおそれのあるいかなる労働に就くことからも保護される権利を認める。
  2. 締約国は、この条の実施を確保するための立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとる。締約国は、この目的のため、他の国際文書の関連条項に留意しつつ、とくに次のことをする。
    (a)最低就業年齢を規定すること。
    (b)雇用時間および雇用条件についての適当な規則を定めること。
    (c)この条の効果的実施を確保するための適当な罰則または他の制裁措置を規定すること。

第三三条 麻薬・向精神薬からの保護
締約国は、関連する国際条約に明示された麻薬および向精神薬の不法な使用から子どもを保護しかつ、このような物質の不法な生産および取引に子どもを利用させないために、立法上、行政上、社会上および教育上の措置を含むあらゆる適当な措置をとる。

第三四条 性的搾取からの保護
締約国は、あらゆる形態の性的搾取および性的虐待から子どもを保護することを約束する。これらの目的のため、締約国は、とくに次のことを防止するためのあらゆる適当な国内、二国間および多数国間の措置をとる。
(a)何らかの不法な性的行為に従事するよう子どもを勧誘または強制すること。
(b)売春または他の不法な性的行為に子どもを搾取的に使用すること。
(c)ポルノ的な実演または題材に子どもを搾取的に使用すること。

第三五条 誘拐・売買・取引の防止
締約国は、いかなる目的またはいかなる形態を問わず子どもの誘拐、売春または取引を防止するためにあらゆる適当な国内、二国間および多数国間の措置をとる。

第三六条 他のあらゆる形態の搾取からの保護
締約国は、子どもの福祉のいかなる側面にとっても有害となる他のあらゆる形態の搾取から子どもを保護する。

第三七条 死刑・拷問等の禁止、自由を奪われた子どもの適正な取扱い
締約国は、次のことを確保する。

(a)いかなる子どもも、拷問または他の残虐な非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰を受けない。一八歳未満の者が犯した処罰に対して、死刑および釈放の可能性のない終身刑を科してはならない。
(b)いかなる子どもも自由を不当にまたは恣意的に奪われない。子どもの逮捕、抑留または拘禁は、法律に従うものとし、最後の手段として、かつ最も短い適当な期間でのみ用いられる。
(c)自由を奪われたすべての子どもは、人道的におよび人間の固有の尊厳を尊重して取扱われ、かつ、その年齢にもとづくニーズを考慮した方法で取扱われる。とくに、自由を奪われたすべての子どもは、子どもの最善の利益に従えば成人から分離すべきでないと判断される場合を除き、成人から分離されるものとし、かつ、特別の事情のある場合を除き、通信および面会によって家族との接触を保つ権利を有する。
(d)自由を奪われたすべての子どもは、法的および他の適当な援助に速やかにアクセスする権利、ならびに、その自由の剥奪の合法性を裁判所または他の権限ある独立のかつ公平な機関において争い、かつ当該訴えに対する迅速な決定を求める権利を有する。

第三八条 武力紛争における子どもの保護

  1. 締約国は、子どもをまき込んでいる武力紛争において、締約国に適用可能な国際人道法の規則を尊重し、かつその尊重を確保することを約束する。
  2. 締約国は、一五歳に満たない者が敵対行為に直接参加しないことを確保するためのあらゆる可能な措置をとる。
  3. 締約国は、一五歳に満たないいかなる者も軍隊に徴募することを差し控える。締約国は、一五歳に達しているが一八歳に満たない者の中から徴募を行うにあたっては、最年長の者を優先するよう努める。
  4. 締約国は、武力紛争下における文民の保護のための国際人道法にもとづく義務に従い、武力紛争の影響を受ける子どもの保護およびケアを確保するためのあらゆる可能な措置をとる。

第三九条 犠牲になった子どもの心身の回復と社会復帰
締約国は、あらゆる形態の放任、搾取または虐待の犠牲になった子ども、拷問、または他のあらゆる形態の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いも しくは刑罰の犠牲になった子どもあるいは、武力紛争の犠牲になった子どもが身体的および心理的回復ならびに社会復帰をすることを促進するためにあらゆる適
当な措置をとる。当該回復および復帰は、子どもの健康、自尊心および尊厳を育む環境の中で行われる。

第四〇条 少年司法
1.締約国は、刑法に違反したとして申し立てられ、罪を問われ、または認定された子どもが、尊厳および価値についての意識を促進するのにふさわしい方法で 取扱われる権利を認める。当該方法は、他の者の人権および基本的自由の尊重を強化するものであり、ならびに、子どもの年齢、および子どもが社会復帰し、か
つ社会において建設的な役割を果たすことの促進が望ましいことを考慮するものである。
2.締約国は、この目的のため、国際文書の関連する条項に留意しつつ、とくに次のことを確保する。
(略)

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